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リフレクト・ワールド(The Reflected World)

第十三章 ポルタ・モルトゥス突破

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 ポルタ・モルトゥス。「死者の門」を意味する名前が付けられた、この石造りの門が何時造られたのかは分かっていない。恐らくは創造主が二つの世界を創った時に設けたのかもしれない。そして、現世の何処かにあるといわれるポルタ・ノウィ・ウィタエ、「新たな命の門」へ繋がっているとするのが、通称「現世への門」に関する伝承だ。これはアフェクシアの王国から出向く場合のことであり、我々現世に生きる者からすれば、「新たな命の門」をくぐって向こうへ行くことになる。「死」が「新たな命」と解釈されている名称は、「死」を未知の恐怖と捉える者からすれば、多少なりとも恐怖の感情を減らしてくれる効果があるのかもしれない。ただ、そのような門が何処にあるのかはおろか、その存在さえもを知らない者が殆どなので、実際のところはあまり門の名前などに意味はないのであろう。
 だが、現世へ赴く立場の者からすれば、その門は全く別の意味を持つ存在となる。そもそも互いの世界を行き来するということなど、本来は決してあってはならないこととされている。それは二つの隔たれた世界の存在の意義そのものを根底から覆してしまうことにもなりかねないからだ。そして自然の摂理にも大いに反することである。生者と死者とが混在することは、言うなれば「神」の摂理にも反することである。これは二つの世界が存在するようになってからの、言うなれば「神話」の時代からの秩序であり、往来は全く以って許されざる禁忌なのだ。
 アフェクシアの決断は、その禁忌を破ることになる。「神」の定めし原則に刃を向けることになる。だが、その禁忌を破らない限り、本来ならあってはならない「秩序の崩壊」を食い止める術はない。ならば「神」にさえも楯突くことを厭わない。そんな女王の決断は勇断なのか愚断なのか、それは後世の者達に委ねればよい。そうアフェクシアは考えていた。

