スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←第十三章 ポルタ・モルトゥス突破  →第十五章 神隠し 【前編】
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


  • 【第十三章 ポルタ・モルトゥス突破 】へ
  • 【第十五章 神隠し 【前編】 】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

リフレクト・ワールド(The Reflected World)

第十四章 擦れ違う心

 ←第十三章 ポルタ・モルトゥス突破  →第十五章 神隠し 【前編】
 夕方五時を過ぎる頃、須藤は仲間達とグラスを交わしていた。高校時代に入部し活動していた体操部、その当時に共に部活動に励んでいた同期の仲間、澤渡祐(さわたりゆたか)の追悼会とOB会を兼ねての集まりだ。毎年夏のこの日になるとOB達が集まり、思い出話に花を咲かせるのだ。澤渡の三歳年下の妹が結婚式を挙げた際、兄と親交のあった須藤達も招待されたことがあった。それまでも澤渡の命日が近くなると銘々が線香をあげに訪れていたのだが、この挙式をきっかけに皆で一同に集まるようになっていたのだ。去年は須藤は息子の啓吾を連れて参加していた。いつもは昼過ぎに妹宅へ訪問し、澤渡に似た甥っ子とじゃれ合ったりしている。そして妹と集まったOBの仲間達とで、思い出話や今の銘々の暮らし振りの話をしたりして過ごすのだ。ただ、今年はその妹夫婦が夫の実家での突然の不幸で、これまでのように妹と共に皆で会う機会を設けられなくなってしまっていた。OB達は予め今日の再会の予定を入れており、先ずは皆顔合わせがてら会い、また日を改めて銘々で訪問しようということになった。そこで今、JR大宮駅の西口にある居酒屋で軽い食事会となっているのだ。

 本当はまた啓吾も連れて行こうかと考えていたのだが、そんな事情で今年は須藤一人での参加とすることにしたのだ。ただ、仮にそんな急な事情がなかったとしても、今回の啓吾の参加は如何なものかという、多少の躊躇いが須藤の心の中にあった。亡き母を見たと言い始めてからの啓吾の変化、母のフォトスタンドを写真を下にして伏せていた心境を須藤は考えた。啓吾は子供ではあっても、子供なりの心の中で必死に葛藤に耐えている。そこで、故人を慕う者が集まり、共に過ごした頃の思い出を語り合い、併せて別れの後銘々が歩み出した各々の道、それに対する思いや活躍の話をすることで、故人は後に生きる者の心の中で記憶として残り、想い出として生き続け、それが今生きる自分自身の支えの一つとなっていると、啓吾に改めて伝えたかった。まだ幼い啓吾にはそれを理解するにはまだ難しいであろうが、それでも残った者達の生き方を子供なりでよい、その目で見て心に残して貰いたいのだ。
 だが、須藤には何かしらが心に引っ掛かっていた。何となく腑に落ちない、不自然なものを感じていた。母のことを話に出し、懐かしがったり、寂しがったり、悲しみや取り残された感覚を爆発させたりするならまだしも、「見た」という一言が何処となく気になっていたのだ。啓吾の見た「母」は他人の空似であることが一番考えられる。背格好や服装がそっくりであれば、子供だけでない、大人だって勘違いをするものだ。しかも勘違いをした者が子供であれば、それを信じ込むことや信じたいという心理も別段不思議なことではない。そして、そのことがトリガーとなり、亡き母のことが頭の中に満ち溢れて、自分でも収拾が付かなくなってしまっていることもあり得る。
 ただの考え過ぎかもしれない。根拠のない疑問など不要だ。きっといつもの啓吾に戻る。そう、神様は乗り越えられない試練は与えない。そうやって人は成長していくのだ。
「その神様はお前の心の中にいる」
 須藤の高校時代の恩師、体操部顧問だった米嶋光男(よねじまみつお)が語った言葉。昔、どうしようもなかった自分を救ってくれた恩師の遺した言葉。
 だが……さすがにそうとは言っても、まだ十歳に満たない子供には酷なことだろう。乗り越えて貰いたいが、それにはまだ自分が後押ししてやらなくてはいけない。幼い息子の手をしっかり繋ぎ、息子の視線で共に先を見つめ、長い道のりを一緒に歩み、手を放して一人で歩き出せるようになれるまで、傍に一緒にいてやらなくてはいけない。「やらなくてはならない」と言うよりも「してやりたい」とするところが本音だ。
 帰ったら啓吾と話そう。
「おい、一樹。何しけた表情してるんだ?」
 同期の仲間の伊東が声を掛けてきた。外資系の証券マンとして毎日を戦い抜いている彼も、今は屈託のない笑顔ではしゃいでいる。昔よく見た笑顔だ。互いにふざけて部室で賭け麻雀をやっていた頃、よく負かせて叩きのめしていたのだが、しかし必ず見事なまでの奇跡的大逆転をやってのける「結果論的強運」の持ち主で、残念がる自分を見て浮かべた満面の笑顔。まさにあの時の笑顔にそっくりだ。やれやれだ。当時の思い出が甦り、須藤に笑顔が戻ってきた。
「なあ、一枚撮ろうぜ」
「あいよ」
 当時のマネージャーの「撮るよぉ!」の一言で皆、スマートフォンのカメラレンズのほうへ一斉に顔を向けた。同期の他、共に頑張った先輩後輩もいる中、須藤は笑顔を作った。

