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リフレクト・ワールド(The Reflected World)

第二十五章 虚構の理想郷

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 一機の高速艇が夜空を駆けていた。黒色の機体はまるで羽を広げて滑空するグリフィスの姿そのものを模倣したようなものだ。両翼に当たる箇所は金属の骨組みに、様々な衝撃に対するための耐久性が特化された、特殊加工された帆が張り巡らされ、五機の推進エンジンが備え付けられている。船の先頭はグリフィスの頭が模され、ブリッジがそこにある。頭部の情覚器に当たる部分には突起のようなものがあり、そこには探索用センサーが仕込まれている。全長五十メートル弱程度のその機体は、立ち込め始めた雨雲を切り裂くように飛空しており、その眼下には草原を抜け、白簾霊峰から採掘されたウォラリス・テクタイトの精製、製品製造プラントが建ち並ぶ様相を見ることが出来る。黒色の金属で造られているプラント群は、さながら天守閣を髣髴とさせる圧迫感があり、そこから放たれている眩い光が、現在も操業中であることを呈している。採掘中止となった今、地下の貯蔵庫に備蓄されているテクタイトを精製、加工して各製品を生産しているところであった。
 時折、これまで殺していた息を吐き出し、その自身の存在を周りに知らしめるかのように、プラントは多量の蒸気を勢いよく吹き出していた。
「……それでは貴様の独断で行ったということなのだな、トルソ?」
 グランシュはブリッジから離れたところにある狭い一室にて、トルソからの報告を聞いていた。そばで口述筆記を行う係の男が目まぐるしくペンを走らせている。
 トルソは甲冑を纏ったまま、椅子に座っているグランシュの傍で立っていた。
「はい、隊長」
 グランシュの息を漏らす音が聞こえる。現世からの帰還の際に、彼等の住む世界とは異なる世界に生きる人間を同行させ、その者が途中で消息を断ったという報告に対して、グランシュはいい顔を見せてはいなかった。
「確かに貴様は『中途転生者』ではあるが、その血の滲むような努力と苦労とでここまでのし上がってきたことを私は知っている。そのことは多大に評価されるものだ。だが、中途転生者の殆どがそうとは限らない。彼等の持つ負の感情はこの世界にはあってはならないもの……」
 トルソは口を閉じて、グランシュの言葉を聞いていた。
「その感情を持った者を、転生の形でなく『そのまま』の状態でこの世界に立ち入らせたということがどういうことか、分からぬ訳ではなかろう? たとえその者の持つ『光』がどれだけ強いものであろうと、だ」
 トルソが押し殺したような低い声で言った。
「彼(か)の世界の者がもたらす感情の力は、この世界にて生きる者の比ではない、その負の感情の力は一瞬の間にこの世界を暗雲で覆い尽くすことになる……」
 グランシュは静かながらも、明らかにトルソを戒める感情が込められていた。
「それを分かっていての『賭け』にでも出たと言うのか?」
 トルソは睨むような目で自分を見るグランシュの目を見つめ返した。
「鍬を振るい、ならした土地のように感情を操作された転生者には持ち得ぬあの光、あれこそ今この世界の脅威となるセンチュリオンに対抗出来るものであると、小生は邪推する次第でございます」
「何?」
 グランシュはトルソを睨み付けた。トルソのその言葉は、この世界の存在の根幹さえをも揺るがしかねない内容なのだ。
「中途転生者に対する思考再教育政策と、その結果として出来上がった被操作感情は、センチュリオンの復活を阻止するがためのものであるとは聞き及んでおります。そして、再教育という言葉を用いてはいても、考え方を前向きにさせるという意味合いでは、それは評価に値するとは小生も思います」
 トルソは静かに語り続けた。
「ですが、そこには陰を一掃された、加工された感情が残るのみです。負の感情を忘れた者が、如何にして正の感情の力を発揮することが出来るのでしょう? そうした者達の正の感情のみでは、奴らの純粋なる黒き力には太刀打ち出来ませぬ」
「それを、貴様が連れてきた者一人の力のみで出来るとでも言うのか?」
「分かりませぬ。ただ、小生はあの者の持つ天性の光、そして我が身をも省みぬ子への想い、あの者を慕う者達をこの目で見て賭けたのです」
「あの者を慕う者?」
 グランシュは訊いた。
 トルソは須藤に会ってから帰還までの間、須藤の周りにいる者達を見ていたのだった。須藤の息子の瑛治が消えてしまってから以降、どれだけの者が須藤とその息子のことを気に掛け、想いを募らせ、心配し、力になろうと動いてきたか、須藤を慕う者の気持ちが如何なるものか、それをトルソは影ながらその目で見、その耳で聞き、その肌で感じてきたのであった。
「人を信ずる時は、その者自身を見るのではなく、その者の周りに如何なる者がいて、如何なる付き合い方で、皆がその者を如何なる風に見ているのか、それを良く見極めれば、その者の本質が見えて参ります。だからこそ小生はあの者を、スドウカズキなる男を信ずるに値する者だと判断したのです」
 そのような経験を得たからこその言葉を、トルソは静かに、しかし熱い想いを込めてグランシュに向けた。
「まさか、貴様の転生者としての情が出たのではないだろうな? だが、何にせよ……」
 グランシュは組んでいた脚を床に下ろした。
「現在、貴様の言う男とその息子がこの世界の何処かにいるというのなら、その二人を何としてでも見付け、保護せねばなるまい」
 だがそう言ったグランシュの表情は険しいものだった。
「その二人のことを、もしやセンチュリオン側が探さないとも言い切れない。万が一にも二人が彼等の手に落ちるとすれば、それはとんでもない結果になりかねないことを意味する。彼等の動きを注視していれば、逆に発見の手掛かりにもなろう」
「隊長……」
「その親子の捜索は空間近衛騎士団にとり現段階で最優先の任務となろう。この広大な国土での探索は容易ではない、そして他国にもし落ちているとするのなら、発見は更に困難なものとなる。我が王国での中途転生者への処遇はまだ穏やかなほうだ。それは貴様も分かってはおるな? もし隣国アグゲリスなどに落ちていたとすれば……」
 この世界は負の感情の存在しない理想郷。だが、そのためには、その負の感情を持ったまま中途転生した者への、決して甘受出来るようなものではない処遇が密かになされている。
 それはまさに、負の感情の封じ込め政策であった。
「トルソ。規律は規律だ。貴様には謹慎を申し渡す。よいな?」
 トルソは硬い表情を崩さずに一言、「御意」と返した。