「隊長、『白簾霊峰』です」
 ペイトンが緊張する面持ちでグランシュに告げた。グランシュは甲冑を身に着けた姿で、両腕を胸で組んで静かに頷いた。一面の草原とその中に不自然に広がる広大なクレバス。両者は光と闇の双極の姿を目前で具現化させたかのように映っている。その先には灰白色の高山が、真っ白い霧の帯に包まれた姿を呈している。
 ペイトンだけではない、艦内乗務員は全員が緊張に身を震わせている。その中に今回、門をくぐって旅立つ空間近衛騎士団員の三名、若手で、その素養は未だ荒削りではあるが、その目はまっすぐに自分が何を成すべきか、何を目指すべきかを見つめている男のシュナ、そして流れるような茶褐色の長髪が美しく、白い肌に締まった鳶色の瞳はアフェクシアの持つ気品や気構え、精神の芯の強靭ささえもが漂う女性騎士のヴィクセン、そして副隊長であり、今回の任務に自分が赴くとアフェクシアとグランシュに直談判し、今回グランシュに代わり参加することになったトルソも、艦内の控え室で無言で到着を待っていた。トルソは自身の艦「ヴンダバール」が「黒霧の弾道」に急襲され、何も出来ないまま乗組員ごと四散した悲劇を思い返していた。トルソの額には何本もの深き皺が寄り、ガントレットを装着した両手を組みながら、険しい表情と瞳とで斜め上の壁を睨んでいた。何時、何処から再び「黒霧」が襲ってくるのか分からない。策敵班は全身の神経を尖らせて周囲五四〇度への警戒を行っている。通信回線は常時開かれた状態になっており、王立学術院のクランスと繋いだままになっている。クランス率いる特別チームは、門の周辺に発生している空間の歪みを観測、既に導き出されている歪みの変動パターンデータを基に、今後の変動予測を計算している。
 グランシュ達は山脈の上空に達した。ブリッジの窓の外は真っ白い濃霧が立ち込め、その切れ目から若緑色の空が見え隠れしている。「サンクトゥス・クラトール」号はそのクリームのような濃霧の中を減速しつつ、門の周囲二ミルの範囲に到着した。上空の気流は激しく、気流に船体を押されての縦横の揺れをグランシュやトルソ達はその身に感じていた。
 船体を揺さぶる振動はますますその力を増していた。
「クランスよ、聞こえるか?」
 グランシュがインカム越しに本国にて演算作業を行っている学術院チームへ呼びかける。だがかなり雑音が激しくなりつつあり、音声は聞き取り辛くなり始めていた。
「グランシュ殿……今はまだ……聞こえ……ですが、これ以上……に近付けば音声……困難になるかと思われ……す……」
 音声が途切れているが、まだ意思の疎通は可能なようだ。
「どうだ? 『入り口』は見つけられるか?」
「現在……門の後方周囲……周囲〇・五ミルの範囲にて計測……セクトル……」
 艦の中心から前後に船体を二分するように、縦に「面」を通し、更に艦の正面から後方に掛け、縦と水平の二方向に二つの「面」を通して、合計八分割し、分割した空間を一辺三・五ミルの立方体空間として、それをセクトルと呼んでいる。各々八個の空間が出来るので、八セクトルの空間と設定し、それらにA(アー)からH(ハー)までの呼称を付けている。艦の前方、右上方に広がる空間をセクトル・アー、左上方の空間をセクトル・ベー、右下方はセクトル・ケー、左下方はセクトル・デー、同様に艦後方の四つのセクトル空間をエー、エフ、ゲー、ハーとしている。
「現在、歪……はセクトル・ケーからセク……ゲーへと後方へ移動。歪みの大きさは……未だ突入に適する……にあらず」
 歪みにはその規模があり、突入する固体の大きさ以下の規模の際に無理に入ろうとすれば、歪みからはみ出した部分だけが残り、それ以外を抉り取られるという結果になってしまう。だが、そこを通り抜けたとしても、その先が何処に繋がっているのかが問題である。そのことについて不安を抱いても仕方がない。唯一の手掛かりは、既に計算されている歪みの変動と移動パターンに「ぶれ」が出ていると言うことだった。歪みに丁度、斜め上方三十度の方向へ円錐状に突き出した空間が出来ているのだ。何かが力任せにその中に入り、上方三十度の方向へ進んで行ったと思われる形跡が発見されたのだ。つまり、その中を突っ切って現世へと侵入したものがあるということの証明になっていた。その「何か」がセンチュリオンなのかどうかは限定出来ない。ただ、これまでの状況から判断すれば、異変を巻き起こしている何かしらの「要因」が意図的に侵入したと考えるのが妥当であろうとの結論に至っている。派遣団はその侵入経路を辿って進むのだ。

