スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←第三十八章 グリフィスとの絆 →第四十章 近付く衛兵隊
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


  • 【第三十八章 グリフィスとの絆】へ
  • 【第四十章 近付く衛兵隊】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

リフレクト・ワールド(The Reflected World)

第三十九章 対峙

 ←第三十八章 グリフィスとの絆 →第四十章 近付く衛兵隊
 飛空挺から降ろされて、初めて須藤の目の前に広がったものは、背の低い建物が密集している光景だった。水の腐ったような臭気が漂っている。
「行け。お前等はこっちだ」
 クミコと澤渡が引っ張られていく。
「おい! 何処へ連れて行くんだよ!」
 メイスが声を張り上げて、二人の後を追おうとしたが、甲冑姿の男に銃身で腹を殴られ、メイスはその場で呻き声を上げながらうずくまった。
「何をする!」
 須藤がメイスの傍に駆け寄り、その身を自分のほうへ寄せた。
「ふん。愚民どもが」
 男は唾を吐き捨てるかのような言い方で侮蔑の言葉を向けると、クミコ達が連行されていくその後を追って歩き去った。
「大丈夫か?」
 須藤が声を掛ける。
「ああ……ごめんよ」
 メイスはよろめきながら立ち上がった。
 未舗装の路面は土剥き出しで平坦さがない。あちこちが濡れていて水溜りを作り、歩く度にぐちゃりと音を立てる。建物の小さな窓や、小さく開けた扉の隙間から、何人もの人の顔が覗き見える。その目には希望の光はない。絶望、悲哀、同情、あらゆる負の感情の闇を込めた瞳。
「彼等は……」
 須藤は思わず呟いた。
「言うなりゃぁ、死刑執行前の囚人だよ。みんな……皆、アムリスの政策に反抗し、仲間を庇い、そして連中に歯向かった者達さ」
 メイスは苦々しい表情を浮かべて答えた。
 須藤の心の中には悲しさと怒りが渦巻いていた。彼等は何故こんな目に遭わねばならないのか、きっと納得などしていない筈だ。理由は何であれ、この世界に転生し、再び人生を始めようとしていた、または始めていた者達だ。澤渡のように、決して消えぬ前世の記憶と思い出を抱えつつ、頼る者も仲間もいない状態で、何とかして馴染もうとし、新たなコミュニティを形成して生活を始めただけの者達。その存在そのものを否定され、暴力に屈することを強いられ、全ての希望や可能性を奪われ、そして挙句にはその命までをも無理矢理に消されようとしている。こんな理不尽な世界が今、目の前に広がっている。
 上野や神保町でPCと睨めっこして、時には会社のサイトを更新し、会社の仲間や業者と話し、そして愛息の啓吾と共に暮らしていた須藤にとって、今置かれている状況は到底受け入れることの出来ないものであった。
 だが、それでも現状は現状だ。自分が今置かれている現状を、先ずは受け入れねばならない。大事なことは、ここで如何に行動するかなのだ。
 何とかならないものだろうか。この人達を、そして自身の状況を打開出来る方法は何があるのだろうか。

 須藤とメイスが案内されたのは(案内と言うよりは、力尽くで無理矢理放り込まれたと言ったほうが適切かもしれない)、通りの突き当たりにあった建物で、その中には既に六名の人間がいた。二人は背を突き飛ばされる形で建物の中へ入った。六名は「また来たか」とでも言いたげな表情で二人を見詰めていた。
 甲冑姿の男二人は、須藤とメイスを建物の中に入れると、そのうちの一人が荒々しく扉を閉めた。
「ちょっと! 乱暴しないで頂戴よ!」
 メイスが噛み付くような声を上げた。
 須藤は中にいる六名の顔をそれぞれ流し目で見た。皆、悲しみに沈んだ表情をしている。
「あんた達も捕まったのか」
 一人が口を開いた。蝋燭のみで照らされた薄暗い室内の中、その男の顔を見てみると、額に生々しい傷を負い、血がそのままで固まった状態になっている。傷のある側の目は開かないようで、血痕で瞼が固まっていた。
「災難だったね」
 別の者が口を開いた。床に座り込んだ女は、汚れた布で頬被りした顔を上げた。見たところまだ三十代にもいっていないようにも見える。身に纏う服は泥で汚れており、左足の足首が異様な方向へ曲がっている。踝には別の汚れた布が巻きつけられており、そこには血が滲んでいる。
「貴方達も……」
 須藤は誰に対してとでもなく、そんな言葉を漏らした。
「そうよ」
 その女が体勢を変えずに答えた。メイスは、その頬被りをして座り込む女の隣に行き、膝を下ろしてその肩に手を置いた。 
「ジュデッカにようこそ」
 壁に寄りかかって立っている男が言った。
「ジュデッカ……」
 須藤はその名前を繰り返した。
 ここが最終地獄。