 心を持つ人として生まれてきた以上、その程度での個人差はあるが、喜怒哀楽の感情は誰しもが持っているものだ。だが、「怒」や「哀」の感情は「負」のものであるという風潮がこの世界には色濃く満ちていた。
 他人と自分とを比べて「自分は不幸だ」と感じること、自分にないものを他人が持っていて、そのことに「妬み」や「羨望」の気持ちを抱くこと、自尊心を傷付けられたことに対し「怒り」を感じること、自分の不幸を顧みて「悲しみ」や「恨み」を抱くこと、こうした感情は無いに越したことはないが、あったからとして、それを「不自然」なものとはならないであろう。そうした感情や気持ちは誰しもが一度は感じたことのあるであろうものだ。ただ、それを前を向いて進むための原動力に変えてしまうことが出来ればよい。「負」の感情を知っているからこそ、「正」の力が如何に大きいものかが分かるのだ。「悲しみ」や「怒り」の感情が分かるからこそ、それを乗り越えるために得た力が如何に強いものかが理解出来るのだ。「光」と「影」は一心同体。双方があって初めて、双方を理解出来る、感じることが出来る、そういうものなのではなかろうか。
 人が生まれた時、その心は言わば「中立的」な状態と表現出来るであろう。気分が良ければ喜び、悪ければ悲しむ。中立的な状態とは、何の束縛もない純粋な心の状態なのである。それは成長するに従い、様々な干渉を受ける。生まれ付いた世界、社会に沿ったものになっていくのだ。これを「洗脳」と呼ぶのか、または「適応」と呼ぶのか、それは人それぞれの価値観による。
 肝心なことは、その者自身が「幸福」を感じられる心理的状況にあるか否かではなかろうか。物事を「素直」に感じ取られる心理にあるか否かではなかろうか。その者が自身の心理状態に「心地よさ」を感じられるか否かではなかろうか。それは、たとえ様々な社会的干渉、対人環境があったにせよ、自身を見失わければ追求出来ることなのである。
 これを「奇麗言」のように感じられる者も少なくはないだろう。時には自分自身に嘘を付き、誤魔化すことを強要される状況が発生することもある。そこで如何に感じ、如何に振舞うかはその者の価値観によるところが多い。だが、そんな状況にあっても、自分らしさを失わないことが求められよう。環境によっては、その自分らしさに手を入れなければならない時、修正せねばならない時がある。世間では「妥協」と言う言葉があるが、言い換えれば「妥協」はある種の「歩み寄り」でもある。それを如何に捉えるかで、その人の価値が決まってくるのかもしれない。新たな要素を組み入れ、自身らしさに磨きを掛けていく。その糧として、様々な刺激や干渉があるのなら、それをどんどん受け入れていけばいいのだ。
 自分らしさとは、自分が持つ価値観の総体である。そして価値観の成長、自分らしさの成長は、「負」「影」の感情を知るからこそ、更なる力強き糧になり得る。苦しみや怒り、悲しさを知るからこそ、自分以外の者の苦しさや怒り、悲しさが分かり、歩み寄ることが出来る。
 だが、この世界では「負」「影」そのものを一掃することに尽力がなされているのである。「負」「影」の化身であるセンチュリオン、そしてそれらが「主」とする者の復活を阻止するがためだ。

