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リフレクト・ワールド(The Reflected World)

第三部 第十三章 「咲夢」

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 王都ゼフィロトより三十ミル(約三十キロ)ほど離れた、とある小さな町、シュタウ。その街の更なる郊外にある一軒の屋敷。そこはかつて、今のように食糧生産が王国政府の管理下に置かれる前に、ワイン農家を何軒かまとめていた小貴族の持ち家であった。だが今はその後継者も亡く、その貴族一門の血筋が完全に途絶えてからは、落ちぶれた過去の一族の成れの果てと町の者達に呼ばれ、だが壊されることもなく、放置されるがままになっていた。シュタウの郊外は森で覆われ、その森の中にひっそりと佇む屋敷に近付く者は殆どいない。稀に、配送業者の使う小型の飛空艇か、郵便配達業者の乗るグリフィスが上空を通過するのみである。
 ところが今、その屋敷の一室にある暖炉には火が灯されている。ココはその暖炉に背を向けて立っていた。むすりとしたその表情は、ココの周りに立つイドア達に向けられることもなく、ただ上目遣いで部屋の扉を見詰めるだけだ。
 扉をノックする音がする。扉が開くと、紅梅色のマントを纏った長身の者がゆらりと入ってきた。シャクルスだ。
「やあ、お久しぶりでございます、皇女殿下」
 シャクルスはマントを外すこともなく、ココの傍にあった大き目の椅子に腰を下ろし、長い脚を組んだ。そして両の手も組んで腿の上に置くと、ココにその視線を向けた。
「随分なお出迎えだったわね」
 ココが唸るような声をシャクルスにぶつける。
「重ね重ねの無礼、お詫び致します。さぞ不愉快な思いをされたことでしょう」
「完了形で言わないで」
 シャクルスは「はい?」と短く返す。
「今も不愉快なの。現在形で言って欲しいところね」
「それはそれは……気の行き届かぬこと、重ねてお詫び致します」
 シャクルスはそう言い、イドア達に退室するよう、手で払う仕草をしてみせた。イドア達は黙って頭を深く下げると、一人ずつ部屋を出ていった。室内には、暖炉の内の小さな火の前で座るシャクルスと、椅子を勧められても座ろうとしないココとの二人きりになった。
「私を捕らえて……何をするつもり?」
 ココは今にもシャクルスに掴み掛りたい衝動を堪えて訊く。だが、シャクルスはその問いに対する答えではなく、別の問いで返した。
「国王妃殿下にお会いになられたくはないですか?」
 ココは全く予想していなかった問い掛けに、その表情に驚きを露わにした。
「何……ですって?」
「お母上に、テレサ国王妃殿下にお会いになられたいのでは、と申しました」
 シャクルスの声は淡々としつつも、何処となく物事を舐めて掛かったかのような感じを覚えさせるものだった。
「お母……様に?」
 ココの唖然とした言葉に、シャクルスは小さく頷いて返す。
「テレサ国王妃殿下は今、あの三冥王の守る洞窟の向こうにある御所におわせられます。貴女のお父上であるティグレ現国王によって、囚われの御身になられております」
「な……!」
 母が父の手によって、何処かの場所にて監禁されていることはココも知っていた。だが、その場所までは見当が付いていなかった。シャクルスが言うには、このシナスタジアの辺境、「試練の門」と呼ばれる洞窟のある山にいると言う。その洞窟は人間の、そしてビストリアン達にとっても最大なる潜在的三大恐怖を司る「三冥王」と呼ばれる精霊がいる。「火に囲まれる」恐怖を司る精霊イフリカンテ、「水に囲まれる」恐怖を司る精霊レビアタナ、そして「狭い所に閉じ込められる」恐怖を司る精霊アングストゥス。その「試練の門」のある山の向こう側には、古き時代からある小さな御所があり、そこにある館にテレサ国王妃は囚われていると言うのが、シャクルスの言い分であった。
 その御所へは、山を大きく迂回していく道があったが、ティグレより三代ほど前の国王の治世からその道は塞がれ、専ら犯罪者を裁く場として、その「試練の門」が使われていた。罪人は裁判を受けた後、その判決内容によってこの場所に送り込まれるのだ。そして、三つある恐怖の門のうち一つを選ばせられる。選択後はその穴へと入り、奥にいる精霊と会う。そこで三大恐怖のうち自ら選択したものを体験することになる。それに耐えた者は晴れて無罪放免となる。だが、そこを突破出来た者はほんの一握りにも満たない数でしかない。よって、罪人はこの洞窟に送り込まれることを、それこそ泣いて嫌がるのだ。その更なる奥にある御所は、言うなれば脱出不能の完全な監獄へと成り果てているのである。「……テレサ国王妃殿下はそこに今、人間の男と共に囚われておられるのです」
 シャクルスの言葉に、ココは再び驚愕の思いを味わうこととなった。
「人間の……何ですって? 人間と一緒に、と言うの?」
