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リフレクト・ワールド(The Reflected World)

第二部 第二十九章 リーガン・アブダイク 【16】 悲しみと絶望の深淵へ

 ←第二部 第二十八章 リーガン・アブダイク 【15】 唯一の対抗手段  →第二部 第三十章 リーガン・アブダイク 【17】 ソリタリー・シェル 【1】
 人が自然より生まれ出でし生き物であれば、自然を汚染している、人の出した化学物質や廃棄物、その他様々な物も自然の産物と言うことになるのかもしれない。だとすれば、人が抱く善意や悪意、様々な感情も自然の産物と言うことになるのではなかろうか。決して不自然なものと言うことにはなり得ないのではなかろうか。
 では、善意と悪意の違いは何か。人が生み出し自然物であるこの両者の違いは何であろうか。達さんとする目的を共通のものとしている意識に、善と悪の違いが生じるとするならば、それは何処で線引きされるのであろうか。そもそも善とは? 悪とは何か? 何を基準にして言っているのであろうか。多数派が良かれと思うものが善で、そうでないものが悪なのか。少数派の言い分はその時点で抹消され、理解されず、耳も傾けてもらえず、悪のレッテルを貼られた意識、価値観を持つ者が即ち悪であると言及されるのならば、そこに事実、真実と言うべきものはない。存在するものは単に解釈の違いだけである。大きく括れば、自然物の一つに過ぎないとする共通項でまとめられる。それが善意と悪意である、そう言い切って良いものであろうか。
 願いと呪いの違いは何か。望むものが共通であるとするならば、そこに生じた違いは、何を持って線引きされたものであろうか。発展性のあるもの、生産的なものが願いで、退廃的なもの、非生産的なものが呪いであると言うことなのか。多数派が納得し、共感するものが願いで、そうでないものが呪いなのか。
 黒色の異物と化した人の思い、意識、それらは受け入れられぬとする者が多いか少ないかで、悪意であり呪いであると解釈されているに過ぎないのではなかろうか。ただ、それも結局は、自然の産物であるということに過ぎないだけではないか。
 そもそも、自然は人間に対する一切の線引きなど持ち合わせていない。ただ無慈悲に徹するのみなのだ。温情さえない。

