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リフレクト・ワールド(The Reflected World)

第二十九章 義に散る

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 有機物が腐敗した際に放たれるメタン臭のような匂いが室内に満ち始めた。室温はどんどん下がっていく。暖炉に燃える炎の力が徐々に弱くなり、炎が小さくなっていく。パチパチという薪の萌える音が少しずつ弱くなり出した。空気にはぴんとした緊張が走り、身じろぎするだけで身を切られそうだ。
 アイーダの吐く息は白く、剣を握る手がかじかんできた。玄関の扉の右手に窓があり、そこにはまだカーテンを引いていなかったため、外の闇に徐々に変化が起こり始めている様をアイーダは視認出来た。薄ぼんやりと外が光っている。その冷たい光は黄染みた緑色をしており、その光の手前、窓のすぐ向こう側を黒色の霧が舞っている。だがそれは霧と表現するよりは寧ろ黒煙だ。恐ろしく濃密な霧がもうもうと窓の外でいきり立っている。
 アイーダが立つ居間に続く扉の反対側では、啓吾が床にぺたりと座り込んでいた。息を殺そうとしてはいるが、小刻みな鼻息がどうしても荒くなってしまう。生唾をごくりと飲み込む音が、啓吾の耳にやたらに大きく響いた。アイーダをマスターとするグリフィスのシャリーズは、扉をじっと睨み付け、頭を低く下げて身構えているように映る。シャリーズの子供になる銀は、啓吾がしっかりと抱きかかえていた。銀も母鳥同様、扉をじっと見ている。そして時々啓吾の顔を見上げては、再び扉に視線を戻す動作を繰り返していた。
 アイーダの頬に汗が一筋流れ落ちた。実に嫌な汗だ。細長く冷たい金属の棒が一本、背筋に通されたかのような感覚がある。体を動かせない。近衛騎士団在籍時にも「彼等」との交戦経験は一度も無い。話として存在を聞かされていただけだ。邪で捻れた精神の塊。その放つ負の気は以前ポルタ・モルトゥス付近で感じたことはある。だが、今回はその比ではない。そんな雑魚程度の弱々しいものではない。邪と言う存在そのものがその本体を現わして、じわじわとにじり寄って来られる雰囲気だ。
「やるだけのことはやってみるさ」
 アイーダはそう思い直した。さあ、来るがいい。