 トルソのような中途転生者は、元々その肉体が自然に死を迎える前に、事故なり、殺害されるなり、自殺を遂げるなりして命を閉じ、この世界で転生した者達のことを言う。死した当時の姿で、その時の記憶を残したまま、全く新しい世界での新たな人生……それは本来迎える筈だった「余生」とも表現出来るが、それを新たなこの地で送るのである。それは過酷に他ならない。会いたい者はいない、懐かしい場所もない、過去の記憶に残るものは何一つ存在しない、知っている者さえ一人もいない、そんな孤独な状況で新生活が始まるのだ。時には絶望に似た感情に襲われることさえある。
 そんな中途転生者は、その居住地を特定された場所に限定される。ここ「レグヌム・プリンキピス」では一つの広大な特別行政区が設けられている。そこに複数の都市や村が築かれ、中途転生者は先ずそこに住むことを義務付けられる。そして政府から派遣される「ススティネーレ」と呼ばれる「サポーター」が住民の「思考教育」を施すのである。巷にある自己啓発セミナーや勉強会を国家規模で行っていると例えられよう。自身を不幸視する者の視点を変えさせ、退廃的な考え方や価値観を少しずつ崩していき、心の周りに張り巡らされた「防壁」を壊し、そこに「明かり」を灯していくのである。時にはマンツーマンで「サポーター」が対象人物と共に寝起きし、じっくりと事に取り組んでいくのだ。そして最終的に、「生粋」の転生者のコミュニティに入っても、周囲に「悪影響」を与えないであろうという意味での「合格判定」がなされて初めて、特定地域からの外出や居住が政府から許可されるのである。
 トルソ自身もその「ススティネーレ政策」にて「再教育」を施された人物であった。だが元々がそこまでのネガティブ思考の持ち主でなかったこともあり、あとは如何に素早く「負」の感情を「正」のそれに転じることが出来るかという「教育」を施されたに過ぎなかった。
 トルソ自身はこの政策には懐疑的であった。いや、反対論者であった。そのような政策は政策として国家が個人に強要するものではないと考えているからだ。だがトルソはその政策を行う国の機関である空間近衛騎士団に入隊した。願うは、センチュリオンなどの脅威を感じる必要がなくなり、この世界を素のままでの人の姿が尊重されるものになるように変えたいと言うことなのだ。