 クランスからの通信が再び入る。
「次のパター……で、歪みの移動が一時停滞……の規模も……に妥当だと……機会です。ご準備を願い……願います。カウントダウン開始、……ウン開始、五十、四十九、……八、四十……」
 揺れるブリッジにて姿勢を保ちながら、グランシュは艦内マイクを握った。
「突入のカウントダウンに入った! 総員、気を引き締めて当たってくれ! 派遣団は装備の最終確認の後、合図があるまで待機、その後グリフィスと共に降下に移る!」
 その時、策敵班から叫びに似たアナウンスが入った。
「当艦左後方、傾斜角マイナス四十度の方向より未確認物体接近!」
 ペイトンが応答した。
「未確認? 大きさと数は?」
「形状不明、変化しつつこちらに向かってきています! その数……二十……いや、一……? これは……ガス体です! 彗星状の形状にて分裂したり一体化したりしながら接近しています! 数は不明、随時変化しています!」
 グランシュの表情が鬼気迫るものに変化した。
「来たか……! ペイトン!」
 艦長ペイトンは「はっ!」と短く返答すると、航行班に指示を出した。
「回避行動を取れ! 右前方、傾斜角プラス四十五! 推進エンジン全基全開! 左舷スラスター噴射!」
「了解!」
 船体が大きく右前方へ上昇しつつ、右の方向へ傾いていった。黒い霧状の異物は「サンクトゥス・クラトール」の左舷後方から上方へ彗星の如く、または地対空ミサイルの如く高速で突き上がっていった。上空へと直進していった異物は方向をゆるりと変えると、船体左舷、船腹に向けて突き進み始めた。船体は姿勢を直すと下方へ、傾斜角マイナス五十度の角度で急降下し、再び異物を避けた。
「クランス! 我が艦の移動方向はそちらで察知しているな? 艦の進行方向を基準に、引き続き歪みの移動セクトルを連絡してくれ!」
「御意……歪みは……セクトル・カーへ移動、ここで約……約〇・一五ホールスの停滞予想……お急ぎ……ださい。」
「分かった!」
 船体が傾くに併せて、自身の体にかかる重力の方向も移動していく。グランシュやペイトン達乗組員は席に戻り姿勢制御ベルトを付けた。
「セクトル内の座……一六五・二八九・三三七!」
 座標の提示の際に音声がはっきり聞き取れたことに大いなる感謝の念を胸に抱くと、グランシュはトルソへ向けて艦内マイクを握った。ガントレットを通じて、手の力がマイク本体を容赦なく圧迫した。
「……二十、十九、十八……」
「トルソ! シュナ! ヴィクセン! いいな?」
 トルソの大声がブリッジに響いた。
「御意! 何時でも行けます!」
 異物の弾道が再び「サンクトゥス・クラトール」を捉えた。だが今度は異物はその形状を変化させた。一旦四散したかと思うと、それらは数百羽の「烏」のような形状を取り、「群れ」で船体へと突進していった。輪郭の不安定な、目も口も何もない、黒き靄が鳥のような姿で押し寄せてくる。まるで昔にアルフレッド・ヒッチコックが監督した映画「鳥」のワンシーンを彷彿とさせる眺めだ。叫び声を上げながら逃げ惑う子供達の頭上から襲い掛かる多数の烏達。まさに同様の光景が繰り広げられつつある。「烏」に姿を変えた異物が今、グランシュの乗る空間近衛騎士団の旗艦に猛襲を仕掛けていく。
「……十、九、八……」
 カウントダウンはもうじきゼロへと至る。ペイトンの叫びがブリッジに反響する。
「戦闘班、弾幕を張れ! 艦上方及び派遣団の突入口を守備しろ!」
 無数の金属製の矢が群れに向けて発射された。空を切る鋭い音を何重にも重ねつつ、矢は高速で「群れ」の正面全体へと飛び込んでいく。だが矢は「烏」の形を崩すだけで、異物そのものに対する効果は皆無だった。「烏」が再び宙にて四散し、その「欠片」それぞれが改めて合流して新たな「烏」となる間の時間を稼ぐことしか出来なかった。「烏」が船上の帆を粉々に食い散らかしていく。無数の破片が宙を舞った。船体にも「烏」は体当たりを掛け、防壁をものともせず貫くと内部へと侵入していく。船体に次々と穴が穿たれていく。
「行けぇっ! トルソーーっ!」
