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リフレクト・ワールド(The Reflected World)

第二部 第二十二章 ペンローズ・ステアーズ

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 暑さも寒さも感じない。風が頬に当たって流れていくのは感じられるのだが、その風が乾いているのか、湿り気を帯びているのかさえも分からない。歩けば、その地面の感触は感じられる。勾配を上り下りする時に掛かる足への負担も感じられる。だが、やはりこれまで住み慣れた世界と比べると、何かしら感覚的に欠けたものがあり、それは気持ちを落ち着かせない。妙な違和感が付きまとう。
 いや、それも仕方ないのかもしれない。本来、こうした風や踏みしめた地面の感触というものは、グランシュには感じられない筈のものだ。物質を組成する構造が全く異なるこの体では、今訪れている世界の万物に触れることなど叶わないことである。それを可能にさせているものは、思念体である体を持つグランシュが精神集中しているが故である。トルソやシュナ、ヴィクセン達が同様にして、須藤の住むマンションの上層階へ赴き、その床を踏みしめ、写真立てを手にし、そしてトルソが須藤の手を握ったと言うことは、グランシュの知らぬところではあったが、それでも気を落ち着け、精神を集中させることで、ある程度までの物質組成を「類似」させることは出来た。故に、エウミリーニョや紫雲と言葉を交わせ、紫雲の案内する車に乗り、その座席に腰を下ろし、山道を走って中腹まで来て、そして車から降り遊歩道を歩くことが出来ている。自身の纏う甲冑が互いに触れ合う金属音と共に、その足で歩く際の足音までもが聞こえる。それ以外には、自身の息遣いに、周囲の木々の間から響く虫の鳴き声が、今ではグランシュの鼓膜を揺さぶっている。
「このけたたましい泣き声は何です?」
「ああ、これは蝉です。夏になると多くの蝉がこうして鳴いているのです」
 グランシュには「蝉」という言葉が「achetas」として聞こえ、脳で捉えていたが、はて似たような生き物がエリュシネやその周りにいたのだろうか、と薄ら疑問に感じていた。この世界では今は夏らしい。エリュシネにも四季はある。夏特有の日差しの強さは、目を通じて感じられるものの、その暑さは分からない。精神集中の度合いがまだ不十分なのであろう。しかし、この世界に着いたばかりのグランシュにとっては、まだ戸惑いに似た感覚を拭い去れていない。きっとそのせいであろう、とグランシュ自身も考えていた。
 二人は奥比叡ドライブウェイ沿いにある横川(よかわ)と言う場所で車を降り、森の中に伸びる道を歩いていた。左手に池を見、その先にある二又の道を右折して、更に億へと進んでいる。クマゼミの騒々しい鳴き声と共に、雉らしき鳥の鳴き声が交じる。眩しい日差しは木々の葉や枝に遮られ、多少は柔らかくなって地面に降り注いでいる。更に行くと十字路が現れた。鐘桜(しょうろう)と呼ばれる建築物を背にして右折し、その先にある二又を右へと入っていく。
 目の前にこじんまりした建物が現れる。
「ここは恵心堂(けいしんどう)と言います。この中には関係者以外は立ち入り出来ません」
 恵心堂とは延暦寺の中の一施設で、恵心僧都源信(えしんそうずげんしん)と言う、平安中期の僧の旧跡とされている。阿弥陀如来を祀った、念仏三昧の道場である。ここで源信は、多くの仏教の経典等から極楽浄土に関する重要な文献を集めた仏教書、「往生要集」や、平安中期に結成された念仏結社「二十五三昧会(にじゅうござんまいえ)」のために「二十五三昧式」という書物を作成している。これらは後の浄土宗ならびに浄土真宗等の源となる日本浄土宗の基礎を築いたのである。