 神楽坂のマンションに帰り着いたのは夜の九時を過ぎようとしていた頃だった。啓吾と共に留守番をしていた丸山七海が出迎える。
「お帰りなさい、おじさま。んん、あんまり酔ってないのね」
「七海ちゃんに留守番してもらってるのに、べろべろになって帰ってきちゃ、君のお父さんに会わせる顔がないよ。いろいろありがとうね」
 七海は笑って、冷蔵庫から冷えた麦茶を出した。
「啓吾は?」
「眠ってます」
「うん」
 須藤は啓吾の眠るベッドのほうへ行こうとするところを、七海に呼び止められた。
「おじさま、ちょっと」
「ん?」
 七海は少し寂しげな笑顔を浮かべ、今はそっとしてそのまま寝かせてあげてと言った。須藤は七海の表情を少し見つめると、
「啓吾、何か言ってた?」
とトーンを落とした声で訊いた。七海は黙って頷いた。
「啓吾君、泣いちゃったんです。ずっと我慢していたみたいで」
「我慢? どうしたの?」
 須藤はダイニングの椅子に腰掛け、七海を改めて見つめた。
 七海は麦茶の入ったグラスを須藤の前に置くと、ゆっくりとした仕草で須藤の向かい側に座り、啓吾が自分に語った話の内容を伝えた。須藤は目を細めて些か俯き加減で呟いた。
「そうか……」
 啓吾があの日以来、毎日母の姿を目にしていたという話を初めて聞き、ちょっとは驚いたのだが、それよりもその話を自分にしてこなかった啓吾の気持ちを考えてみた。七海に話すのではなく、自分に話して欲しかったという気持ちが全くないわけではない。だが、小さな心を痛めながら、啓吾は自分の中でその「事実」を処理しようとしていたのだろうと思うと、苦しみに耐えていた啓吾が不憫でならなかった。
「啓吾君、こうも言ってました」
 七海が続けた。