「ええ」
「……何故お前がそれを知っているの?」
「調べさせただけですが。ただ、そこへ行こうとする者は誰もおりませんし、そんな命令を下す必要も私にはありませんから。貴女様が望まれなければ、ですが」
 シャクルスはそう言い、脚を組み替えた。
「……で?」
 ココは鋭い視線をシャクルスに向けたまま言う。
「……私にどうしろと?」
「大したことではありません」
 シャクルスは少しばかり前のめりな姿勢を取った。
「私が率いる改革派の代表になって戴きたいだけです」
「改革派の、代表?」
「とは申しましても、ただ貴女様……皇女殿下にその旨を宣言して戴くだけで宜しいのです。後は何もなさる必要はございません」
 そしてシャクルスは一度、鼻をふんと鳴らした。
「この国は言うなれば、立憲君主制誕生前夜にあります。王といえども独断で政治を動かせるわけではありません。王権発動時に対する弾劾官がおりますからな。ただ、この国には憲法と言う、国政の主幹となる法律が未だ定まっておりません。我々はこの法を定め、他の高官達からの、そして何よりも国民からの支持を得て、王に訴えかける体勢を作るつもりです。正当なる理由なくして、我々の申し出を頭から拒絶することは、王であろうとも出来ません。高官達から成る、言うなれば『議会』の場を設けて、王からの法案や命令を話し合い、または我々の主張を申し出る……」
 ココは黙ってシャクルスの話を聞いていた。
「……その主張、話し合った末での結論を国王に談判し、取り決めて戴きたいのですが、それを拒絶することは王権の発動となります。これが国にとって、国民にとって害のあるものであれば、弾劾官が王を弾劾し、場合によっては王を更迭することも可なのです。無論、現在以上に弾劾官の権利が法で以て保証されなくてはなりません。曖昧な前例によってでしか保証されていない彼等の立場を、憲法の中で守らねばなりません」
「何を……お父様に、国王に申し出たいの、貴方は?」
「王の独断での政治を防ぐため、更なる一歩を踏み出したいのです。弾劾官の立場は今のままでは不安定なものです。憲法を設け、ただのお約束な御前会議でしかない場を議会として明確に設け、そこで国政についての話し合いを、法の加護の元に行う土壌を私は作りたいのです」
「で?」
 ココはシャクルスを睨み続けている。
「国政の主幹たる憲法と、国民の支持と言う柱を得られた暁には、私は人間と我々との共存を主なる政策として挙げたい。この閉鎖された王国シナスタジアを解放するのです」
「その考えは大々たるものね、シャクルス」
 ココはふうと溜め息を吐く。
「で、その大義名分のために私と言うお飾りが必要と言う訳ね」
「お飾りとはまた、お言葉が過ぎられる……」
「でも実際はそうでしょう? 私をそんな立場に置けば、国民の支持が得られるとでも言うの?」
「テレサ国王妃の支持は大きかった……そして、その娘君である皇女殿下が先頭に立って戴ければ、その支持も再び得られましょう」
「ふうん……私は……お飾りでなければさしずめ、お父様に対する劇薬ってとこかしら?」
「劇薬には強力な副作用もございますが、ココ様……皇女殿下はそうではございません。万能薬でございます」
「……物事に万能なんてものはないわよ、シャクルス」
「それを悪用にでも致せば、そうもなりましょう」
 シャクルスの返答に、ココの表情は更に険しくなった。
「私はこの国を更に良き方向へ持っていきたいだけです。そのための基盤を設けたいだけなのでございます」
「……どうかしらね」
「御賛同致しかねられますか? 少なくとも、皇女殿下のお想いと、国王妃殿下のお想いは御一緒の筈。そして私めもそう……ならば、それをより現実的に進めていきたいとは思われませんか?」
 ココは憮然とした表情を浮かべながらも、シャクルスの言い分に共感の得られる部分が皆無ではないのも真実であることで、次の言葉を出すことを躊躇った。
 少しの間の沈黙の後、ココは答えた。
「少し……考えさせて貰えないかしら?」
「それは結構ですが……」
 シャクルスは残念そうな表情で言った。
「これは言わば、無血革命みたいなものです。革命には時に強引なまでの物事の展開を必要と致しますが故……誠に申し訳ございませんが、是である返答を戴けぬ限り、皇女殿下をここからお出しすることは致しかねます」
「何ですって? それでは監禁脅迫じゃないの!」
「無論、事が成就した暁には、私はこの命を以て罪を償うことを厭いません」
「……その言葉、しかと覚えておくわ、シャクルス」
「御意」
 そう答えると、シャクルスは再びイドアを室内に招き入れた。
「皇女殿下をお部屋に御案内差し上げなさい。丁重にだ。これ以上の無礼な行為は、たとえ殿下がお許しになられても、私が許さない」
「心配しないでいいわ。この者も貴方も、私は許すつもりなどないから」
 イドアは黙礼すると、ココを連れて部屋を出た。ココはイドアの後に着いて長い廊下を歩いていった。