 二人は恵心堂の脇を通り抜け、その裏手に回り込んだ。小さな裏木戸がある。紫雲はその木戸に掛かる錠を外すと、中にあるもう一枚の観音開きの戸を、やはり南京錠を外して開き、
「どうぞ」
とグランシュを招き入れた。
 グランシュは進もうとしたが、そこに空気の「壁」を感じられ、先に進むことが困難であった。目の前には何もない。いや、微妙に空間が部分的に丸く歪曲しているように目に映る。
「ああ、結界が張ってあります。ですが、貴方ならそこをくぐり抜けられる筈です。気をしっかりお持ちなさい。さすれば抜けられましょう」
 紫雲が言う。グランシュは目を閉じ、ゆっくりと一度呼吸をすると、その「壁」を全身でぐいと押し込むように進んだ。体の前に張られた「壁」とも「膜」とも感じられたものは、するりとグランシュの体をすり抜けていった。
 その戸の奥には、幅の細い階段がつづら折りになって、下へと伸びている。グランシュは紫雲の後について階段を下りていった。低い天井には蛍光灯が点いていて、白色光を放って周囲を照らしている。
 階段の先は小さな土間になっていた。裸電球の明かりがぼんやりと光っている。
「ここからは土足では困るのですが……」
 紫雲は戸惑った表情を浮かべた。彼からすれば、幽霊に靴を脱いで上がってくれと言っているようなものなのだ。
「そうか。承知した」
 グランシュは一つ返事で承諾すると、重々しい音を立てつつ金属製の靴を脱いだ。足下に些かひんやりした感じが伝わってくる。その感覚にグランシュは少しの安堵感を得た。多少なりとも、この世界に「実感」を感じられた気になったのだ。
「では……」
 紫雲は目の前の障子戸を開けた。紙で出来た戸にグランシュは驚きを覚えた。まるで外国人観光客が初めて障子戸を見た時と同じである。障子戸の向こうには左右に長い廊下が伸びており、そこを二人は右へと進んでいった。ここに下りてくる途中の階段は、蛍光灯で照らされて明るかったが、この廊下は右も左も真っ暗であった。だが、二人の行く先に白い明かりが見える。そこに到ると、グランシュは「外」を見た。木々の生える庭があり、日差しが差し込んでいる。蝉も鳴いている。庭の向こうには木の柵があり、更にその向こうには切り立った崖がある。この廊下は崖の中腹辺りに貼り付くようにして設けられていることに、その時グランシュは気付いた。
 木々の緑に差し込む日光、蝉や鳥の鳴き声が聞こえる中、庭は手入れが行き届いており、その整然とした、それでいて自然の時の姿を洗練された形で残している。その光景の美しさに、グランシュは息を呑んだ。
「美しい……」
 思わず漏らした声を紫雲は聞き、「ありがとうございます」と一言礼を述べた。

 二人は一枚の障子戸の前で立ち止まった。紫雲はそこで正座し、頭を垂れた。
「靖徳様。御客人をお連れ致しました」
 紫雲の呼び掛けた中から、「お通ししなさい」と声が聞こえる。紫雲が両手で障子戸を開けた中には、一人の僧が座っているのをグランシュは見た。ほっそりした面持ちの、五十歳頃の男性である。掛けている眼鏡の奥からは、細くも穏やかな両の目が覗いている。紫雲の白装束とは打って変わり、黒色の目立つ僧衣に身を包んだ靖徳は、その穏やかな視線をグランシュに向けて言った。
「ほう、西洋甲冑姿とは……予想しておりませんでした」
 靖徳は目付きと寸分違わぬ穏やかさを伴った声で言った。そして、
「お入りください、騎士殿」
とグランシュに呼び掛け、一枚の座布団を勧めた。
 藁で整然と編まれた床の上に、一枚の平べったいクッションがある様子を見たグランシュは、これも文化の違いであろうと思い、「失礼致します」と一言告げ、座布団の上に胡坐を組んだ。
「私の名は靖徳。この寺にて修験僧達を取りまとめております」
 靖徳の言葉に続いて、グランシュも紫雲にしたのとほぼ同じ自己紹介をした。
「レグヌム・プリンキピス……御仏のおられる国の名前としては、些か私達には想像もしていなかったものですね」
