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リフレクト・ワールド(The Reflected World)

第二部 第三十九章 両翼の騒乱 【1】

 ←第二部 第三十八章 治美との再会 →Music Inspires The World !!!
 グランシュと紫雲が明日の午後に東京に来ると言う一報を伊勢谷が受け取った、その日の午後。
 新宿歌舞伎町の裏通りにある一軒のラーメン屋の二階にある一室。ここに今、六人の人物が畳の上に腰を下ろしていた。戸田治美、丸山七海、三浦賢治、伊勢谷公博、この場所を教えた多々良次朗、そしてトルソである。
 皆、一様にして黙りこくっていた。多々良は険しい表情で後頭部を掻きながら、また自身の知る全てを話し終えた七海と、それを横で聞いていた三浦は、二人して上目使いでトルソを見ながら、治美は目を伏せたまま、伊勢谷も全てを話し終えた後に口を真一文字に結び、トルソを横目で見詰めながら、そしてトルソは胡坐をかいた状態で下を見詰め、ふうと大きく吐息を漏らし、そして皆、続く言葉を出さずにいる。
 部屋の中には、階下で店主の初老の女性が料理を作る音、次いでテレビの大音声の二つだけがうっすらと響いている。
「とにかく、だ」
 最初に口を開いたのはトルソだった。
「貴方がたはこれ以上関わらないほうがいい。いや、関わっては危険だ。身を潜めていることだ」
 次いで多々良が言葉を放つ。
「だが、このお嬢ちゃん達は既に狙われたんだろう? 家に篭っていて安全だって保証があるのか?」
「丸山七海君と三浦賢治君は俺と離れないほうがいいな。一緒にいれば、それだけ俺も君達を守ることが出来る可能性が高い」
 伊勢谷が言う。
「守るったって……」
 三浦が重い口を開く。
「守るったって、ほんの少しの間だけ合間を保たせることが手一杯じゃないんですか? そりゃ、守って貰えるのは七海も俺もありがたいですけど……」
「七海ちゃんを守るのは君だ、学生!」
 伊勢谷が少し声を大にして言う。
「俺も出来ることはするが、最終的には好きな女を守るってのは彼氏だって相場だろうが。それ位の気合と根性、なくてどうする?」
 七海がおずおずと言う。
「あの……気合と根性でどうにかなる問題ですか?」
「あながち間違いではない」
 トルソが返す。
「あれは人の負の思念の塊だ。愛する者を守ろうとする気持ちは、奴にとって最大の盾になり、時には矛にもなる」
 三浦はちらりと七海の顔を見た。七海の心の中に存在する、自分以外の男。須藤一樹。そのことが三浦の脳裏をちくちくと突き始める。
「私達に出来ることは……何もないのかしら。祈ること以外は」
 治美が小さい声で言う。
「祈りの力を馬鹿にしちゃいけない」
 伊勢谷が治美に返す。
「人の想いの力ってのはでかい。それは俺が良く知っている。想いは愛情となり、人を救う力にもなる。また人を傷付ける怨念にもなる。祈りの力は大きい」
「そう……ね」
 七海が顔を上げる。
「何があっても、けいちゃんもおじさまも、必ず助かる。必ず戻ってくる。そう信じます、いいえ信じています、私」
「七海……」
 三浦が再び七海の顔を見やる。
「いや、それだけじゃ不十分だ」
 伊勢谷がきっぱりと言い放つ。
「何だって?」
 多々良がそれに返す。
「もう助かっている、もう帰ってきている、そう考えるんだ。不確かな、曖昧な形のまま祈るんじゃない。信じるのでもない。もう既にそうなっていると強く念じるんだ。その想いの形こそ最強なんだ。そして、この想いは現実となる」
 この伊勢谷の力強い言葉に、治美と七海は大きく頷いた。
「……で?」
 多々良が割って入る。
「これからどうするんだ? トルソ、あんた、その……誰だっけ? グランシュって奴と会う気は?」
「レグヌム・プリンキピス王政連合、女王アフェクシアに仕えし空間近衛騎士団の総隊長だ。私はその隊の副隊長である。グランシュ隊長がこの世界に来ているのなら、会わない道理がない」
「まあ、そりゃそうだが……」
「そして、そのハクザなる人物に憑いた異物を何とかせねばなるまい」
 トルソの言葉に、七海と三浦は顔を上げてトルソを見た。
「ど、どうやって……」
「先ずは奴をその御仁の肉体から引きずり出すことが先決だが……」
 伊勢谷が口を開く。
「俺も協力しよう。こっちに向かう予定の紫雲は、なかなかの手練れだ。俺と紫雲の二人の力を併せれば、微力であっても役に立つかもしれない」
「いや、そなたはここにいる者達を守って欲しい」
 トルソが制す。
「奴は……力を発揮していないだけかもしれぬが、あのシンジュクなる市街に危害を与えた『畏怖』と同類の存在だ。そなた達の力では、恐らく太刀打ちできまい」
 伊勢谷が口を再び真一文字に結ぶ。
「そんな相手から、『ここにいる者達を守って欲しい』って、あんたも酷なこと言うなあ」
「とにかく、だ」
 トルソが力を込めて言う。
「グランシュ隊長が明日、この町に来るのは間違いないのだな?」
「ああ、じゃあ刑事さんさ」
 伊勢谷が多々良に振る。
「あんた、このトルソを東京駅に連れてきてくれ。俺は先回りして警戒しておく。取り急ぎ結界を張って、余計な邪気が介入しないようにしておこう」
「結界、ね……」
 多々良は訝しげな表情を伊勢谷に向けつつも、こくりと頷いて返した。
「えっと……私、みん君と二人でいるの? それは嬉しいんだけど……」
 七海がおずおずと言う。
「でも何処に隠れてるの? パパには何て話せばいいの?」
「じゃあ、私の部屋に来るといいわ」
 治美が言った。
「丸山さんのお父さんには……そうねえ、児童心理学の現場実習ってことでいいんじゃない? 急に決まったけど、担当してくれる現場の女性アドバイザーの所に泊まらせて貰って、いろいろ勉強させてくれることになったとか何とか……」
「お、おい、治美! お前……」
「次朗? あ、大丈夫よ。えっと、丸山さんの彼氏は……」
「あ、俺は一人暮らしなんで、部屋を空けること自体はいいんですけど、でも……俺も、その、戸田さんと……?」
「なら大丈夫ね。彼女さんと一緒だし、私はまあ、大丈夫かなって思ってるんだけど?」
「でも……俺も一緒ってのは……その……」
「そうだ! 女二人の部屋にこんなでっかいのが一人入り込むってのは……」
 三浦の言葉に被せるようにして、多々良が半ば責めるような口調で割って入る。
「次朗、心配してくれるの?」
「あ、当たり前だろう!」
「みん君なら私が見てます。良からぬことはさせません、多々良さん」
「お、おい! 良からぬことって、お前さあ!」
 七海と三浦の言葉に場の空気が和んだ。
「じゃ、じゃあ、俺も行く」
「へ?」
 多々良の言葉に驚いた表情を見せたのは治美だ。
「お前と俺は一緒に暮らしていた仲だ。べ、別に構わんだろう?」
「あのねえ、私の部屋、そんなに広くは……」
「はいはい! 雑魚寝パーティーといきゃあいいじゃねえか! 『月九』のドラマみてえでいいんじゃあない?」
 そう言う伊勢谷を、トルソを除く四人がじろりと見る。
「あ、何か悪いこと言った?」
「とにかく、だ」
 トルソが三度目の『とにかく』と言う言葉を出す。
「全ては明日だ。 イセヤ殿、宜しく頼む」
「了解した」
 その時、階下から店主の女性の声がした。
「あんた達! 晩御飯まだなんでしょう? 良かったら下で食べていきなあ! 秘密会議が終わったらさあ!」
 更に場の空気が和み、六人はそれぞれに階下の店舗へと下りていった。

