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リフレクト・ワールド(The Reflected World)

第三十六章 アムリス

 ←第三十五章 それぞれの思惑 【後編】 →第三十七章 連行される機内の中で
 グリフィスに跨る、銀色の甲冑に身を包んだ者達が夜空から下りて来た。彼等はラムジャプールを拠点とする、中途転生者取締専用の機動班、アグゲリス政府直属の治安維持部隊との混成部隊だ。須藤がラムジャプールの駅で遭遇した時と様子が異なっていたのは、装備する甲冑が簡易なものから本格的な重装備になっていたこと、携帯武装しているトンファー状の武具が、その長さを増し更なる硬質素材に切り替わっていたこと、そして彼等が持つ威嚇の雰囲気が、明らかに殺気みなぎるものへと変わっていたことであった。政府直属の部隊員は明らかに長身の銃を手にしていた。
 彼等はアタワ村の一軒一軒の家に足を向け、扉を蹴破り、中にいる者全て、女子供老人を問わず引きずり出した。抵抗する者は容赦なく打ちのめされ、怒号や泣き叫ぶ声が夜の村の中を席巻していた。村の中に火の手が上がり、人が逃げ惑う姿が燃え盛る炎を背に、黒い影となって行き来していた。家々の燃え上がる轟音や銃声が響く。
 部隊員はクミコの家にも押し入った。銃やトンファーを握り、立ち塞がるメイスの頬目掛けて銃身を打ち付け、数人がかりで澤渡を壁に押さえ付け、中にいるクミコを取り押さえた。そして須藤も例外でなく、銃口を目の前に向けられ、「動くな!」の怒鳴り声と共に両腕を後ろに回され、床に打ち倒された。 
 家の外に連れ出された須藤は、現世にいた頃には先ずその目で見ることのなかったであろう惨劇を目の当たりにした。逃げ惑う村人、家族を守ろうとする者が殴られ、ねじ伏せられている。仲間や家族を守り、彼等から逃がそうとする男達は武具で顔面を殴られ、骨を砕かれている。または額や胸を銃で撃ち抜かれ、鮮血を宙に巻き上げつつ倒れていく。また、倒れた親であろう大人に泣いて覆い被さる子供が無理やり引き離され、または大人同様に銃身で殴られ、その小さい体を地面に叩き付けられている。ある女性は平手打ちをくらい、地面に倒れ、口角から流血しつつ顔を上げたところを、その顎を力任せに蹴り上げられている。
「何をやってるんだ……」
 信じられないという気持ちを頭の中でぐるぐると巡らせつつ、そんな今の心情を言葉にしたものが須藤の口から出た。
「何やってんだぁぁぁっ!」
 須藤は声の限り叫んだ。
「やめろぉぉぉっ!」
 後ろに回された腕を振りほどこうと精一杯身じろぎする須藤の顎に、長身トンファーが斜め下から打ち上げられた。勢いで須藤は体を反らせた。血が乾いた地面に落ちた。
 澤渡も叫んでいる。
「畜生! 離せ!」
 だが「やかましい」と一蹴する部隊員によって、須藤と同様の目に遭わされていた。メイスは額から流血した状態でぐったりしている。意識が朦朧としているのであろう、足元は殆ど力が入っておらず、部隊員に引き回されるような状態で連行されていた。
「お願い! 乱暴はやめてちょうだい! 女子供にまで、何てことをするの!」
 クミコの悲痛な声も、みぞおちに打ち込まれた銃身が無情に遮った。
「抵抗する者は容赦しない! 我々は貴様らをこの場で射殺する権限も与えられているのだ! 死にたくなければ動くな!」
「テロリスト共はこの場で全員拘束する! それに協力し、また庇い立てした者は女性、未成年者、老人、例外なく逮捕する!」
「構わん! この村の者全員が中途転生者だ! 一人残らずしょっぴけ!」
 部隊員の怒号が響く中、彼等を運んできた飛空挺が地上に降下して来た。ソラマメの鞘を髣髴とさせるずんぐりした形の飛空挺は、土埃を巻き上げながら、VTOL機の如く着地すると、後方のハッチを開いた。取り押さえられた村人達は、そのハッチから機内へ次々と連れ込まれた。
「隊長殿! 大公妃を確認致しました!」
 部隊員の一人が、他の者とは異なる、全身を金属の光沢を毒々しく放つ赤色一色で包まれた甲冑を纏った者に報告した。
「大公妃と言えど、今は反逆者である。そのまま連行しろ」
「怪我をされているようで、ベッドに寝かされております。呼びかけにも応じず……」
「なら引きずってでも連れて行け!」
 隊長は右手を一閃して命ずると、報告をしてきた部隊員は再びクミコの家の中へと戻っていった。
「この村の者は全員、反政府活動を行う中途転生者だ! 一人残らず拘束し連行しろ!」
 隊長が大声を張り上げた。その声は延焼が拡がる炎が家々を焼き尽くす轟音に掻き消された。