「我々の世界では、この世界で崇められているありとあらゆる神々について、情報として捉えております」
「情報、ですか」
「神と言うものは人の心の中にいるもの。それは可能性であり、希望であり、人が人を想い慕う心……そのように考えられておりますが故」
「そうですか」
 靖徳はそう答えると目を閉じた。そしてゆっくりと口を開く。
「貴方がたの世界では……御仏はおられないということですか?」
「それはこの世界で信じられ、崇められている形そのままの神仏という意味では存在しない、と答えさせて戴きましょう。ですが、先程も申しましたが、人の心には各々『奇跡』とされる潜在力がある。この力が発揮される時、そこには、時には人の力、智を超えた何かが存在し、それが働き掛けていると思われることがある。それは全て己自身の心の力の成せるもの。信じ、敬い、愛し、慈しむ心が成せるもの。奇跡の力の源となるそれらの心が、言うなれば『神仏』に値するものでありましょう。全ては人の心が動かし、作り上げていく。その時『奇跡』『偶然』は『必然』となる……神仏は形を変え、各々の人の心の内に存在しているのです。それが私のいる世界です」
「成程」
 靖徳は変わらぬ穏やかな視線をグランシュに注いでいた。
「それだけではありません。光ある所に必ず闇があるように、我々の世界にも邪なものは存在しております。そうした心とは相対する、禍々しきものも……」
 グランシュのこの言葉に、靖徳は顔色一つ変えず聞き入っている。 
「私は、いや我々は、そのような存在と戦い、この世界に落ちてきた仲間を追ってやって参りました」
「お仲間、ですか」
 靖徳の口調は相変わらずゆっくりと静かなままである。
「その……邪な存在とは如何なるものなのでしょう?」
「これも人の心が呼び起こしたものだと考えております。怨恨、憤怒、強欲、羨望……あらゆる人の負の感情がそれらを招き入れ、そして一人歩きを始めている。今、我々の世界はそれらの存在による脅威に晒されている」
「何と……」
 靖徳は視線を障子戸のほうへと向けた。外からの光で障子の紙が白く輝いているように映る。
 グランシュはアフェクシアから聞いていた話を思い出し、口にした。
「我々の世界とこの世界は、絶えず人の心で繋がっています。この世の者の心が清く、慈愛に満ち、互いを思いやるものであれば、それは清流の如く我々の世界にも流れ込み、潤いをもたらします。そして、その逆であれば、我々の世界は混沌に包まれ闇が覆っていく……そしてこの循環は再びこの世に到り、闇も更に増していくのです。こうして二つの世界は、良くも悪くも、お互いを反映し合っている……」
「貴方は人と言うものをお分かりになられていない」
 靖徳の言葉に、グランシュは不意を突かれた気になった。
「人が人であればこそ、弱さもあれば怖れも、憎しみも悲しみも、怒りも妬みも感じるものです。そしてそれは人の永劫なる罪でもあります」
 靖徳の背後に掛けられている、阿弥陀如来の掛け軸がグランシュの目にふと映った。
「心清浄なるが故に世界清浄なり。心雑穢なるが故に世界雑穢なり」
 靖徳は目を閉じて言った。
「世界の清浄であることは人の心による。国土の浄不浄はそこに住む人の心によって決められる、という意味の言葉です」
 靖徳は再び目を開け、グランシュを見据えた。
「ここ比叡山は様々な仏教を学ぶ場であり、その目的は護国安穏でありました。ここで私達の信仰する仏教の宗派の違いをお話しするつもりはございません。あまりにも複雑多岐なのですから。そうしたものの中には『浄土』なるものがあります。浄土とはこの世、穢土(えど)とは真逆のものです。『厭離穢土(おんりえど)』という言葉がありましてね。この人の住まう世を『穢れた(汚れた)国土』『穢国(えこく)』とし、それを厭い離れるという意味です。そして阿弥陀如来……私の後ろにおられるこちらですね、この御仏のおられる極楽世界は清浄な国土であり、そこでの往生を切望するという意味もございます」