   ※ ※ ※ ※ ※

 リーガンの提言にベネウォレンチアはしばらく無言のままでいた。そして目を丸く開き、固く決意したリーガンの締まった表情を見つめた。
「リーガン、何と申した?」
「ですから陛下、私がその『核』へ行きます」
 玉座の脇に立つユベリウスも、その表情に表れた驚きを隠すこともないまま、じっとリーガンを食い入るように見つめていた。
「リーガン、それは無謀と言うものだ。君が、いや『そなた』があの異物の核へ赴くなど……」
「では、他にあのペインキラーの動きを止める方法があるのですか?」
 リーガンの声は落ち着きを払っている。
「動きを止める、とな? リーガンよ。如何にしてあの異物たちの動向を抑えると言うのです?」
 ベネウォレンチアが訊く。
 リーガンは軽く首を横に振った。
「正直に申しまして、分かりません。あそこに何があるのか、誰もご存じないのでしょう?」
「確かに。確かめる術もない。我々があの地へ近付こうとするだけで、我々は連中の奇襲に遭い、跡形もなく消されてしまうことでしょう。危険が大きすぎるのです」
「ならば陛下、このまま座していても、どのみちやられるのを待っているだけなのなら、私はそこへ行きます。そして……」
「そして? 如何にする?」
 今度はリーガンが無言になった。
「リーガン。勇気ある行動と無謀な行動とを履き違えてはならない。確かにそなたはあの異物を撃退した。だが、そのことで調子に乗ってはならぬ。あのようなことが次もまたあるとは言い切れない。そうなってからでは遅いのだ。我々ではそなたをあの異物から守ることは困難である」
 ベネウォレンチアの言葉が響く。無謀なことであることは、リーガンは百も承知である。そして、不安や怖れがないわけでは全くない。子供を奪い、仲間を奪い、それどころか、自身の住む世界そのものを殲滅した存在が相手なのだ。そんなことは、わざわざ他人に言われずとも承知している。
「私達に今最も必要なものは何でしょうか」
「え?」
 リーガンの問い掛けにベネウォレンチアは訊き返した。
「それは、状況に潰されないことです。絶望を退けることです」
 そう言うと、リーガンは語り始めた。
「私達はあまりにも多くのものを失いました。仰られる通り、それが私達の不徳極まりない行為が原因であることを否定は致しません。人が人を信じなくなり、受け入れなくなり、互いに傷付け、傷付けられ、疑い、牽制し、威嚇し、自らの弱さに蓋をして、自身を誤魔化し、虚勢を張り、誰の声にも耳を傾けず、そのくせ自身の声を聞けと力尽くで相手を捻じ伏せる……そうしたことと無縁でいようとする者は、全てに対し耳を閉ざし、口を塞ぎ、目を閉じ、ただ怠惰な毎日を送って、あらゆる事柄には無関係でいようと責任を放棄する……でも、そんな者達だけでもありませんでした。いや、たとえそんな者達であろうとも、皆、それなりに精一杯、自分の出来ることを行い、自分の役割を務め上げてきたんです……そう私は信じたい。その生き方が他からどう解釈されるかなど考えもしませんでした。そんな余裕はなかった……ただ、それがあのペインキラーを呼び寄せたのならば、それが必然であったのなら、私達の生き方は結局……何の評価にも値しないものだったのかもしれません。ですが、ただ一つはっきりしていることはあります。それは、皆守りたいものがあって、そのために生き、戦い、各々の命を紡いできたんです。たとえどれだけ不恰好であっても、それが私達一人一人の、それぞれの人生だったんです」
「それはここの人達にも言えるのではないですか? ユベリウスさんは言いました。今この世界を襲う災厄は、私達の一線を超えた汚れた行為、心が引き起こしたのだと。確かに私達の行いは看過出来得る限度を超えた、常軌を逸したものにまで成り下がったものだったのでしょう。私もそう思います。ただ、それが人間でしょう? 不幸を感じる人はなくなりません。全ての世界から貧乏な人や病気で苦しむ人などがなくなることは、可能か不可能かはともかくとして、望ましいことではあります。不幸な人もなくなれば、それはこの上ないことです。でも、こればかりはなくならない。悲しさや切なさ、虚しさ、苦しみの根源は、人が人として生きる以上、決してなくなることはない。なくなる時がない。ただ、それを糧に人は行動することが出来る。これが人にとっての救いだと私は思います。何かしらの恐怖や不安、苦痛、そうしたものから勇気が生まれたりもします。慰めや慈しみ、誰かを思う心も生まれたりします。その最たるものが愛情なのかもしれません。この愛情があるからこそ、これを支えにして人はあらゆる不可能と思われることへも挑んだり出来る。成長を求める。他の人を思い、共に歩んでいこうと決意し、行動出来る。人はそんな生き物だと私は信じています」
「私にとっての支えは、これまで支えてくれた仲間、出会ってきた人達、そして息子です。息子への愛です。これまで私はそれをないがしろにしてきた。私にとっての罰であり、試練が今の状況です。私はそんな状況に潰されるわけにはいかない。息子への愛をもう一度この手に掴み、全身で受け止め、そして息子を救い出すためにも、私はここで潰れてしまうわけにはいかないのです。このことはきっと、形を変えても、それぞれの人達にとって言えるのではないでしょうか。皆、守りたいものがある。愛する人がいる。今の厄わしき状況を何とかしたいと思い、願い、そして行動する人がいる。皆、この状況に潰されまいと懸命に足掻いている。私もそんな中の一人に過ぎません。私は行動したいと切に願っているだけです。怖れおののき、その場でじっとしていることは誰にでも出来ます。ですが、私はそうあってはいけないと思えてならないんです、陛下!」
「今目の前にあるこの絶望を退けなければならないのです。この絶望のおかげで私は気付きました。絶望は、いつもの景色を、いつもの毎日を、眩しく見せるものだと。私はこのことを絶望に教えられたのです。ならば……」
「もう良い、リーガン。分かりました」
 ベネウォレンチアはリーガンの言葉を遮った。その意思を、決意を知るにはもう十分であった。待っているだけでは事態は変わらない。時間はただ座しているだけでは何も解決してはくれない。どのように動いたかが全てを決めるのだ。時間はその行動に応えるのみである。
「して、核へは如何にして向かうのです?」
「場所を教えてください。それと、そこに行くための乗り物を一つお貸し戴きたいのです」
 ベネウォレンチアはユベリウスのほうを向いた。
「ユベリウス……小型艇はあるな? その中でも最も高速で動けるものをリーガンに預けなさい」
「陛下、それでは……」
 戸惑いの表情を浮かべるユベリウスから、ベネウォレンチアは再びリーガンに視線を向けた。
「リーガン・アブダイク。そなたの決意は私の内に十分届きました。よろしい。我々は全面的にそなたを援助しよう」
「……陛下!」
「リーガン。そなたに一つ頼みがある。私からの……レグヌム・プリンキピス王政連合首長国女王ベネウォレンチアからの勅命である」
「勅命、ですか?」
「左様。生きて戻ってくるのです。そなたは決して死にに行くのではない。そなたの息子をその手で救い、そしてここに戻ってくるのです。いいですね?」
 リーガンはベネウォレンチアの目を見つめた。その目は優しく、しかし悲しみの色を帯びている。
「……分かりました」
 そう返事をしたリーガンにとって、それが叶わぬ約束になるやもしれないことは十分分かっていた。きっとベネウォレンチアもそれを承知していての「勅命」なのだろう。だが、それでも愛する息子のために、むざむざ命を捨てるつもりはない。今はベネウォレンチアに返した言葉が嘘にならないことを願うしか出来ない。