   ※ ※ ※ ※ ※

「違う」
 声が聞こえる。押し潰されたような、力のない、そして悲嘆にくれた声。
「私はこんなことを望んでいるんじゃない」
 暗闇の中に声が再び響く。嗚咽の混じった声。
 この声は……そうだ。自分の声だ。自分自身の声だ。
『お前の心に従順になったまでのことだが』
 何処からか別の声が聞こえてくる。重く、低く、そして感情のない淡々とした、そして冷たい声。
「違う」
 自分の心に従順になっただけのこと? まさか。望んでもいないことが平然と行われている。これが自分の心に素直に従ったまでの出来事だと言うのか?
『お前達の言う理性とやらに適わぬと?』
 冷淡な声が再び響いてくる。
「そうだ! 確かに私は悩んでいた。そして考えていた。どうすればいいのだろうかと。だが、こんな非道なことを私は望んじゃいない。何故こうなるのだ?」
 氷のようなその声に反論する。決してこんなことは望んではいないのだから。 
『お前の潜在意識がそう私に語り掛けてきたのだ』
 淡々とした声は尚も返してくる。
「私の……何? 潜在意識だと?」
『そうだ。嫌なもの、避けたいもの、面倒なこと、そうしたものには好んで蓋をしたがる。そして見ないように決め込む。それがお前達ではないか。だがそれに自責の念を持たぬとも良い。それは自然なことなのだから』
 何を言っている? 
『私はただ、お前の心の代弁者に過ぎない』
 心の代弁者だと? 自分の意識していないところで、こんなことを望んでいたとでも言いたいのか?
「だからと言って……」
『気に入らぬか? まだ己の体裁を繕いたいのか?』
 体裁?
『理性などと言うものは、時に足枷にしかならぬ。己の立場、体裁、印象、そんなものを損ないたくないがためだけに、時に理性などという言葉を用いて、その場を繕う。そんなことが何になるというのだ』
 説教されているようだが、しかし相手の声には何ら感情や気持ちを感じられない。
『苦しいか?』
 氷のような声は続く。
「ああ……辛い。苦しいとも」
 ろくに吸い込んでいない呼気を、更に腹の底から搾り取るような息を吐き出しながら答えた。
『私は決して、お前を苦しめるためにいるのではない』
 意外な答えが返ってきた。
「何?」
『私は寧ろ、お前を解放するために存在しているのだ』
「解放する? 何からだ?」
『永劫の苦しみ。永劫の悲しみ。囚われたくない全ての事柄からの解放だ。その根源を絶つために私はお前と共にいる』
 顔を上げ、目の前に広がる無限の暗闇の中で声を張り上げた。
「お前は誰だ? 私の何を知っていると言うのだ? 何を勝手なことを……」
『私はお前自身でもある。そして、お前の代弁者であり、お前の救世主でもある』
「救世主……だと?」
『心を解き放ってみるがいい。お前達が言う、大切な心をだ』
 尚も感情の起伏を全く伴わぬ声は続く。
『だが、いずれ判るであろう。そのお前の苦しみや悩み、艱難辛苦の大元が、お前の心そのものにあると。心の存在そのものが起因することなのだと』
 何を言っているのだろうか。よく理解出来ない。
『心を動揺させるごとに、お前達は付和雷同する。それは実に不安定で、常に綱渡りをしているようなものだ。命綱もない、下に安全のための網さえ張られていない、そんな高所に繋がれた、先の見えぬ一本の綱の上を歩いているようなもの』
「その話と、今の私の状況とに何の関係がある? 私にこんな酷いことをさせておいて、何を言っているのだ?」
 相手の話が判らぬままに、もう一度闇に向けて声をあげる。
『私がさせているのではない。元々はお前自身が無意識に望んだことだ。それを表に出す手助けをしているに過ぎん』
 淡々とした冷酷な声は続ける。
『お前の心に同調してのことだ。私がそれを代弁していると言ったであろう? 心とはかくも残酷なものだ。相手を愛し、慈しむこともあれば、時に傷付け、ないがしろにし、奈落の底へと相手を突き落とす。方法を問わぬまま、心は常に安寧の場を求めている。それは心自身が、その存在を不安定なものだと理解しているからだ。お前にそのことを理解させるために、私は敢えてお前の心、潜在意識が望むことをやってのけているに過ぎん』
「私の心が……不安定?」
『人間は皆そうなのだ。そのことが見えていない、感じていない、いや、見ようとしない、感じようとしないだけのこと。それは自然の摂理に反する。本来あるべき姿への回帰を拒むことだ』
 ごくりと生唾を飲み込む音が耳に聞こえる。この冷たき声の主は誰なのだ? 自分自身の内なる声だとでもいうのか?
「本来あるべき姿って何だ?」
 一つ問い掛けてみる。
「心が本来あるべき姿とは何だというのだ?」
『永劫なる安定である』
 声は返してくる。
「永劫の……安定……」
『だがそれは、心などのような不安定な存在にとっては叶わぬこと』
 何だって?
『心からの解放。それは、心という存在そのものからの解放である』
「お前は……誰だ?」
 一呼吸ほどの間をおいて、声は再び答えを返してくる。
『私はお前の心の代弁者。救いを求めるお前の心が呼び寄せた者。永遠の救済をもたらす者』
 心の代弁……確かに抱える問題にどう対処してよいのか分からないままでいた。心の中によぎる疑念をどう払拭してよいのかも分からなかった。本当はそうした心の影に対してどう接すべきかを、幼少の頃から散々叩き込まれてきた筈だった。
 これではあの中途転生者達と何ら変わらないではないか。
 本当は理解していた。自分と、いや自分達と中途転生者とが持つ心の質は同じなのだと。不安定で、ぐらぐらしていて、時に喜び、時に悲しみ、時に怒り、時に楽しい思いに包まれて……だが、そのままだと「連中」を呼び起こしてしまう。だからこそ、負の感情を制御する術を自分達は学び、体得するよう努力してきた。そんな過程を通っていない中途転生者の心は危険だ。「連中」を招き寄せる要素になってしまう。だから……だから……だが、だからと言って……こんな人の道から外れた行為を容認し、先導し、その非道な様に対して高みの見物を決め込むなど……そんなことを潜在意識の中で望んでいたというのか? 
「お前は一体……」
 声の主は初めて名乗った。
『私は、お前の心の状態をそのままその名にしている』
「何だと……」
『私の名は「不信」』
 はっと目が覚めた。見慣れている天蓋が見える。
 夢だったのか?
 アムリスはゆっくりと、ベッドの上で体を起こした。