「……」
 グランシュは無言で返す。
「そして浄土……これは精神的に何らの潤いを感ずることのないこの世、穢土に対し、清浄で清純な世界を言います。まさしく御仏の国であり、浄土とは仏国なのです」
 靖徳は一つ息を吐いて続ける。
「……とは言いましても、正直私も、この寺の僧達の誰も、その浄土を見て体験した者はおりません。この世で生を全うしない限り無理ですからね。ですが、人のそうした切望が浄土という考えを生み、潤いを求めてきたのです。人が人であるが故の辛苦からの解放を求めているのです」
 靖徳はグランシュの目をじっと見る。
「グランシュ殿、貴方のおられる世界で人は如何様にしているのです?」
「と言われますと?」
「神仏の存在しない世界、神仏的存在は人の心の内にあるものとされる世界において、民は如何様にして暮らしておられるのでしょう?」
「人は生まれ……この世界の視点から申せば、転生して再び新たな生を受け、育ち、親ともなれば子を育てる。子は学び、成長して働き、愛する妻や夫、その間に生まれた子供や家族を養い、各々の人生を送っております。それはこちらとて同じでしょう。そして老いていく」
「老いの先は?」
「再び死を迎え、そしてこの世界へと転生する。その繰り返しです」
「そしてそのような輪廻で、二つの世界を人の命は往来していると?」
「人だけではありません、全ての生命がそうです」
「であるならば……来世の人もこの世の人と同じ、様々な心にて人生を送っているのですね?」
「その心の輪廻が二つの世界を繋ぎ止め、循環している……」
「ならば、人として生きている以上、そこには強さもあれば弱さも、優しさも慈しみもあれば、怒りや哀しみ、妬み、憎しみ、様々な負の感情も存在することでしょう」
「……」
「この世の者だけではない、来世の者もまた様々な想いや心を持って生きているのであれば、この世の者の心の清浄さや汚れが貴方の世界に影響しているという一方通行な関係ではありますまい。その逆も然り。また、己自身が自身の住む世界に影響を及ぼしているということもあるのではないですか?」
 グランシュは言葉を出せなかった。この世界の人の心の汚れが、自分の住む世界を汚すという関係だけではない。その逆もある。また、そこに住む者の心の汚れが、自ら住む世界を汚しているということもあり得る、靖徳はそう言っている。
 だからこそ、心の汚れを生まぬよう、グランシュの世界では教育や躾が成され、また中途転生者に対する「ススティネーレ政策」が国策として施行されている。
「陰を一掃された、加工された感情が残るのみです」
 ススティネーレ政策のことをトルソはそう言っていた。
「負の感情を忘れたものが如何にして正の感情の力を発揮することが出来るのでしょう?」
 トルソの言葉が脳裏をよぎる。
 レグヌム・プリンキピスを始めとするグランシュの世界、来世では、人為的に人の自然な心の流れ、感情の動きを操作し、負の側面を抑え込んできている。それはセンチュリオン達に対する抑制策であり、そして悪しき心の流れを断って、この世界に悪影響を及ぼさせないがためである。
「貴方は人というものをお分かりになられていない」という靖徳の姿が、グランシュにはトルソと被って見える。
「ならばどうせよと……」
 グランシュは思わず言葉を漏らした。トルソに言われて以来、心の中にジレンマとして存在する「人の自然たる姿」と、それを放置することでセンチュリオン達を呼び起こしてしまう、混沌を招き入れてしまう、そうしたことへの怖れの二者。だが、自分は女王アフェクシアに仕える身であり、それは即ち、アフェクシアの定めし国策を遵守するということでもある、とグランシュは信じている。
 しかし、それでもセンチュリオンの手下達は活動を始めてしまっている……