 扉がノックされた。須藤とメイスは扉のほうに視線を向けた。今度は何だというのか?
 扉がゆっくりと開くと、甲冑姿の男が一人立っている。
「何だよ……?」
 メイスが言った。すると男は兜をその場で外し、顔を皆に見せた。何処にでもいそうな、普通の男である。だが、その表情は他の者と同様に沈んでいる。
「済まない」
 男は一言そう言って頭を下げた。
「本当に済まない……こんなこと……済まない」
 男は涙声になっていた。
「ええ?」
 メイスは男を睨み付けた。
 男の手には一つの布で包んだものがあった。
「こんなことしか出来ない。本当に申し訳ない」
 そう言うと、男は包み物を戸口に置き、扉を閉めると早々に去っていった。
「何だいあれ?」
 メイスが中の一人に訊いた。
「ああ、あれはここの守衛の一人さ」
 壁に寄り掛かっている男が答えた。
「ああやって、時々パンや軟膏薬を持ってくるんだよ。他の甲冑野郎の連中に気付かれないようにな」
「え?」
 須藤が思わず訊き返した。壁際の男は溜め息をついて続けた。
「アムリスの政策変更は突然のものだった。で、どうやら連中の中にもこんなことに反対する者がいるみたいでさ」
「ろくに食べるものもないんだ。たとえ施(ほどこ)しでも、助かるって言やあ助かるんだがな……」
 額に傷を持った男が弱々しく言った。
「じゃあ、彼は……」
 須藤が閉まった扉を見詰めながら言った。
「見付かったら何されるか分からんからな。だから、ああやってこそこそと来るんだよ」
 メイスは声を荒げた。
「何だって? じゃあ、何でこんなこと間違っているって声を上げないんだ? どうして……」
 部屋の奥にしつらえてある粗末なベッドの上で、老婆が体を起こした。
「あの人も家族があるんだろう。こんなことがばれりゃあ、あの人だけじゃない。家族共々みんなで特区送りさ。家族を養わなきゃあならんからね」
 老婆が言うと、頬被りの女が続けた。
「だから……ああやって、少しでも私達のために何か出来ることを、って言って時々来るんだよ」
「じゃあ何かい? これもあいつにとっちゃあ、給料分の仕事でしかないってことかい? ふざけんじゃないよ! ただの偽善じゃあないか! それとも、罪の意識を感じてってこと? 何だいそりゃあ? あいつの自己満足じゃないの?」
 メイスは額に右手を当てて、嘆くように言い放った。
「それでもね……こんな所で暫く生きているとね、そんなことでも人の優しさに少しでも触れていられるって気になるんだよ」
 老婆は寂しげに答えた。
 須藤の心に、その老婆の言葉がじんわりと沁みた。そして、先程の男のことを思った。後ろめたい思いを抱えながら、それでも自分のやっていることが間違っていると声にして言えず、せめてもの罪滅ぼしにと差し入れを持ってくる男。だが、声を上げれば、自分の家族をも危険に晒すこととなる。
 須藤には、その男のことも不憫に思えてならなかった。
 アムリス。この国の統治者であり、この現状の元凶。如何なる者なのだろうか? 須藤にそのような疑問が浮き上がってきた。