 玄関の扉のすぐ反対側に気配がする。強大な気配。禍々しく黒き力強さを全身で感じさせる存在の気配がそこにある。
 かたりと小さな音が鳴った。玄関扉のノブが小さく右へ左へと動いている。柱時計の振り子がゆっくりとスローで動いている様を見ているようだ。
 ノブの動きが止まった。すると、そのノブから放射状に黒い「ひび」が一気に扉全面に、隅々にまで広がった。まるで脳内に走り脈打つ無数の毛細血管のようだ。扉に細かい網目模様を作った「ひび」から木屑がほろほろと落ち始めた。その勢いは増し、屑の量も増え、間もなく扉全体が腐食して崩れ落ちるように粉々になり、床へと屑や破片を撒き散らし出した。だが、それらは床面に落ちてゴミの山となるのではなく、掻き消すようにその場からなくなっていく。扉は左右を残して中央から潰されるようにして崩れ、次いで左右が互いに頭をぶつけ合うようにして倒れ掛かり、床へと落ちていった。そして全ての屑がかき消すようにその場からなくなり、扉は跡形も無く消滅した。
 その向こう側に数人の人影が見える。いや、それは人の形をしているだけの者であった。中央に立つ者はまるで、エジプトの古王国時代の棺のような姿をしており、その両目は緑糸の鈍い光を放っている。周囲の者達は全身から水気を失った即身仏のような姿をしており、リーダー格らしきその目を光らせる者の背後に付き、瞳の無い両目でアイーダをじっと見つめていた。その口は開いたままで、どす黒く変色した乾いた舌が見え隠れしている。
 中央の者が言葉を発した。
「この家の主か?」
 その声は恐ろしく低く、且つ冷たく、男とも女とも取れない聞き苦しいものであった。
 アイーダは黙ったまま、剣を斜め上方に構え、右足を半歩前に出した。
「その剣……ほう、貴様もあの金色の雑兵どもの一員か」
 アイーダに語り掛ける者の目から放たれる光が強さを増した。何の温かみも感じさせない、まるで目の前の者に対して処刑宣告をするかのような力を持つ光。
 その者は冷たく言い放った。
「子供がいる筈だが」
 アイーダの表情には 何の変化も起こらないが、その者を睨み付ける眼光は更に厳しさを増した。
「……センチュリオンか?」
 アイーダは一言だけその者へ言葉を発した。
「貴様に質問する権利はない」
 その者は全く身動きせぬまま、首や頭さえ全く微動だにせず、石像の如く佇んだまま言い放った。
 その間にも扉から壁へ、天井へ、黒き血管のような「ひび」は広がり、粉々に崩し、その屑を床へと落とさせたが、やはり同様に床に積もることなく、途中で煙のように四散し消えていった。今やアイーダの家は玄関に面した壁や天井の一部が消失し、舞台上のセットのような見た目に変わってしまっている。
 奥の部屋にいたシャリーズは突然、視線を扉から啓吾へと切り替えた。シャリーズは啓吾の目をじっと見詰めると、啓吾の前で体勢を低くし、その背中を差し出した。
「シャリーズ……乗れってこと?」
 啓吾が小声で言うと、肯定の返事をするかのように、首を動かして再び啓吾の顔を見た。
 緑色に光る目の者は顎を微かに引いた。
「そこに隠れていることは分かっている」
 その声が止まないうちに、アイーダは視点をその者に定めたまま叫んだ。
「ケイゴ! 逃げなさい!」
 そして右足を踏み込むと、アイーダはその者に接近し剣を打ち下ろした。刃が鋭く空を切って、その者の顔面に向け飛んでいった。
 その者は体の位置を一切変えることなく、片手で刃を掴んで受け止めた。刃を握る右手からは赤い血も何も流れることなく、代わりに黒い靄が立ち上っている。
 アイーダはその右手を切り落とすかのように、剣を斜めに打ち下ろすと後退し、再び構え直した。
 剣で切り付けられた右手の平をしげしげと見つめ、次いでアイーダの剣に視線を移すと、その者は一言「興味深い」と呟いた。アイーダの剣も「消滅しない」。この世界で生きる人間は、現世で生きる啓吾や須藤達からすれば、その組成が異なる。彼等は「思念体」。精神エネルギーの凝集体みたいな存在なのだ。その力が強ければ強いほど、センチュリオンやその使い魔達のような負の思念体の影響を跳ね返す。その力が弱い者ほど、先に白簾霊峰での交戦の時のように、その肉体を削られ、消滅させられてしまう。しかしアイーダは違う。