「受け入れること、ではないかと私は思います」
 靖徳は静かに言った。
「勿論、負の心を受け入れることで、負に染まる必要はありません。人が人として生きる以上、そうした負の思いや感情を抱くことは避けられないでしょう。それをあってはならぬものとして抑えたり、退けたりせず、そのまま自然のままに受け入れる。そして、それに対してどう接するべきか、どう対応すべきかを考え、行動し、乗り越え、前へと進んでいく。人はそのようにして生きていくものではないでしょうか。ネガティブを理解出来ぬ者は、真にポジティブに生きることなど出来ないものですからね。まあ、これは……御仏の教えとは些かニュアンスが異なるやもしれませぬが……人の心の内に御仏がおられるのであれば、その心が人をお救いくださることでしょう」
 靖徳は続ける。
「御仏の力に縋るというのは他力本願だという言い分もありますが、その御仏の住まう心の力で人が生きる、生かされるのであれば、それは自力本願であり、また他力本願でもある。元々、私達の天台宗は御仏に縋る他力本願的性格がありますからね。そんなことを申せば叱責を受けるのでしょうが」
 靖徳は若干戸惑ったような笑みを浮かべながら言った。
 アフェクシアは話していた。「センチュリオンとは戦うこと勿れ」、そのように書物には記されていた、と。それは負の心、心の陰には抗って打ち消そうとするのではなく、受け入れた上で、それを更なる正、陽の心で理解し、踏まえ、そこからどうすべきかを前向きに捉えることで「浄化」せよと言うことなのか。そう思うと、ふとグランシュは頭の中の雲が晴れたような気になった。
「そうか……そういうことなのか… 」
 グランシュは呟いた。センチュリオンの一族に対抗する術とはこういうことだったのか、そう思った時、再び靖徳が口を開いた。
「それによって初めて、心を巡るペンローズ・ステアーズ……無限階段から人は救われるのかもしれません。後は、処まで己を律しながら、潰されずにそうした負の存在に歩み寄れるかに掛かっているやもしれません」
 負に、陰に、闇に染まらず、それでいて跳ね付けずに受け入れ、更なる前を目指す。人はその途上で力尽き、心折れ、負の道へと進んでしまう。前を目指す道とはかくも辛苦を伴うものなのだろうか。いや、それもやはり心持ち一つであろう。
「貴方は……お仲間を追われてこの世界へ来た、と言われましたね?」
 靖徳の言葉がグランシュを現実へと引き戻した。
「少し気掛かりなことが先日ありましてね。町が破壊され、命が失われ、大勢が傷付いた……正体の分からぬ『黒い靄』の塊が引き起こしたものだと……」
「何と!」
 グランシュは思い出した。自身の旗艦「サンクトゥス・クラトール」が破壊され、地上の村を消し去り、そしてこの世界へとアルバトロスを引きずり込んだ、あのセンチュリオンの先兵たる黒き存在。それが自分よりも先にこの世界に現れ、同様の惨劇を起こしていたとは。
「貴方に紹介したい人物が一人います」
 靖徳は穏やかな両眼を厳しいものへと変えて言った。表情が曇っている。
「もしやもすれば、その者が貴方の力になれるかも」
 そして、ふうと息を吐く。
「彼は紫雲と同じ修験者の一人だったのですが、御仏を顧みぬ素行が繰り返されるので、一度は破門した身でしてね……」
 グランシュにそう告げた靖徳は紫雲を呼んだ。程なくして障子戸が開き、白装束姿の紫雲が現れた。靖徳がその者の名を告げると、紫雲は驚いた表情を浮かべた。
「しかし……宜しいのですか?」
「構いません。このグランシュ殿と共に向かってはくれませんか、東京へ?」
 その者がトルソを捜す手助けとなかもしれない。そう聞いたグランシュは、その者の名を頭の中でもう一度反復した。

 伊勢谷公博。

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