 グランシュが叫んだ。ベルトは既に外し、ブリッジ内にて体勢を崩しながら、グランシュは椅子の背に両手で掴まりつつ前方を睨んだ。ブリッジ正面の船窓を粉々に打ち砕き、「烏」が羽ばたきながら内部へ侵入してきた。「烏」の本体に触れないよう、搭乗員は体をよじったり、席を離れて船体の傾きに併せて全身を転がり落としたりしている。激しい気流の音と叫び声とがブリッジ内に反響した。その中で、「烏」に飛び掛かられたり、体に群がられた者は、体の該当部分を消滅させてその場で息絶えた。
「舵をとれぇっ! ……何?」
 ペイトンの叫びも空しく、船体の姿勢をコントロールする者は「烏」によってその上半身を消し去られていた。グランシュは傾いた床を一気に駆け上がると、操縦桿を握リ、大きく右下方へと旋回させた。ブリッジを構成する船体部品の欠片や、破られた窓からのガラスが頬や額に高速で飛んでくる。グランシュの顔からの流血がブリッジ内に吹き荒れる気流で小さい滴となって舞い上がった。髪が怒髪天の如く乱れ、額にへばりつく。足元に兜が転がってきた。グランシュは操縦桿を左手で持ちつつ、右手でそれを勢いよく拾い上げると頭に被った。その後床を滑って落ちてくるペイトンの右足首を右手で力の限り掴んだ。
「ペイトン! 椅子だ! 椅子を掴め!」
 ブリッジ内の乗組員が座る椅子は全て床に固定されている。ペイトンは上半身をどうにか起こすと、自分の右手にある椅子にしがみついた。
 グランシュは顔を上げた。打ち破られたブリッジ正面の窓から小さな固体が三個見えた。三羽のグリフィス達だ。
「そうか、行ったか……頼むぞ、皆……」
 暴力的な気流が吹き荒れる中、グランシュは姿勢を直すと操縦桿を握り直し、船の姿勢を直した。そして直立姿勢のまま、推進エンジンのスロットルを全開にし、その空域の離脱を試みた。右舷推進エンジンの片方が機動不能、残る左舷エンジンも四十パーセントの出力しか出せないことが航行班デスクの表示板に映されている。
「こんなところでやられてたまるかぁっ!」
 グランシュは雄叫びにも似た声でそう言うと、操縦桿を奥へと倒し、急降下を行った。破片と煙を撒き散らしながら、満身相違の「サンクトゥス・クラトール」は地上へと突き進んでいった。後方から「烏」達が追いかけてくる。
「た、た、隊長……何を……」
「ペイトン! その椅子にしっかり掴まっていろ!」
 グランシュは艦を地上へ斜め四十度の角度で急降下させた。地上に広がる草原がどんどん近付いてくる。
 地上すれすれの高度になり、グランシュは操縦桿を一気に手前に全力で引いた。艦は船尾を上げ、急浮上を始めた。残った推進エンジンから最後の力を振り絞るかの如く、青白い炎が勢いよく噴出した。追ってきた「烏」達は艦の後方にある草原へと突っ込んでいき、草むらの中でその姿を四散させた。周囲の若緑色の草々が黒く変色していく。「サンクトゥス・クラトール」は地上付近にての極低空航行を全速にて行っていた。
「策敵班、いるか? いたら返事をしろ! 連中の動きを伝えるんだ!」
 息も絶え絶えになりながらも、辛うじて生存していた策敵班員の声がブリッジに響く。
「え……ええ、敵の追撃、確認出来ません! 追撃を……止めた模様です」
 その声にグランシュは安堵の息を漏らした。ペイトンは未だ椅子に両腕でしがみつきながら、声にならない声を上げていた。
 山脈は既に遥か後方まで下がり、周囲の白い濃霧から抜け、若緑色の空に点在する白い雲の下を艦は急速航行していた。グランシュはスロットルを戻し、操縦桿を倒して高度を少し上げた。艦の全崩壊は辛うじて免れられたが、それでもあの勢いなら連中は自分達を皆殺しに出来た筈だという思いが脳裏をよぎる。ふと、トルソが宮殿の医務室で自分に聞かせた話を思い出した。異物はこう告げていたという。

 我の存在を伝えよ

 グランシュは兜を外すと、大きく息を吸い込んだ。
 あの異物には物理攻撃は全く通じない。どんな強固な防壁を以ってしても破壊を防げない。空間近衛騎士団の旗艦であるこの艦は最新鋭の艦だ。それをこうも簡単に蜂の巣にするなど……
「どうすれば対抗出来ると言うのだ?」
 グランシュの額の傷からの流血は止まっていたが、代わりに汗が流れていた。心の中に初めて絶望的な気持ちが駆け抜けた。

 
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