「だが面白くはない」
 その者は再び呟いた。自身の力が通じない、僅かとはいえ大神タナトスの御力を得た自分の力が、ただ一人の老女相手に跳ね返されたのだ。
「実に不愉快だ」
 そう言い終るが早いか、その者はアイーダに突進を掛けた。両腕が瞬く間に黒い靄になったと思った途端、黒い「剣」に変わり、その両刀でアイーダに切り掛かった。それをアイーダは剣を額の辺りで構えて一方を受け止めて弾き上げると、次いでもう一方を脇腹の辺りで防いだ。その者の頭部が突如「大斧」のように姿を変え、アイーダの顔面目掛けて振り落とされた。しかしアイーダは後方へ素早くステップし、それをかわした。相手が体勢を直す前に再び力強く踏み込みを掛け、アイーダは剣を振りかざすと、一気に前進を掛けた。
「はぁっ!」
 老女とは思えぬ気合の入った掛け声と共に、あらゆる方向へ素早く剣を打ち下ろすアイーダ。緑色に光る目の者はそれを後方へ飛び退きながら、その斬撃を剣となった両腕で受け止める。火花が激しく散った。
「五月蝿い」
 そう一言放つと、その者は上方へ飛び上がると、全身を「剣山」の如く変化させ、無数の黒い「針」をアイーダ目掛けて飛ばした。アイーダは上方に向け、剣を八の字を描くように素早く回転させ、「針」を叩き落した。しかしそのうちの一本が頬を、もう一本が髪をかすめた。アイーダの長い髪が束になって散り、頬からは赤い鮮血が流れた。「剣山」は再び人の形となり、床の上に降り立つと、その両腕を一気に左右へ大きく振り上げた。その途端、家の屋根は轟音と共に全て消し飛び、奥の部屋へ通じる扉は音を立てて吹き飛ばされた。
 その時、既に背中に啓吾を乗せたシャリーズは、一気に助走を掛けると夜空へと舞い上がった。
「ふん」
 緑色の目の者から鼻を鳴らすような声が聞こえた。間髪を入れずにアイーダが猛攻を掛ける。周りに待機していた即身仏状の者達がアイーダに飛び掛かったが、彼等は全てアイーダの剣捌きと共に黒い靄となり、四散した。靄は空中で一つになり、二、三度対流すると、緑色の目の者の体の中へと吸い込まれていった。
「あの子に手出しはさせない!」
 そう叫んだアイーダの剣が右上から左下へと高速で動き、その者の頭を斜め半分に切断した。
「無駄だ」
 その者は全身を四散させると、先程まで啓吾のいた奥の部屋の床上へと移動し、再び人の形に結合した。切り落とした頭部は元の姿に戻っている。
 シャリーズの背中にしがみ付きながら、啓吾は今や変わり果てたアイーダの家を見下ろしていた。シャリーズは上空へ舞い上がったものの、マスターのアイーダが気に掛かるのか、家の周りを大きく旋回していた。
「おばちゃん……」
「シャリーズ! 何をしているの! 行きなさい!」
 アイーダが叫んだ。その声を聞き付けたシャリーズは、旋回を続けたまま甲高く鳴き声を上げた。
 アイーダは敵を見据えた。その者はただ動かずに、上空で旋回しているグリフィスを見上げていた。
「あの子は希望! 可能性! お前達に打ち勝つための光! やらせはしない!」
 再びアイーダはその者へ、渾身の力を振り絞って飛び掛かった。
「我の名は『絶望』……」
 その者は名乗りを上げた。そして動かぬままで、両目の光を一気にほとばしらせ、左手を腰に当て、右腕を高く空に向けて振り上げた。
 アイーダの体は後方へ猛烈な勢いで弾き飛ばされた。剣が粉々に砕かれ、アイーダの着衣は無残に引き裂かれた。自慢の美しい髪は全て引き千切られて宙に飛び散り、全身の皮膚がめくれ上がって鮮血が吹き上がった。同時に四肢が黒色に変色すると、塵のように散り始めた。激痛の中で意識が遠のいていく。アイーダは声にならぬ最期の一声を漏らした。
「ケイゴ……お願……い……貴方の……ひ……か……」
 次の瞬間、アイーダの家は音を立てて爆散した。粉々になった破片は黒き煙と共に飛び散り、敷地の土もろごと巻き上げられ、そして霧のように四散、消失した。その残骸と共にアイーダも消し去られた。
 何も残らずに全ては完全に消失した。