「大公殿下。アタワ村への派遣部隊から連絡が入りました」
 アグゲリス政府中央官邸。大公アムリスは執務室へ入り、机の前にあるいすに深々と腰を下ろしていた。そこへ報告が入ったのだ。アタワ村に潜伏していた反政府グループの一斉摘発に成功したと言う。
「ほう?」
「そのグループの中に、主導者である『クミコ』なる女と、サブリーダーと称される『ユタ』という男がいるそうです」
「では、連中の頭を抑えたと言うことなのだな?」
「はっ!」
 アムリスはにやりと笑った。
「大公……実は」
「何だ?」
 報告者は言い辛そうな口調で続けた。
「ええ……実はそこで、併せましてフィリエラ大公妃を保護したとのことです」
「フィリエラを保護?」
「はっ! 全身に火傷と怪我を負っているとのことですが、命に別状はないと……」
「そうか」
 アムリスは淡々とした声で答えた。
「あの……国民へは大公妃死亡との公式発表を……」
「それに変更はない」
 アムリスは立ち上がり、報告者に背を向けて窓辺に立った。
「フィリエラは最早、私の妃ではない。反逆者だ。別に構わん」
「大公……」
 アムリスは振り返った。
「連中は今何処へ向かっている? ここアグゲリアードか?」
「はっ。治安維持統合本部へと……」
「ジュデッカだ」
「第四特区へ、ですか?」
「そうだ。連中は第一級政治犯だ。わざわざこんな所へ連れて来て、取調べをすることなどない。全てはジュデッカで行えばいい。無論、釈放などするつもりはないしな」
 冷笑を浮かべてアムリスは言った。
「かしこまりました。さっそくその旨伝えます」
 報告者が敬礼し、執務室を出ようとした時にアムリスが声を掛けた。
「おい」
「はっ」
「今から向かうとして、ジュデッカへの到着は何時頃だ?」
「ええ……約十ホールス後になりますが」
「連中の姿を見てみたい。私もジュデッカへ行こう」
「は……ですが……」
「構わぬ。巡視を兼ねて、だ」
 そう言うと、アムリスは再び窓の外へ視線を移した。
 しとしとと降る雨が、窓の外にある草木の葉を打ち続けていた。

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