 この世界は矛盾している。如何なる「負」の感情も存在しない理想郷と謳いながら、その実はセンチュリオンなる存在への「恐怖」に支配されているのだ。この世界の「理想郷」とは虚構に過ぎない。
 トルソはそう考えていた。そのような考え方は「反社会的」なものであるので、実際はおくびにも出してはいない。

   ※ ※ ※ ※ ※ 

 啓吾がアイーダの家に「間借り」を始めて四日が経った。ただ居るだけでは何なので、啓吾は家に居る「銀」の世話と、簡単な家事手伝いをしている。皿などの洗い物や洗濯干し、部屋の掃除等だ。アイーダは高齢なため、政府が支払う年金にて生活をしていたが、それでも近所で子供達に読み書きを教えるアルバイトのようなことを続けていた。
 啓吾や、その後からやって来た父の須藤が感じた、この世界で人が話す姿に感じた違和感……耳では「日本語」に聞こえる言葉なのだが、それを話す口元がどうも「ずれている」、洋画の吹き替えをしているかのような「ずれ」は、実はこの世界の者が話す言葉には「共通語」があるものの、何を伝えたいか、何が伝えられてきているかは直接「脳」にテレパシーの如く届くためであり、特に何語を話すかということは問題にはならないと言うことなのである。
 ただ、擬似ラテン語なる「共通語」が定められているので、ここで生きる者は全てその言語を学び、その言語で話して意思を表現するのである。この共通語を話せない者は中途転生者や、中途転生者を直接に親として持った者に限った現象となる。転生前の記憶や知識をそのまま受け継いで来ているので、必然的にその者の転生前の「母語」もそのままの状態になっているのである。中途でない、純粋にこの世界に赤ん坊として生まれた者は、親が中途転生者ならその親の話す言語を受け継ぎ、純粋転生者を親に持つ者は、ここでの母語である擬似ラテン語を用いて話すようになっている。意志を伝えることに難がない以上、話す時の口の動きで、純粋転生者か中途転生者かを見分けることが出来るのだ。
 そうは言っても、それはあくまでも話し言葉でのことなので、公式の書き言葉は擬似ラテン語で統一されている。よって、中途転生者の子供は一から「公用語」である擬似ラテン語の読み方と書き方を学ばねばならない。英語を母語とする中途転生者とスワヒリ語を母語とする中途転生者とでは、口頭では意思伝達について何の苦労もしないのだが、いざ書面上でとなると意思の疎通が出来ないと言うことになってしまう。そこで登場するのが「共通語」である擬似ラテン語なのだ。
 そこで、啓吾もその擬似ラテン語の読み書きをアイーダから教わることになった。ただ、言語自体は多少複雑な構造をもっている上に、どんな言語でもそうだが一朝一夕で習得出来るようなものはない。そこで、身の回りの品の名前の「綴り」や、よく使われる基本表現例文の「暗記」をすることから始まっていた。
 啓吾にとって、この勉強の時間は破壊的に退屈極まりないものであった。父に会いたい、家に帰りたいという気持ちが強いのに、何時までいるか分からないこの世界の言葉を学ぶには、モチベーションの続く筈がなかったのだ。暗記することに関し、モチベーションの欠如はある意味致命的だ。しかも「教師」としてのアイーダは手厳しい。
 今日はアイーダのラテン語教室は休みだ。そうなると、アイーダは啓吾の家庭教師となる。丸山七海よりも手厳しい、いや、比べようのないほど厳しい。口うるさいのではなく、とにかく多量の「課題」や、その後の「宿題」を出すのだ。学校で出されていた漢字のドリルをやっているほうがどれだけ気が楽なことか。