 エマーソンはベッドに腰を下ろし、一枚の写真を見ていた。そこには一人の愛くるしい笑顔を浮かべた女性が写っている。婚約者だったシャナン。エマーソンの子供を身ごもっていた愛する女性。エマーソンはその写真をずっとポケットに入れ、肌身離さず持っていた。皺くちゃになり、変色したその写真が、エマーソンの心の支えであった。戦争で出兵し、会えなくなってから後、あのペインキラーによる災厄が世界を襲った。そのまま二人は再会することなく、そして世界は消滅した。エマーソンはペインキラーを、自分が出兵することになったきっかけである戦争を、そして何も出来ずにいた甲斐性のない自分自身を、全てを呪い、恨んでいた。だが今は違う。エマーソンにとっての心の支えは増えていた。リーガンの存在だ。エマーソンは自分でも気付いていた。シャナンに出来なかったこと、見ぬまま永遠の別れを告げた、生まれ出ることのなかった子供に対して出来なかったこと、それをリーガンにしようとしているのは、それはリーガンにシャナンや子供の姿を投影していたからだと。だが、その心境も今では変化していた。投影された姿ではない、リーガンという個人を、リーガンという一人の女を、エマーソンは守りたいと思っていた。リーガンの身に何かが起こるのは想像もしたくない。我慢出来ない。だが、決意で以って行動しようとするリーガンを止められない。ならば、全力でリーガンを庇い、守りたい。自身の傍にいて、共に苦難をくぐり抜け、共に言葉を、意思を、思いを交わし合い、時には心を癒してくれたリーガン・アブダイクに対し、エマーソンは今愛情を覚えていた。一方通行であることが少なくない、自身の気持ちのみを押し付けがちにもなる恋心とは違う。恋よりも一歩先へと進んだ感情だ。リーガンを無条件で守りたい、失いたくないとする強い情動がエマーソンを突き動かしている。生き残った人類が自身とリーガンの二人きりだという事実を度外視し、今エマーソンの心の内は、リーガンに対する献身の思いの炎がたぎっている。その思いから、エマーソンは迷わずにリーガンに言った。
「俺も行く。君と共に」
 エマーソンの決意はその言葉に、そしてエマーソンの瞳に如実に表れていた。リーガンはそれをすぐに悟った。
「フリッツ。ありがとう」
 そして二人は心の底からお互いを求め合った。互いの体温を肌で感じ合った。