   ※ ※ ※ ※ ※

 別室でチーズ・サンドイッチとミルクの軽食を啓吾達に取らせている間、キムはサムの神妙な面持ちを眺めていた。
「……どうするの?」
 キムの声掛けに、サムは窓の外を見詰めながら返事をする。
「先ずはハンニバルに伝えなきゃね」
 キムの表情も締まる。
「そうね。姫君がシャクルスの手中にあるとなれば……」
「近いうちに連中は行動を起こすだろう」
「行動か……」
「憲法の制定と議会の設立、まあ、そこまではいいわ」
 サムは視線をキムに向ける。
「問題はその先よ。シャクルスの狙いはそこにある」
「ええ……」
 キムはこくりと小さく頷いて言う。
「あいつが何故ドミヌス家と神官達を取り込んでいるのか……おまけに私兵集団までえらく充実させているわよね。資源産出地域の護衛と、人間界との狭間を併せて守るとか言う理由らしいけど。でも、少なくとも『国境』での連中の動きは皆無だった。せいぜい機械人形を泳がせているだけ。でなきゃ、あの子供達が入ってこられるわけがないもの」
 サムも返す。
「自分の身を守るだけにしてはあの私兵集団は巨大過ぎる。それにドミヌス家はテクタイトの鉱脈を一挙に独占している財閥。国王に対する反乱を起こすにしても、あの力は大き過ぎる……」
「サムはどう思うの?」
「シャクルスの言う人間との協調、共和、共存……あれはただの大義名分でしかない。私達とは違う。私達はそれを争いの火種にするつもりはない」
「あいつ……影じゃ結構なタカ派だものね」
「過激で馬鹿な好戦家よ!」
 サムは吐き捨てるように言った。

「あ」
 そこに啓吾の声が割って入る。
 サムは声のしたほうへ視線を向けた。そこに啓吾が立っていた。啓吾は壁に掛けられている一枚の額をじっと見詰めている。サムはゆっくりと啓吾のほうへ歩み寄った。
「これ……漢字だよね?」
 啓吾は驚いた表情でサムを見た。「漢字」。この単語の響きを耳にしたのは二度目だ。サムも驚きを隠さぬ表情を啓吾に向ける。
「カンジ……これを、この文字を知っているのか、少年?」
「うん。学校ではまだ習ってないけど、これは僕のいる所では皆使っているんだ」
 サムはじっと啓吾の顔を見詰めた。
 似ている……目元があの人に似ている。まさか。
「少年、君の名前は何だい?」
「啓吾」
「ケイゴ?」
「うん。須藤啓吾」
「……アンザイ・エイキではないのか」
 初めて聞く名前ではあるが、それでもこの世界に来て、そしてこの獣人ばかりの国に来て、まさか「日本人」の名前を耳にするとは、啓吾も全く予想も想像も出来なかった。
「私の名前はサム」
「サム……」
「そう。そして、このカンジは私の名前なんだそうだ」
 サムは目を細めて言った。
「夢が咲き誇る……希望を、夢を、想いを実現する力を持った者になるようにと、あの人はこの二文字で私の名前をしたためてくれた」
「あの人……?」
「そう。ケイゴ、君と同じ肌の色、目の色、髪の色をした人だ。そして、君の目はあの人に似ている。アンザイ・エイキと言うのは、その人の一人息子の名前だそうだ。亡くされた子の名前……」
 サムは膝を曲げ、目線を啓吾に合わせて続けた。
「もしや、君が……ケイゴが、そのアンザイ・エイキの転生後の姿とも思ったのだが、君にとって聞き覚えのない名前であれば、きっとケイゴはエイキの中途転生した姿ではないのだろうな……」
「……うん」
 啓吾はサムが何の話をしているのか分からなかったが、その目が何かを思い返し、そして懐かしんでいるような優しいものになっていることには気付いていた。
「あの人に……アンザイ・シュウにケイゴを会わせてみたいものだ」
 サムはそう言うと再び立ち上がり、啓吾の頭を手で撫でた。
 二人の視線は壁に掛かった額に戻った。その額には、二文字の漢字が書かれた一枚の紙が入っている。そこにはこうあった。

「咲夢」

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