 ただ、漢字の書き取りとは比較にならない気苦労がある。ラテン語自体は名詞をそのままの形で用いることは少ない。ラテン語には、「水がある」「水の温度」「水につける」「水を撒く」の「が」「の」「に」「を」に当たる助詞がなく、その代わりに「水」に当たる名詞の語尾の形をころころ変えるのだが、その変化パターンを覚えるにはかなりの根気と努力が必要だったりする。ここでのラテン語も同様の構造を持っており、そこまでを教えるのは如何なものか、とアイーダ自身も感じていた。
「さあ、今日は市場まで行かなきゃ。野菜や果物がそろそろなくなってきたからね」
 小難しい表情を浮かべながら、「私の名前は須藤啓吾です」という例文を繰り返し書いている啓吾に、アイーダは「助け舟」を出した。啓吾がほっとした顔付きになるのを見て、アイーダは苦笑いを浮かべた。
「ケイゴは学校じゃ何が得意だったの? 勉強じゃなさそうだけど」
「体育!」
 子供らしい元気な表情を浮かべて啓吾は答えた。
「運動? そうらしいわね」
「水泳と器械体操!」
「そうなんだ」
「パパが体操得意なんだ。でも去年の運動会でパパ、怪我しちゃったの」
「あらら」
 去年の啓吾の小学校で運動会があった頃。父の須藤は啓吾と一緒にリレーや借り物競争などに出て張り切っていたのだ。そのような場において、若い頃の体力を過信した父親が、無理をして痛い目に遭い、実際の年齢とその体力の減退にげんなりしてしまうと言う話がよくある。そして、須藤もその例外ではなかった。ただ、それは競技中の話ではなく、啓吾の友達の前で「いい格好」を見せようとしてのことだった。啓吾が須藤を体操が得意中の得意だと自慢する話から始まったのだが、高校時代に体操部だった須藤は、ここは昔取った杵柄だ、一丁見せてやろうかと思ったのだ。先ずは子供達の見ている前でマカコを披露、この時は成功。次いでハンドスプリング。これも辛うじて成功。啓吾や他の子供達は惜しみない拍手を送った。
「けいちゃんのお父さん、すごーい!」
 この言葉に気分を良くした須藤は、止めておけばよかったのだが、次いでロンダートに挑み、そして顔をしかめてひっくり返った。見事に大腿部の肉離れを引き起こしていたのだった。
「楽しいパパなのね。何だか啓吾が羨ましいわ」
 アイーダは笑って言った。まさか自分のことがそんな場所で話の種になっていることなど、須藤には想像も付かなかったであろう。 
 父の話をして浮かべた笑顔が消え、啓吾はしゅんとした表情になっていったのをアイーダは見逃さなかった。
「さ、今日は啓吾を市場に連れてってあげるわ。荷物持つの手伝ってね。市場はきっと楽しいわよ」
 アイーダはストールを巻き、啓吾を外へと誘った。先程まで降っていた雨は止み、雲の切れ間から若緑色の空が顔を覗かせていた。
 
 その時、部屋の隅で休んでいたシャリーズがおもむろに顔を上げ、一度けたたましく鳴いた。啓吾はわっと声を上げて驚き、アイーダもシャリーズの突然の嘶きに一瞬唖然とした表情を浮かべた。
「シャリーズ! 静かになさい! 突然どうしたのよ?」
 シャリーズは家の出入り口に当たる扉を睨み付けていた。アイーダはその扉を開け、周囲と雨上がりの空を見上げた。一羽の黒い小鳥が飛び去る姿が見えただけで、他に特に変わったものは見当たらない。
「びっくりさせないで」
 そう言って、アイーダは扉を閉めた。

 庭にある木の枝に止まっていて、そして飛び立ったその黒い小鳥は、アイーダが扉を閉めたタイミングと同時に、その体を空中に四散させ、黒き靄に姿を戻していた。


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