「啓吾君、そのことはお父さんに話した?」
 キャンプに行った時の写真が保存されているアルバムを閉じると、七海の渡したティッシュペーパーで涙を拭く啓吾に訊いた。啓吾は俯いたまま首を横に振った。
「どうして?」 
 啓吾はしばらく黙っていたが、ゆっくりと口を開いた。
「パパ、僕が見たんだったら、見たことを信じなさいって言った。ママを見たってことは、僕には本当のことだからって」
 七海は黙って頷いて見せた。
「でも僕、ママのお葬式に出たんだ。ママは死んじゃったんだもの。だから、あのママは幽霊かもしれないんだ。それに、そのママと喋ってないんだもの。ママ、傍に来てくれないし」
 啓吾は顔を上げ、七海の目を見詰めて続けた。
「それにさ、パパはママを見たって言わないんだ。もし僕みたいに見てたら、ママを見たよって教えてくれると思う。でも言わない。じゃあ、ママはパパのところには行ってないんでしょ? パパがきっと寂しくなっちゃうから、ママのことは絶対喋っちゃ駄目なんだ」
 七海は驚いた。この子はこの年齢で自分の父親のことを気遣っている。自分が辛いにも関わらず、父親が寂しがるといけないからとして、言いたいことを言わずに、自分が感じている寂しさを我慢しながらも、その話を黙っている。父親を思い慕い、そして父親の心を守ろうとしている。
 何て子だろう。
 七海は自分の口に手を当て、視線を啓吾から部屋の天井へと向けた。込み上げてくる涙を堪えられない。
「啓吾君、すごい。すごいよ君。男の子なんだね」
 そう啓吾に声を掛けつつ、その我慢がこれから八歳になろうとしているに過ぎない子供にとっては荷が重過ぎる、放つ言葉が不自然なまでに大人すぎると感じ、七海は啓吾が気掛かりでならなかった。

 須藤は七海の話を聞き、いたたまれない気持ちに責め苛まれてた。右肘をテーブルに付き、その手を額に当て、視線をテーブルの上に落とし、口を真一文字につぐんだ。こぼれる涙がぽたりと小さな音を立てて落ちた。何時からそんな我慢をするような子供になっていたのだろう。何時からそんな苦しみを一人で抱え込むようになってしまったのだろう。何時からそんな年齢不相応な気遣いをさせるようにしてしまったのだろう。啓吾はずっと元気に振舞っているように見えていた。最近は気掛かりな変化が出始めてはいたが、まさか自分の知らないところでそんな苦痛を一人で抱え込んでいたなんて、須藤は気付いていなかった。何時の頃からか、あの子なら大丈夫だ、きっと乗り越えられる、そんな姿を自分は見守っていくのだ……そんな思いを七歳の子供に知らずに押し付けていた。自分の描く理想像を何時の間にか幼い息子に押し付けてしまっていた。掛けていた言葉が知らずに息子を追い込んでしまっていた。
 何ということだ。

「けいちゃんが見たって言うなら、それはきっとけいちゃんには本当のことだと思うよ」
「けいちゃんはけいちゃんの目を信じたらいい。見たんだってことを信じればいい」

 そう語って聞かせたあの夜の記憶がはっきりと甦ってくる。だが、結局は現実から目を背けるわけにはいかない。それでは何時までも前へ進めない。何時までも同じ場所で足踏みして、または立ち止まっているだけしか出来ない。母に会いたいという気持ちが啓吾に幻影を見せていたのだろう。
「おじさま。啓吾君には残酷かもしれないけど……」
「ああ。分かってる。ちゃんと話さなきゃな」
 須藤は指で目頭を押さえつつ、軽く鼻をすすって顔を上げた。