 それなりの時間が流れた。ここに到着したのは夜もまだ明けぬ時間であった。窓の隙間から外の様子が窺える。夜の闇がうっすらと消えつつあった。深緑がかった空に月が見える。澤渡と語り合っていた時に見た、つがいの月の一つだ。
「少しでも眠っておかないと、体がきついよ」
 窓の外から視線を移すと、メイスが壁に寄りかかって座り、須藤のほうを見ていた。
「君も寝ていないじゃないか」
「あんたと一緒だよ。眠れないのさ」
 メイスは立ち上がると、須藤の隣に身を寄せた。
「私は……言ったっけ? 故郷がフランスのディジョンって街でね。でも仕事でアメリカに行っていたんだ。シアトル。私、国内でチェーン展開をしているレストランの本社で働いていてさ。安い海産物を目当てに、シアトルのロブスターの下調べで行ってたんだよ」
「ロブスター? フランスにはオマールって海老があるんじゃなかったかい?」
「あ、よく知ってるね。そう。あるよ。でもなかなか安価で提供できなくてね。特にオマール・ブルーは高嶺の花。で、店舗のアメリカ進出と展開も考えていたこともあって、ってわけ」
「へえ」
「でも……あの災厄が起こった」
 メイスの声が沈んだ。
「災厄って?」
「カズキ、あんたのいた所じゃ何も起きなかったのか?」
「いや……ちょっと前に大きな地震があったけど。でもそれは自分や息子の啓吾が住んでいた東京じゃなかった」
「そう。地震なんて代物ものじゃなかった。もっと異質さ。いきなり真っ黒な雲が現れて、フランス中を覆っちまった。フランスだけじゃない。世界のあちこちでだよ。私はニュース速報でそれを見ていた。いきなり世界のあちこちがブラックアウトさ」
 幸運にも、と言っていいものかどうかと思ったが、少なくとも須藤はそんな事態が起こったという話を聞いてはいない。
「きっと、私のいた前世とカズキの前世とは、ちょっと『軸』が違う世界なのかもね。世界って一つじゃない、って言うじゃない? 知らない? パラレルワールドっての」
「ああ、SFの世界じゃ聞く言葉だね」
「出なきゃ、時間の推移が異なるのか……ま、それはいいや」
 メイスは溜め息を吐いて続けた。
「とにかく、世界中がとんでもないことになっていた。私のいた世界じゃ、カズキのいた東京は竜巻が起こってエラいことになっていたから。日本社会がそれで潰されちゃっていたんだよ」
 須藤はメイスの言葉を半信半疑で聞いていた。いや、ここに来て聞いた全てのことに対して、半信半疑である気持ちが完全には拭い去れていなかったのだ。それはそれで仕方のないことだ。
「そして、奴等が現れた」
 メイスのいたシアトルも『襲われていた』と言う。何本もの猛烈な竜巻の吹き荒れる中、あらゆる建造物が破壊されていく中、黒色の異物が天から舞い下り、多くの子供を天空へと連れ去っていく様をメイスは見ていた。
「私は……その時タクシーに乗っていてさ。黒い靄の塊、と言うか何だったんだろう、見た目鎌を持った犬? そんなものがフロントガラスを突き抜けて、運転手の体を突き抜けていった。そうしたら運転手はそのまま動かなくなって」
 メイスを乗せたタクシーはそのまま横転し、メイスは中から出られなくなっていたと言う。
「傍の建物で社会見学でもしていたみたいな子供達の集団があったわ。最悪だった。周りの大人達は何も出来ないまま、その場に倒れこんで動かなくなっていた。子供達は泣きながら逃げ惑って、そのまま黒いものに撒きつかれて空へ運ばれていったり、崩れてきた瓦礫に潰されたり……あれは地獄よ。ここジュデッカと違うことと言えば、その場でやられるか、待って待たされてからやられるかってことだけでしょうね」
 脚を挟まれ、もがくメイスの目の前でそのような惨状が展開していたと聞き、須藤は顔をしかめた。聞いていて背筋が寒くなってくる。
「私はそのまま意識を失ったの。その時にきっと……でしょうね。目が覚めたら、この世界にいた」
 メイスは須藤の隣に腰を下ろした。
「私の名前、メイスってあの時もそう呼ばれていたわ。でも本名はメイス・フランジェリン・ベノワ。ちゃんとファミリーネームもあるのよ。当然だけど」
「ミス・ベノワ、か……」
「やだ。メイスでいいわよ」
 メイスがふと笑みを浮かべた。
「やっぱり笑顔が似合う」
 須藤は穏やかな口調でメイスに言った。
「からかってるの?」
「いやいや。本当さ。君は……こんな所で沈んだ表情をするには似つかわしくなさ過ぎる」
「あんたも……カズキ、あんたもこんな所にいる場合じゃないのにね」
 啓吾が連れ去られる瞬間を捉えた、多々良が見せてくれた防犯カメラの映像を須藤は思い出していた。メイスのいた世界を無茶苦茶にした黒き靄、そして啓吾をさらって行った靄。それは同じものなのだろうか。もし、そうだとするならば、自分のいた世界も、丸山や社員達、友人や親の生きるあの世界も同様に、その黒い靄に……恐らくはクミコの言っていた黒き負の思念体に襲われ、滅ぼされる運命にあるのだろうか。クミコは言っていた。「もう始まっている」と。あの言葉はもしや、自分の世界をその思念体が狙っている、それか既に……
 いや、そんなことがあってはいけない。
 人はそんなものに屈してはならないのだ。
 負の思念と正の思念とは対である。ならば、正の思念が増えれば、人々それぞれの心の中に、可能性や希望を信じる、絆や縁、愛情を信じ行動に移せる力を持つことが出来れば、きっとそんなものに打ち負かされることはない。
 それはこの場においてもそうだ。ジュデッカが如何なる所か、そんなことは重要ではない。ここで何が出来るか、何を行うかが重要なのだ。
「自分は……啓吾のためにもここで負けるわけにはいかないんです」
 須藤は力強く言った。
 メイスは何も答えなかった。じっと汚れた床面を見詰めるだけであった。

