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リフレクト・ワールド(The Reflected World)

第三部 第九章 “The Reflected World”

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「偽善」

「憤怒」

「嫉妬」

「強欲」

「悲哀」

「恐怖」

「不安」

「罪悪(感)」

「羨望」

「嫌悪」

「怨恨」

「我執」

「悔恨」

「我欲」

「虚偽」

「背徳」

「寂寥」

「不信」

………………

………………

………………

 そうした数々の名を与えられし異物達。負の、黒の思念体の上に立つ「絶望」、そして「自尊」……

「絶望」達の更なる上に存在するのは七体のセンチュリオン。全ての頂点に立つ、デストルドーの別名を持つ虚無神タナトス。そしてタナトスは相似的なる存在である、時を司る神的存在クロノスとは別に蠢き、今はまだ永き眠りに就いている。

 タナトスやその軍勢の恐れるもの。それはある一つの「境地」である。
「煩悩即菩提」。人は所詮、煩悩から逃れられない存在である。それが故に、煩悩をあるがままの姿で捉え、そこに悟りを見出そうとする考え方が存在する。
 かつて現世において、この異物達と人間との間に大規模な闘争が起こった。その戦いに「勝利」を収めた者の中にブッダ(仏陀)がいた。しかし、ブッダはこのような境地を説いている。それは即ち、虚無を受け入れること、虚無に至り、虚無に還ることであった。この虚無を異物達の象徴するものとして「悪」と見なすならば、悪はブッダをも取り込み、ブッダを負かしたとは言えないのであろうか? 実はブッダは「敗北」していたのか? この悪は本当にブッダに勝ったと言えるのか? ここにパラドックスはないのか? そんなものがあるとするならば、それを解き明かす「境地」は何なのか? 
 その「境地」を人が見出せば、人は初めて「悪」としての虚無に、闇の軍勢に打ち勝つことが出来る。同じように、須藤がその「境地」を見出し、そこに至れば「絶望」を打ち破ることが出来る。かつてのリーガン・アブダイクは至ることのなかった境地。それが何なのか。その境地の語るものは、虚無神タナトスそのものの存在を「否定」するものとなる。
 決して特別なものではない、そして人がその気になれば至ることの出来る境地。

「絶望」はとうとうと思いを連ねていた。時はまだグランシュやトルソが来世への帰還を果たしていない頃である。
 自身がかつて人であった頃の忘れ難き屈辱、記憶、そして異物と成り果てた末に何を人に成し、何を人から見て来たのか……「絶望」は闇しか存在しない空間の中で、緑色に光る両眼を細め、運命と人の名付けたがる、幾つも連なる「歯車」の奥底へと嵌めんとする須藤啓吾のことを頭の中に思い巡らせていた。

 そこに一つの気配を感じ取る。
「絶望」はゆっくりと両眼を開いた。そこには「傲慢」がいる。
「あの子供の父親と会って参りました」
 その聞き苦しい声はどの異物達のそれとも変わらない。
「……可笑しな真似をしているようだが?」
「絶望」が言葉を放ち出す。
「ああ……ほんの余興でございます」
「スペルビア……人の女として奴と会い、何を感じた?」
「幾層にも塗り固められた思い、感情でございます」
「それこそまさに『人』である」
 視線を「傲慢」から宙へと「絶望」は移した。
「人の何が人を人らしくしているのか。心か。感情か。それこそ人を自然から乖離させた特異なものとしている。この世界に、宇宙に、万物において、そのような特異な存在は無意味である」
「同意でございます」
「傲慢」が返す。
「して、子供のほうは如何致しましょう?」
「いや、少年はあのままにしておけば良い。あの獣の魂達がそれなりに遇してくれよう」
 オレンジ色に鈍く光る「傲慢」の瞳がぴくりと動く。
「獣……ビストリアンとか言う種族ですか?」
「左様。『傲慢』よ、貴様は父親に見せてやれば良い」
「見せる、と言われますと?」
「己の力ではどうしようもない、努力だの、希望だの、正や陽、光ある思いだのが通じぬ、圧倒的なる……絶対的なる力による壁、をだ。如何様に足掻いても決して越えられぬ壁を……」
「かしこまりました」
 そう返すと「傲慢」はその場から消え去った。