   ※ ※ ※ ※ ※

「私の高速艇を使うといいわ」
「貴女の?」
「ええ。私は副隊長のフェイ。フェイ・ウェリタスよ。私の船『ウェリタス』はこの『義勇団』の所有する船の中でも一番速いのよ。まあ、一番小型でもあるけれど、その分小回りは申し分ないから」
 巻き毛が特徴的な髪を軽く揺らしつつ、フェイは言った。
「ありがとう」
 リーガンは礼を言った。
「私ね、実は赤ちゃんがいるの」
「え?」
「この騒動が収まってくれたら、私は除隊して結婚するつもりだったわ。あ、『だった』って言うと過去形になっちゃうわね。結婚するの。そして……田舎のティキオスに帰って、農業を営みながらゆっくりと暮らしたい。何も贅沢なんてしなくていいから、親子で睦まじく暮らしていきたいの」
「そう……」
「貴女の、息子さんだったわね、貴女の好きになった相手との愛の結晶、必ず取り戻して」
 フェイはそう言うと、リーガンの両手を自身の両手で力強く握り締めた。
「ありがとう、フェイ」
 礼を言うリーガンに、フェイは顔を近付けると、大人しめの声で言った。
「女ってさ、男に騙された時って、腹は立つけど意外に我慢出来たりもするのよね。でも、自分の愛を踏み付けられたら、黙っちゃいないもんよ」
 リーガンはくすりと笑った。
「貴女の中の絶望、ひっくり返してやって。それは私達の希望にも繋がる……」
「ええ、フェイ。必ず」
 そして二人はハグを交わし、リーガンとエマーソンは小型高速機動艇「ウェリタス」へと乗り込んでいった。当初、ユベリウスも共に行くことになっていたのだが、それをリーガンは固く断った。
「これは私の、私とエマーソン二人の役目よ。ユベリウスさん……いえ、クランガンさん。貴方は貴方の果たすべき役割を果たしてください」
 リーガンのこの言葉はその後、ユベリウス、いやクランガンの心の内にずっと生き続けることになった。そして、リーガンについての記憶は言葉となり、それは後々になって、曾孫となるグランシュへと伝えていくことになる。
 リーガンとエマーソンの手元にはパラシュートが二人分あった。爆発炎上し墜落した「スピリット・オブ。ニューヨーク」の残骸の中に、奇跡的に無傷で残っていたもので、この出発の前、二人がユベリウスの船で現場へと赴き、そこで回収したのであった。無残に砕け散った機体の中には、シュウの姿はなかった。無数に飛び散った破片の中で、シュウを思い出させるものはただ一つ、これも発見出来たのは奇跡的なことなのだが、シュウの名前が刻まれた認識票だけであった。今、その認識票は「ウェリタス」の操縦桿に掛けられている。
「シュウ。私達を守って。力を貸して……」
 そう願いながら、操縦桿を握るエマーソンの手に、リーガンは自身の手を重ね置いた。
「リーガン、行くぞ」
 エマーソンが言う。
「ええ」
 リーガンが返す。力強く。
「高速艇『ウェリタス』、発進する」
 エマーソンが頭に掛けたインカムに告げた。空間近衛騎士団艦隊本部から、離陸の許可が返されてくる。
 機体はゆっくりと、宮殿の傍にある湖から垂直上昇をし始めた。そして、ある程度の高度に達すると、推進エンジンから炎を噴き出し、見守るベネウォレンチアやユベリウスの視界から飛び去っていった。