   ※ ※ ※ ※ ※

 多々良は急ぎ足で新宿市街地を歌舞伎町へと歩いていた。
 あの世から来たらしき「とんでもない」人物がもう一人増えることに、多々良は内心「勘弁してくれ」と言う心境でいた。事はますます妙な方向へ進んでいる、早くそこから抜け出したいと願いつつも、それが出来ないことに、多々良はジレンマに近いものを抱えている。
 何はともあれ、あのトルソを東京駅に連れて行かなくてはならない。公共交通機関で行くのは、周囲に余計な危険を及ぼさせるかもしれない。とは言え、車で向かっても、危険性が下がるわけでもなく、「まだマシか」と思う選択肢を多々良は選んだ。いざとなればサイレンを鳴らして「信号無視を公的に無視出来る」覆面パトカーを近くの有料駐車場に停め、多々良は徒歩で店へ向かっているところであった。
「この駐車代金、何処に請求しろってんだ、全く」
と独り言を呟いていた多々良の携帯電話が鳴った。あのラーメン屋の女性店主からだ。
「ジローちゃん!」
「何だ? あと、その『ジローちゃん』っての、いい加減に止め……」
「そんなこと言ってる場合じゃないよ! あの外人さん、飛び出して行っちゃったんだよ!」
「は?」
「血相変えて……新幹線の脱線事故のニュースを見たら急に……」
「何だって?」
 多々良は顔を上げた。すぐ近くにスタジオ・アルタがある。その外壁にあるスクリーンには、件の「のぞみ二二四号」の脱線事故の様子と、それに合わせてのテロップが流れていた。
 画面は切り替わり、横転した車両と、その外に立つ二人の人物が映る。その一方の人物の体から立ち上る、黒色のガス体がカメラの前に急接近し、ノイズが走る。その様子が何度となく流れていた。
 多々良はぎょっとした。
 あの新宿の惨状が今、再び画面の向こうで発生している。それを見てトルソは飛び出したのだ。
「あ、あの……馬鹿! あそこは都内じゃねえって言うのに……何をやろうってんだ!」
 多々良は女性店主の店へ向けて全力で駆け出した。