 翌朝。須藤はいつものように朝食を作っていた。ベランダでは啓吾が先日父と買ってきたミニトマトの苗木に水をやっていた。苗木とはいってもそこそこに成長しており、いくつか蕾を付けていた。しばらくすれば花が咲き、小さな実を付けるだろう。
 須藤はタオルで手を拭きながらベランダに出た。
「けいちゃん、トマトの蕾、大きくなってる?」
 その問い掛けに啓吾は無言で首を横に振った。
「そっか。花が咲くのはもっと後からだな」
「……このトマトも枯れるんだよね。死んじゃうんだよね」
 啓吾がぽつりと呟いた。
 死んじゃうんだよね。この言葉に須藤は一瞬、心臓が軽く跳ね上がるような感覚を覚えた。
 二人は室内に戻った。いつもの朝のテレビ番組が他愛のない芸能ニュースを報じていた。須藤はテレビを消すと、啓吾に声を掛けた。
「啓吾。座りなさい」
 呼び方が「けいちゃん」でなく「啓吾」となる時は、決まって怒られるか、さもなければ何か非常に大事な話をする時の合図なのだ、そのように啓吾は感じていた。須藤はダイニングカウンターでなく、テーブルの傍のソファに腰を下ろすと、隣にあるクッションを手で軽く叩き、啓吾をここに座るように促した。
 啓吾は父の横に腰を下ろし、その顔を見上げた。須藤は息子の肩に自分の手を置き、語り始めた。
「パパも……ママには会いたい。啓吾がママを見たって話をした時、本当はね、『けいちゃん、どうしちゃったのかな? 何かあったのかな?』って思った。でも、ちょっと羨ましかったな。パパはママに会えないから」
 啓吾はじっと父の顔を見つめている。
「でも、パパは寂しがってはいられないんだ。ママは啓吾にとってたった一人のママだ。大事なママだ。そしてパパにとってもママは大切な人だ。大好きで大好きで一緒になったんだから。結婚とかそう言うのは、まだ啓吾には難しいだろうけど、好きな人と一緒にいたいって思うのは分かるかい?」
 啓吾は黙って頷く。
「パパは会社の社長さんだ。パパは啓吾がとっても大事だ。そして会社のみんなも大事だ。七海お姉ちゃんも、お姉ちゃんのパパの重雄おじさんも大事。そう、パパには大事で守りたい人がたくさんいる。だからパパは寂しがってたり、悲しくて泣いたり、そんなところを見られたらみんなが心配する。もちろん、パパだって泣きたくなるし辛いなって思うことはある。パパは機械じゃないからね」
 須藤は優しく、静かに啓吾に語り掛け続ける。
「そんな時はこっそり泣いたりすることもあるかな。どうしても我慢出来ない時は泣いちゃうこともあるかな。でもパパも男だからね。みんなの前じゃ泣けない。大好きな人の前なら……どうかな?」
「ママとか?」
「そうだね。そのママは今はいない。でもママはパパの思い出の中にいる。ママはパパには見えないけど、それでもママはパパの心の中にいる。だからパパは一人ぼっちじゃない。それに大好きな啓吾が傍にいてくれる。みんながパパの傍にいてくれる」
 須藤は啓吾の肩に置いた手に力を込めた。
「そして、それは啓吾にとっても同じなんじゃないかな。ほら、啓吾にも仲良しの友達はいるだろ? それに七海お姉ちゃんも啓吾のことを思ってくれている。体操教室とかスイミングにもよく喋ったりする仲間とかさ、勿論、パパだって啓吾のことが大好きだ。啓吾も一人ぼっちじゃない。啓吾の傍にいてくれる人はちゃんといる」
 啓吾は須藤の顔をじっと見続けている。
「啓吾がママのことを忘れないでいること、ママのことを思ってあげることって凄くいいことだと思う。そして、そんな啓吾はすごく優しい子だな、ってパパは思う。ただ、それだけじゃないんだ。啓吾は今、啓吾の傍にいてくれる人を大事にして欲しいんだ。今も、これからも、ずっと大切にしてもらいたいんだ」
 須藤は握りこぶしを優しく啓吾の胸に当てた。
「本当のママは今、啓吾のここにいるんだ」
 黙って須藤の話を聞いていた啓吾が口を開いた。
「じゃあ、あのママは本当のママじゃないの? あのママは嘘のママなの? 昨日も学校で会ったんだよ」
 昨日も会った、そんな言葉が返ってくることは何となく想像はしていたが、啓吾が会ったと言うその相手が誰だかはともかく、啓吾にはそのことから目を離してもらいたかった。須藤はその母親らしき人物のことを啓吾の頭の中から追い出して貰いたかった。