「見義不為、無勇也」
 義を見て為さざるは勇無きなり。論語からの一節である。
 人としての道理を曲げてまでやるべきことをしないのは、本当の勇気が無いからである。正しいと知っていながらしないのは、勇気が無いことの証である。卑怯者の証である。

 アイーダは義によって起ち、義のために散った。

「おばちゃーーん!」
 家が轟音と共に飛び散り消滅する一部始終を、啓吾はその小さな両目で見た。短い間ではあったが、アイーダと楽しく過ごしたあの家は、もうそこには無かった。小さなクレーターのような穴を地に穿ち、黒煙と共にその形を完全に消していた。
 黒煙は上空に猛烈な勢いで立ち昇ると、一つに結集し、巨大な一つの「顔」に姿を変えると、啓吾を乗せたシャリーズを追い始めた。
「おばちゃーーん! おばちゃーーーーん! おばちゃ…………」
 啓吾はシャリーズの首に腕を回し、シャリーズの背と自分の胸との間に銀を収めながら泣き叫んだ。
 元気付けようと色々話して聞かせてくれたアイーダ。何も分からないまま、この世界に迷い込んでいたところを家に招き入れてくれたアイーダ。美味しく体の温まるものを食べさせてくれ、共に市場へ遊びにも連れて行ってくれたアイーダ。大好きな父と引き離され、そして母の姿をした化け物に襲われ、怖く寂しく震えていた心を暖めてくれたアイーダ。かつての母のように優しく抱き寄せてくれたアイーダ。
 しかし、啓吾を見守ってくれた「おばちゃん」は散った。

 シャリーズはマスターを失ったことに怒り、悲しみ、しかし自身の力ではどうにもならない相手に追われ、懸命に力を振り絞って飛び続けていた。最期にマスターから自身に託された者を背中に乗せて、全力で飛んだ。最後の務めを果たすために、今は亡きマスターとの心の絆を守るがために、シャリーズは必死に飛んだ。
 啓吾も後ろから迫る化け物に気付いていた。それは巨大な「顔」となり、その口を大きく開けて迫る。あれが母の姿を借りて、自分を騙した相手。大好きな父から自分を引き離した相手。そして、自分を助けてくれた「おばちゃん」の命を奪い去った相手。そんな相手が自分を追い掛けて来る。今や啓吾の泣き声は唸り声のように変わり、息が辛くなっていた。胸元で丸く収まっている銀の温かさが唯一、啓吾に正気を保たせているものであった。
 追い迫る「顔」は一気に弾け飛び、百を越えるであろう数の「烏」へと変化した。「烏」達はシャリーズの上方へ飛空高度を変えると、羽をたたみ一気にシャリーズめがけて急降下し始めた。天から矢の如く降り注ぐ「烏」を避け、体を右へ左へと捻り、時には回転しつつ飛び続けるシャリーズ。両脚でもシャリーズの胴に踏ん張ってしがみ付いた啓吾は、シャリーズが回転する度に落ちないようにその力を更に込めた。高速で突っ込んでくる「烏」はシャリーズの体や翼を切り裂いていった。頭や尾の情覚器が切断され、啓吾を乗せた母鳥は地上へと落下していった。シャリーズの空を切り裂くような苦しみの叫びが響く。傷口からほとばしる赤い血潮が宙に舞う。それでもシャリーズは飛行を止めなかった。懸命に逃げた。背中の啓吾と、そして我が子を守るため、母としてシャリーズは必死に羽ばたいた。「烏」は啓吾の体もかすめた。着ているTシャツが裂け、腿や背中に血が滲む。しかし啓吾は腕を放さなかった。下に潜り込ませた銀を庇うように背を屈め、必死に耐えていた。
 高度が急速に落ち始めていた。シャリーズの体力はもはや限界にきていた。「烏」に抉られた傷口からは出血が続き、その周りの羽毛が抜け落ち、それが全身へと広がりだしていた。「烏」達は一つに集合し、上空で再び人の形へと結集し急降下を掛けると、その腕を大刀へと変え、一気にシャリーズの右の翼を根元から切り落とした。そしてそのまま体をシャリーズの腹側へと向けると、その刀を柔らかい腹部に突き立てた。
「シャリーズ!」
 啓吾が叫ぶと同時のタイミングで、シャリーズの羽ばたきが止まった。啓吾達は動かなくなったシャリーズと共に、草原へときりもみ状態で落下していった。だが地上手前でシャリーズは残りの左羽を懸命に動かし、体勢を立て直しながら、頭から突っ込むように腹を下にして草むらの中へ落ちた。
「うわあっ!」
 啓吾と銀は背中から草むらへ放り出された。
 今や全身を漆黒の霧へと変えたその者、その黒色の異物は上空で啓吾を見下ろしていたが、
「今はこれでいい」
 そう呟くと、その体を四散させてその場を去って行った。
 