 暫くの後に、「傲慢」に代わり別の声が響く。異物達の持つ耳障りな声とは異なる、何とも表現し難い、それでいて荘厳で且つ暗き、神の声とも言うべき「音」を。
「しかし、あの少年も……そして父親も……立ち上がるだろう。そして、前進を止めない。私はあの父親に会った……そして、それを確信した」
「この声は……おお!」
 驚いたような声を「絶望」は上げ、虚空を見上げた。
「我等に道を指し示し崇高なるセンチュリオンのお一方……ラオデキヤ様!」

 黙示録で著されし七つの寺院の名を冠した存在、センチュリオン。
 そのうちの一体である「ラオデキヤ」。
「無」の遣い。

 ラオデキヤは語る。

「お前達黒き存在に呑まれたこの世界の者が亡骸とならず、その姿を消滅させたのは、その者の持つ心に乱れがあったから……信じる心、愛おしむ心、思いやる心、正の力を持つ心に守られし者は消滅しない……」

「この世界の者達は全て思念体。あの父子や、その他の者達の心が投影されて映る姿、本当は形のない『光』……」

「世界は幾つにも、幾通りにも姿を変えて現れる。それはその者の心が投影されて映る世界(The Reflected World)。だからこそ、『天国』もあれば『地獄』もある」

「あの父子……スドウカズキ、スドウケイゴ二人の心が投影したこの世界は確かに美しく、そこに住む者は『正』の心を持っている。但し、その『正』にも強弱がある故、中には優しさこそあるが心が弱く、闇に喰われる者もいる。己の持つ『光』よりも『闇』が勝る場合もある……」

「『闇』は全ての世界を侵蝕している……」

「そして、『絶望』よ。お前の目に映りし世界、お前の心が投影された世界はさぞや醜く在るのだろう……だが、それもまた真実の姿である……決して虚偽には成りえぬ一つの姿、一つの要素……」

「だからこそ葬り去るべきなのです! こんな世界なぞ……こんな宇宙なぞ……人なぞ!」
 割れんばかりの怒声を「絶望」は張り上げた。

 ラオデキヤは続ける。

「己を支配しているものを、お前は知っていよう……」

「だからこそ尽力せよ……我等がタナトス様の目覚めは……」

「間もなく……間もなく!」
「絶望」が返すと、ラオデキヤの気配は消えた。「絶望」は虚空の中に唯一となった。最後にラオデキヤの残した声が木霊となり、幾層にも響いている。

「尽力せよ……かつてメフメトカザルと呼ばれし、惨めで屈辱に満ちた苦杯を舐めさせられし、誇り高き人間であった者よ……」

 あの子供とその父親は何があろうとも進んでくる。そして、いずれは自身の前に現れるであろう。「絶望」はその時を待っている。

 全てはあの父と子自らの手で終止符を打たせる。

 その時こそ自身は力を手にし、タナトス復活への強力な一手を打つことが出来る。その力を糧にし、再び闇の軍勢を組み、かつてのリーガンやメイスのいた世界と同様に、須藤達のいた現世へと降臨させる。そのための二人の「心の準備」は出来つつある。「絶望」が操る「運命」の奔流の中で、「絶望」の手の平の上で。
 その時こそ、全ては「救済」「浄化」への新たな、そして大きな一歩を踏み出すこととなる……

「絶望」は認めていた。自らのこの思い、抱いている「人」と言う存在に対しての思いが何処から生じているかを。自らが負の感情に突き動かされていると言うことも。だからこそ、全てが成就した暁には、自分も消えていけば良い。
 それこそが自然の摂理であると「絶望」は考えている。


 そして、センチュリオン「ラオデキヤ」は既に須藤と出会っていた。その跡を須藤の心にくっきりと残しつつ……



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