 翌朝。いきなり全員が広場に集められた。須藤、メイス、そして同じ建物の中にいた六名の者も同様だった。
 互いにひしめき合うように建っている建物の合間に広場があり、そこには高さ十五メートルはあろうかと思われる高台が設けられていた。そこには甲冑姿の男達が立っている。そして……
「澤渡!」
「ユタ! え……クミコも!」
 澤渡とクミコがそれぞれに縄で両腕を縛り上げられて立っていた。澤渡の顔は殴られたのであろう、痣や腫れで顔付きが変わってしまっている。クミコも疲労困憊の極にいたのであろう、かなりやつれている。
「ここにいる者は貴様達反乱分子の親玉である! 我々政府に逆らう不埒な連中だ! 貴様達がどれだけあがこうが、どれだけこの先の未来に一抹の希望を持とうが、それらは全て無駄なことであることを教えてくれる! いいか?」
 赤い甲冑に身を包む者がマイクらしきものを持ち、雄叫びの如く叫んでいる言葉が広場中に響いていた。
「これより、この二名の処刑を執り行う!」
 何と言うことだ。これから執り行われようとしているのは、我が友である澤渡と、優しく語り掛けてくれた初老の女性の公開処刑だと言うのだ。
 須藤はぎょっとした。そして焦った。このまま座して見ているわけにはいかない。
「その前に、である」
 赤い甲冑の男が言った。
「貴様達に対し、こともあろうに同情心を以って接していた裏切り者が我々の中にいた。実に情けないことである。我々は貴様達に対してだけではない。規律ある統制された、誇り高き部隊である! 我々は我々自身に対しても、その厳しき規律で以って接している! そのために……先ずは余興だ!」
 高台の前方に一人の男が連れ出された。そして、その横に若き女性と幼い三人の子供達もが出された。
「あの男……」
 メイスが呟いた。
 須藤とメイスが到着した昨夜、パンを差し入れしてきた部隊員の男だ。
「パパーーっ!」
 三人の子供達が泣いて声を上げている。あの男の子供達だ。すると、女性のほうはその子供達の母親であり、男の妻であろう。
「裏切り者を我々は決して許さない。いいか? ここにいるこの男と、その家族! こいつらを殺すのは貴様達だ!」
 男が泣いて叫んだ。
「妻と子供は関係ないじゃないか! 止めてくれ!」
 後ろにいる甲冑姿の男が、泣き叫ぶ男の頭を銃剣の尻で殴り付けた。
「法は法だ! 反乱分子の首謀者の処刑の前に! この裏切り者を家族共々、今ここで粛清する! 浄化するのだ!」
「馬鹿な!」
 メイスが両手で口を押さえた。
 須藤は周りを見渡した。
 誰も何も言わない。声すら漏らさない。今、目の前で理不尽極まりない凶事が執り行われようとしているのに、誰も何も言わないのだ。皆、めいめいが目を閉じ、震え、或いは嗚咽し、抱き合い、そして口を閉ざしている。
 男が叫んだ。
「大公陛下! お願いです! こんなことはもうお止め下さい! 私一人がどうなろうと一向に構いません! ですが、ですが! 子供達にはまだ未来があるんです! 何も知らない子供達の未来をどうぞ奪われないでください!」
 大公陛下?
 護衛と思われる甲冑姿の男の中から、一人の男が前に進み出てきた。
「あれは……アムリス!」
 メイスが声を上げた。須藤は高台の奥から前に進み出てきた一人の男を見た。
 あれがこの国、アグゲリスを治める頭のアムリス大公……そして、この捻くれた状況を生み出させている元凶の人物なのか。
 須藤は群集の前に進み出たアムリスを睨み付けた。
「貴様達のような、生まれるべきでなかった不幸なる者はここで浄化される。その前に彼等を浄化する。これはこの世界の摂理に沿った、それこそ神事でもあるのだ。感謝せよ。そして享受せよ。これが救済である」
 須藤が垣間見た、夢とも思われるあの瞬間の言葉。純白の羽を携えた漆黒の存在。人の心の存在を不自然なものとして消去すると言っていた、そしてそれこそが人への救済だと言っていた、あの禍々しい存在。アムリスと言うあの男の言葉は、あの夢の中に現れた闇の使者と言うことが同じではないか。
 友人を、仲間を、そして家族を、子供を手に掛けることが、希望や未来を蹂躙し、奪い去り、そして命を消そうとすることが「救済」だと言うのか? そんなことが出来る権限をあの男が持っていると?