「啓吾が嘘を言ってるとは思わない。ただ、嘘かどうかはパパには分からない。パパはそのママに会ったことがないんだ」
 啓吾は体をよじって、自分の方の上に置かれた父の手を避けた。
「パパ、言ったじゃない。僕が見たんだから、見たものを信じなさいって。言ったじゃない? 会ったんだもん」
 須藤は大きく息を一度吐いた。
「啓吾、パパは啓吾に会いに来る、そのママよりも、今の友達とか仲間を思ってもらいたいんだ。寂しいけど、ママは天国に行っちゃったんだ」
「だって見たんだもん! 毎日来るんだもん! ママに会いたかったんだよ、僕。ずっと会いたかったママが来たんだよ! なのに何でパパはそんなことを言うの?」
 啓吾はソファから立ち上がって大声で父に訴えかけた。
「僕、嘘付いてない!」
「啓吾、パパはそんなこと言ってない。啓吾が嘘付いてるなんて……」
「じゃあ何で? ママは近くに来てくれないし、パパはそんなこと言うし、何で? 何でなの?」
「啓吾……」
「知らない! もう知らない!」
 啓吾は泣きべそをかいていた。自分が見たことを父に否定された。自分でもどうしていいか分からず、悩み、夜は一人きりで涙を流し、それでも何とか心の中を子供なりに整理しようとして、道に迷っているところを大好きな父に頼りたかったのに、その大好きな父は自分を突き放した。自分は一人ぼっちだという寂寥感が荒れ狂う嵐のように心に襲い掛かってきた。その悲しみと寂しさと、自分を信じてくれない父親への怒りとが重ね重ねになって、心の中を蹂躙されたように感じての涙だった。
 須藤の言うことは間違ってはいない。正論だ。だが、その正論は幼い啓吾が今求めているものではなかった。
 部屋の中に飛び込んで扉を閉め切り、中で声を上げて泣くということが年相応の反応かもしれないが、啓吾はそうしなかった。部屋に入りランドセルと、放課後に直行する体操教室のための着替えを入れたトートバッグを掴むと、そのまま出掛けようとした。
「啓吾、朝ご飯は……」
「もう遅れちゃうよ! いらない!」
 そう言って、啓吾は居室を飛び出した。玄関のドアが閉まる音が室内に寂しく響く。
 須藤は啓吾の後を追った。エレベーターを待つ啓吾に声を掛けた。
「啓吾、待ちなさい……」
 電子アラーム音が鳴り、エレベーターの扉が開く。啓吾は父のほうを向き、父を睨み付け、涙声で叫んだ。
「ママが待ってるんだ!」
 幼き息子の初めての、父に対する反抗心の現われだった。
 一瞬、頭の中が真っ白になった。須藤はその足取りを止めた。啓吾はエレベーターに乗り、須藤の視界から姿を消した。
「このトマトも枯れるんだよね。死んじゃうんだよね」
 そう、啓吾は頭の中では母の死を受け入れよう、納得しようとしていた。それが故のその言葉なのだ。須藤はそう思っていた。しかし、啓吾の求めていたことは、それに対して正論で諭されることではなかった。すべきことは、黙って抱きしめてやることだったのだ。だが、須藤の心の中には「ママに会った」という言葉に対しての「焦り」を感じていた。何とかしてその泥沼から助け出さなくては、との焦りがあった。一人にしておきがちな息子を助けたいがための焦りが出てしまったのか。

 自分は本当は、自分に話し出せない啓吾の気持ちに気付いていなかったのではないだろうか。言い出せない時の苦しみや切なさ。それを理詰めで追い詰めただけなのではないか。
 須藤は啓吾の後を追うことが出来なかった。 

 啓吾自身にも分かっていた。我慢出来なかったのは、自分が見たことを否定されたような気がしてならなかったことだ。それが悔しくて悲しくて堪らなかったのだ。
 啓吾は心に決めていた。あの母親を捕まえれば……フォトスタンドにある姿のままで毎日、遠目で自分を見つめるあの母親を捕まえて、話をすれば全てがはっきりする筈なのだ。そして父もきっと自分の言うことを分かってくれる。
 今日こそは絶対に。 

関連記事
スポンサーサイト


  • 【第十三章 ポルタ・モルトゥス突破 】へ
  • 【第十五章 神隠し 【前編】 】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【第十三章 ポルタ・モルトゥス突破 】へ
  • 【第十五章 神隠し 【前編】 】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。