 宮殿より東へ約一八、〇〇〇ミル、二人の使い慣れた単位を用いて一八、〇〇〇キロ、約一一、一八五マイル。この高速艇の最高速度は約マッハ二。気温や気圧にもよるが、約五時間で目的地に到達する計算になる。二人の乗る「ウェリタス」はその最高速度で飛行を続けていた。当初二人はお互いに何も言葉を発さないでいた。そんな気になれなかったのだ。ところが、ふとエマーソンがこんなことを言い始めた。
「俺さ、マライア・キャリーが好きだったんだ」
「え?」
「マライア・キャリー。いや、好きと言っても、彼女の歌う何曲かが好きってところだから、厳密にはファンと言うほどではないかな」
「そう。私も嫌いじゃなかったかな。でも、専ら私の聴くものは変わってたけど」
「へえ、何を聴いていたの?」
「プログレッシブ・ロックよ。かなり昔のね。懐メロだわ。ジェネシスとか、イエス、レ・オルメ、ハードになるとクイーンズライチ……とか?」
「ほお、猛々しいね」
 飛行をし始めてから初めて、二人は笑い合った。
「フリッツが一番好きなマライアの曲って何?」
「そうだなあ……『ヒーロー』かな?」
「私も知ってるわ、それ」
「ああ。何か負けそうになったら、しょっちゅう聴いていたっけ」
「いい曲だったわね」
 すると、操縦桿を握り締めたまま、エマーソンはその歌を口ずさみ始めた。

 So when you feel like hope is gone
 Look inside you and be strong
 And you finally see the truth
 That a hero lies in you

 ……だからもし、貴方が絶望を感じた時は
 貴方の心の内を見つめてみて。そして気を強く持って欲しい
 そうすれば、貴方は真実を知ることになる
 救いのヒーローは貴方の心の内にいるのだってことを

「We've already seen the truth that a hero lies in us.」
 リーガンは言った。
「So we're moving now, as this hero guiding us.」

『私達の心の内に救いのヒーローがいることはもう分かっている。だからこそ、そのヒーローの導くままに私達は今動いている。』

 二人の乗る「ウェリタス」の遥か下方、地表に当たる部分は漆黒に染まっている。それは雲の切れ間から窺うことが出来た。その地表はやがて、地盤の存在しない、巨大な、途方もなく巨大な、端さえ全く見えぬ巨大すぎる空洞となり、二人の足下でぽっかりとその口を開け始めた。
「ペインキラー、姿を現さないわね」
 リーガンが呟く。
「きっと俺達を待っているのさ。そこで何を見せ付ける気なのか……」
「それが何であれ、私達は……」
「……見えた!」
 エマーソンが声を上げた。
 二人の視線の先には、ぼんやりと青く輝く異様な物体が宙に浮かんでいた。まるでサンドロ・ボッティチェッリがルネサンス初期に描いたフィレンツェ派の名画、“La Nascita di Venere”、「ヴィーナスの誕生」にて、女神ヴィーナスが立っていた貝殻を彷彿とさせる物体。だがそこにあるものは女神の誕生を意味するものではない。絶望の生産拠点である。
 突然、機体を激しい衝撃が襲い、二人は前へと力任せにつんのめった。「ウェリタス」は最高速度から、あまりにも暴力的な力で急制動を掛けられたのである。二人は窓の外を見て愕然とした。姿を全く見せないと思っていた黒い異物が機体を取り巻いている。いや、機体をぐるぐる巻きにしているのだ。異物が生み出す高圧力で以って、「ウェリタス」の推進エンジンは潰され爆散した。機体を震動が襲う。
「畜生! 何だってんだ! 操縦桿が全く動かない!」
 エマーソンが叫んだ。
「……引きずり込まれている!」
 リーガンも声を上げた。
 今、「ウェリタス」はその機動力を全て止められ、異物たちの思う方向へと引っ張られていた。黒き異物……ペインキラーは二枚の貝殻上の物体の内側へと、そしてその中にある「闇」の中へと、二人を誘(いざな)っていった。

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