「ふざけるなぁっ!」

 須藤は我慢出来ずに大声を張り上げた。啜り泣く声が静かに響いていた広場に、須藤の怒りの叫びが響き渡った。
 アムリスは広場へと視線を落とした。群衆の中に「白い光を持った」男が一人立っている。その者は凄まじいまでの形相で自分を見上げている。
 あの者は……
「お前にそんな権利があるのか? たかが一人の人間のくせに、神のような高慢でそこにいる家族を、俺の仲間の命を奪おうって言うのか? 浄化だと? お前はそうやって一体どれだけの人を傷付けてきたんだ!」
 須藤は右腕をぴんと伸ばし、その人差し指でアムリスを指して叫んだ。
 許せない。こんな人物は決して許せない。
 アムリスは須藤を上から見下ろし、そして笑った。大声で笑った。
「ははははははははははぁっ!」
「何が可笑しい?」
 高々と笑うアムリスに向けて、須藤は再び叫んだ。 
「カズキ! あんた、ちょっと……まずいよ! 今ここでアムリスに喧嘩売ってどうすんのさ!」
 メイスが驚きの表情で以って須藤をたしなめた。
 須藤は周囲の者達にも声を上げた。
「あんた達もそうだ! 何故みんなで力を合わせないんだ? 何故自分達の状況に屈している? 理不尽だと思うなら戦え! 仲間を庇い、自分の信条に従い、抗ってここに連れて来られたのなら、ここでも諦めるな! 諦めたら全て終わりだろ? 怯えるな!」
「カズキ……あんた……」
 メイスは須藤と初めて出会った時のことを思い返していた。あの時と今の須藤、この「二人」は全くの別人だ。

 その時、広場の群集の間でざわめきが上がった。
 須藤は高台を見上げた。
 アムリスの体の周囲を黒い靄が渦巻いている。
「お前かぁ! そうか、お前なのか! ははははは! 話には聞いていたが、そうか、お前かぁ!」
 そうマイク越しに叫ぶと、アムリスは周りの者が止めるのも聞かずに、高台から飛び降りた。十五メートルはあろうかと思われる高台だ。だが、アムリスはふわりと着地した。靄がアムリスの足元を護ったのだった。
「ふん!」
 アムリスは鼻で笑うと、周囲の、いや、体から立ち上らせている漆黒の靄を爆発させたかのように飛散させた。その靄に包まれた群集の何人かが消えた。全身が消えるか、または体の一部が欠損するかの形で消えたのだ。
 アムリスは須藤のほうへと歩いて行った。群衆が叫びながら逃げ惑う。靄は蔓草の如く、細き形となり、周りの者達を襲っていた。何人もが須藤の見ている前で消されていった。または腕を、脚を失くした者が泣き叫びながらうずくまり、または生きるに不十分となった肉塊となってその場に崩れ落ちた。
 何なのだ、この男は……!
 須藤はこの時、やっと冷静になった。
 そして恐怖を覚えた。
 だが、その恐怖はアムリスの放った一言で完全に掻き消された。

「お前があの子供の父親か!」



関連記事
スポンサーサイト


  • 【第三十八章 グリフィスとの絆】へ
  • 【第四十章 近付く衛兵隊】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【第三十八章 グリフィスとの絆】へ
  • 【第四十章 近付く衛兵隊】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。