 シャリーズは虫の息だった。切り落とされた情覚器の根元をゆっくりと動かしている。傷口から流れる血は止まり、その周囲が干からびたようになり黒く変色し始めてる。その部位が徐々に、しかし視認出来る速さで全身に拡大していった。
「シャリーズ……しっかり! シャリーズ!」
 啓吾はシャリーズの頭元にしゃがみ込み、必死に呼び掛けた。シャリーズの子供の銀も甲高い鳴き声をしきりに上げていた。シャリーズは一度頭を上げると、啓吾と銀の顔をそれぞれ見つめ、ゆっくりと頭を草むらに置いて目を閉じた。
「シャリーズ……」
 シャリーズの姿は啓吾の見ている前で急速に変わり果てていった。全身が水分を一気に失い、ミイラのように乾燥し、羽毛は全て抜け落ちて夜風に流されていく。
 シャリーズは死んだ。
 銀が一際甲高く鳴き出した。死んだ母親の骸を見据えたまま鳴いた。鳴き続けた。
 啓吾の目から再び涙がとめどもなく流れ落ち始めた。アイーダに続き、自分と銀を守り逃げ続けたグリフィスが目の前で息を引き取った。この世界に来て最初に出会い、自分を助けてくれた二人が相次いで命を落とした。啓吾は銀と共に泣いた。啓吾の息の洩れる甲高い音が、泣き声と共に草むらに響いた。銀は涙を流せないが、それでも明らかに親の死を悲しみ、悲痛で泣いているのだと思える鳴き声を上げ続けていた。
 夜風が冷たく啓吾と銀の体に容赦なく吹き付けてくる。

 啓吾は立ち上がった。そして鳴いている銀を胸に抱き上げた。銀はシャリーズのほうに顔を向けて尚も鳴いていたが、次第に鳴き止むと、瑛治のほうを見上げ、その胸に顔をうずめた。そして体を震わせ、泣くような、甘えるような声を押し殺しつつも上げていた。啓吾は銀をぎゅっと力強く抱きしめた。
 啓吾には分かっていた。銀も自分と同じだ。母親を失い、怖くて寂しくて震えているのだ。銀が今頼れるのは自分しかいないのだ。涙は未だに止まらない。だがこのままここで泣いている訳にもいかない。アイーダとシャリーズがその命を賭して守ってくれた。ここで立ち止まっていることは出来ない。
「銀。行こう」
 啓吾は銀を抱えたまま歩き出した。周囲には草むら以外のものは何も見えない。月明かりが草むらを照らしていた。見渡す限りの草原の中を、当てもなく啓吾は歩いた。寒くて体が凍えてならない。傷口が傷む。それでも歩いた。泣きながら歩いた。

「ケイゴ。いいわね? パパを信じるのよ。そして自分を信じるの。きっとパパに会える。ケイゴはパパに必ず会える。私はそう信じてるからね」

「いいわね。負けちゃ駄目よ。希望を捨てないで。さ、行きなさい」

 アイーダの言葉が心の中で甦ってくる。
「おばちゃん」
 啓吾は傷付いた体と心を抱えながら、残った銀を抱きしめながら、前へ前へと歩いて行った。その姿は遠ざかり、徐々に草むらの中へと消えていった。

 二つの輝く月は何もなかったかのように草原を照らし続けている。


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