「奴だ」
 通りに飛び出したトルソは、それを睨むパラディン・アウグストと目が合った。
「あの時の!」
「Herzlich willkommen nach Tokyo, Herr Geist! (ようこそ東京へ、幽霊さんよ!)」
 アウグストは大声でそう怒鳴ると、つかつかとトルソへ歩み寄ってきた。
「ねえ、ちょっと……見張るんじゃなかったの?」
 アウグストの歩調に慌てて追い掛けるモイールが訊く。
「目的変更、か」
 次いでライアンが口を開く。
「そうだ。あの者を捕縛する!」
 アウグストはトルソに視点を固定したまま返した。
 その時、三人のパラディン達の合間を、一条の黒いものが三本、真っ直ぐに、まるで放たれたレーザー砲のように突き抜け、それはトルソへと向かっていった。
「!」
 トルソは咄嗟にその黒色の異物を避けた。三本の黒き「弾道」はゴミ収集用のコンテナに命中し、ごんと鈍い音を立てながら、コンテナを宙に巻き上げた。
 トルソも、三人のパラディンも、その異物の飛来してきた方向に視線を向ける。
 そこには箔座松太郎が、いや箔座の肉体に憑いた思念体が立っていた。
「やあ、見付けましたよ、金色の雑兵!」
 その目が赤く邪に光っている。
「な、何よ、あいつ!」
 モイールが叫ぶ。
「あれが……パラディン・ヴァンサンを葬った奴か!」
 アウグストは箔座をきっと睨み付けた。
「おや、どうやら貴方を捜していたのは、私だけではなかったようですね。何ですか、そこの烏のような黒い出で立ちのお三方は? 貴方の御友人ですか?」
 せせら笑うような口調で箔座が訊く。
 トルソは三人のパラディンや、その他通りを歩く者たちに向けて声を張り上げた。
「皆、ここから離れろおっ!」
 箔座の口が歪む。
「……甘い」

 歌舞伎町方面から悲鳴が聞こえ、何人もの者達が走り出してきている。多々良はそれを見て、
「ま、またか!」
と悲痛めいた叫び声を上げた。普通なら、いや普通と思われても困るのだが、こんな場合はその街区を縄張りとする者達同士の抗争でも勃発したのでは、と思われるかもしれない。だが、多々良には分かっていた。
 今、東はここ歌舞伎町、西は脱線事故を起こした新幹線の車両上にて、再び黒色の思念体が暴れだしたのだと。
 多々良は、トルソに手渡そうと思っていた布製の長袋の持ち手をぎゅっと握りしめて、再び走り出した。

   ※ ※ ※ ※ ※

 両断された取材ヘリコプターが、もんどりうちながら地上へ落ち、がしゃりと鈍い音を立てた。何が起こったのか分からないまま、駆け付けたレスキュー隊の各員も、状況把握のために慌てふためいている。そこに突如、黒色の「カーテン」が音を立てて地上を走り、泥や機材、隊員達を巻き上げた。
「貴様! 貴様の相手は我ではないのか? 関係なき者を巻き込むな!」
 グランシュは音のした方向を向き、次いでエウリミーニョをきっと睨んで吼えた。
「その憤怒、憎悪、敵意……んんう、いいねえ、それこそ俺の糧になるってもんだ!」
 口元を醜く歪ませ、エウリミーニョは、いやエウリミーニョの体を乗っ取った異物が言った。
「貴様……何奴か!」
 グランシュの問いに異物は答えた。
「何者でもねえ。だが、俺はお前だよ」
 エウリミーニョの体の周囲にゆらゆらと動いていた靄は、再び「槍」状の形へと変化し、渦のように回転しながら、高速でグランシュ目掛けて射出された。それをグランシュは脇へと飛び退いて避け、車両の横たわる泥の上へと飛び下りた。そして険しい視線を再びエウリミーニョへと向ける。
「そうさなあ……強いて名乗りゃあ『卑下』ってことになるか……糞みてえな名前だが、まあいい。この者のお前に対する憎しみや怒り、己の力が凌駕出来ないものはないと思い込んでいる自惚れっぷり、まさに劣等感の塊なのでね。俺の憑代(よりしろ)には丁度いい」
 不幸に苛まれたポルトガル人パラディンの体に憑く「卑下」は、ひらりと舞い上がり、重力を頭から無視したかのように、ゆっくりと、実にゆっくりとグランシュの対面へと下り立った。
「さあて、今頃はお前の捜している仲間もあっちで、俺の仲間が相手しているんじゃねえか?」
 この「卑下」の言葉に、グランシュの表情が一層険しくなった。
「何……だと?」
「あの『畏怖』をぶっ飛ばした雑兵かあ。だが、『畏怖』は……あの野郎は些かてめえ自身の力に酔っている節があったが。だが今回はどうだろうなあ?」
「貴様!」
「おいおい、先ずは己の身でも心配したらどうだってんだよ? 雑兵の長(おさ)よお!」
 そう言って「卑下」は右腕を一閃させた。ギロチンの刃の形となった黒色の靄が、高速でグランシュ目掛けて打ち出された。
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