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リフレクト・ワールド(The Reflected World)

第三部 第四章 ココの想い 【後編】

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 国王ティグレ一世。Tigre……その名前のままで、「虎」の出で立ちを持つビストリアン。その体躯はかなり大きく、そしてその両眼は何者にも心を許さぬかのような、威嚇するような鋭い眼光を放っている。その眼光は今、定例議会に顔を並べる王国政府高官達へと向けられていた。
 シナスタジアは王国ではあるが、その政治形態は実に原始的だ。それは例えるなら、単純なピラミッド型で表される。先ず一番下に位置するのが王国国民。彼等は執政官選挙により、治安維持、経済活性、食糧確保や公共事業等を行う政府部門に就く高官を選ぶ。そして、その高官の長たる者達によって、国王選挙が行われる。そして、その高官達の中から国王が選ばれるのだ。恐らくは、高官達の間では熾烈な根回し合戦が繰り広げられていると思われる。そこで選ばれた国王……王とは言っても王家のようなものはなく、世襲制度もない。また、一度国王になった者が続けて王位に就くことも禁止されている。そのために、国民の選挙によって高官達の間から選ばれた数名による「王政弾劾院」が目を光らせている。その結果、国王はほぼ常に、名前の後に「一世」を付けて呼ばれている。
 国王は定期的に開かれる議会で出される様々な意見や陳情等を取りまとめて施行させる権限を持つ。ここは議会と言えども、王の権限で決が採られていると言う妙な状態になっている。まさに傀儡議会とも言えよう。だが、そんな議会を通さずに王が王権の名の下に強硬策を取ることもある。その際は「王政弾劾院」のもう一つの役目である、国王の訴追を行える。そうした政策の内容次第では、弾劾院は超法規的措置で国王を拘束し、王のいない場で議会を開き決を採ると言う方法が取られる。だが、これが成される時、皆はそれをクーデターと呼ぶであろう。
「……と言う具合で、現在の我が王国内の食糧生産率は前年の九・二割となっております。灌漑用水の水質汚染は改善されておらず、その全てがウォラリス・テクタイト鉱脈のあるエベンキ鉱山からのプラント排水によるものとの調査結果が出ております。資源省のシャクルス代表、これについて意見を戴きたい」
 ティグレの視線が、犬のボルゾイにそっくりな出で立ちをした、細面のビストリアンに注がれる。シャクルスは大袈裟な咳払いをして前に進み出た。黒と銀のツートン色の毛並みが目立つ。その毛が議会場の高い天井に設けられている、抽象画を模したようなステンドグラスから差し込む光を受け、二色の他に淡い様々な色が重ねて映し出されている。
「食糧省代表の発言についてですが、灌漑用水の水質汚染……即ち、用水の水源となるズィムリア湖の水質に関し、我々も水質の調査は行っております。全ては王国の定めし安全基準に合格したものです。また、プラントからの排水も現在、同施設内での施設で浄水処理を行っております。その水質にも問題はない筈。証拠としての資料もこの会議に参加されている皆様方のお手元に配布させて戴いております。先程の食糧省代表の発言、如何なる調査を行っての結果について言われているのか……はなはだ疑問ですね」
 そう言い終わると、シャクルスは鼻をふんと鳴らした。
「そうお返しになられますか、シャクルス代表……まあ、貴方はあの鉱山プラントを運営しているドミヌス家と親密でありましょうし、何かと突っ込まれてはお困りのこともございましょう……」
「何を言われますか! 環境省と提携してのまっとうな調査を行っているのです。本題とは関係ない言い掛かりは止めて戴きたいものですね!」
 不毛な「ボルゾイ」と「ダルメシアン」の言い争いの中、今度は「カンガルー」がおずおずと挙手をした。
「あの、環境省ですが……当該地での水質調査は確かに、我々と資源省とが合法的に、かつ定められた通りの手順と方式にて行っております。その内容を、ええ、分かり易くご説明致しますと……」
「そんな説明はいい」
 ティグレが発言を制した。
「既に何度も出されている情報の再度の開示、何処で使われているのか本人達でしか分からぬような知識の説明、その羅列ばかりではないか。これではまるで、子供の学校での発表会とさほど変わらん!」
 そう言うと、ティグレはその丸々とした、しかし筋肉質の巨体をゆっくりと起こし、椅子から立ち上がった。
「情報や知識も大切だが、知恵をもっと出すのだ。情報に知識、そんなものは比較的簡単に手に入る。だが知恵は多大なる努力、そして自らが成し得た体験を以ってして、初めて手に入るものだ。だが、貴公達がここで持ち出しているものは何だ? もう良い。諸君、解散だ」
 そう言い残し、ティグレは丈の長いローブを翻して議会場を去っていった。
「ああ、こ、国王陛下!」
「行ってしまわれた……」
 高官達の間に静かなどよめきが起こる。
「やれやれ。国王も最近、何かとお気が短くなられた」
 シャクルスの横にいた高官の一人が言った。先程の環境省代表の、カンガルーそっくりなビストリアンだ。
「姫君のココ様がおられなくなってから、ですね?」
 シャクルスが、ティグレの去った後に残された装飾椅子を見詰めながら返す。
「ええ。姫君の捜索は全面的に禁止されたとか……」
「それは陛下のご家庭での問題です。僕達がどうこう口出しするものじゃないでしょう?」
「ううん、如何なのでしょうね。それからの陛下はどうも、何と言いますか……やはり親御さんなのでしょうね。不安や苛立ちが見受けられる」
「陛下たる者、そのような個人的感情は抑えて戴きたいものですね」
「まあ、シャクルス殿。そこはお手柔らかに……あの厳格な陛下も、たまにはお素顔を出されると言うことなのでしょう」
 その言葉を聞き、シャクルスは薄ら笑いに似た表情を浮かべた。
「感情は多くの仮面を僕達の顔に当てがいます。ですが、様々な種類の仮面の中でも『素顔』なるもの、こればっかりは、僕は一番信用出来ませんねえ」
 そう言い残し、シャクルスは他の高官達の後に付いて、議会場を立ち去った。

   ※ ※ ※ ※ ※

 迷路のように入り組んだエワンジェリスタの路地に迷い込んだ五人のビストリアン達が、啓吾達を見失うまで、さほど時間は掛からなかった。
「ちょっと! ビストリアンがこんな所で何やってんのよ!」
「悪さでもしに来たってのか、この獣は!」
「忌々しい連中め!」
「本当、鬱陶しいったらありゃしないわ!」
 通りから怒鳴り声と罵声が飛んでくる。辺りを見回すと、五人は町の者達に取り囲まれていた。頭の上を飛んでいるグリフィスを必死で追い回している中、彼等は町行く者を跳ね飛ばしそうになったり、露店の品を道端に蹴散らかしたり、なりふり構わぬ醜態を丸出しにして走り回っていたのだ。それ故の当然の結果である。
「……ちっ! 腐れ人間どもめ!」
 テリア似のビストリアンが口汚く罵る。
「イドア様! ここは一旦退いたほうが宜しいのでは……」
 イドアと呼ばれたテリア似ビストリアンの乗る、黒色のエクウス・ゲンティルが「進言」する。
「ああ、分かってる! グリフィス隊を編成して再び追撃する! お前等、退くぞ!」
 イドアは他の四人に怒鳴るように号令を掛けると、人の波の中を強引に走り抜けていった。そして、町の南へとその姿を消した。

 啓吾達四人はココの指示の元、エワンジェリスタ郊外の西に向け、大きく旋回した遠回りのコースを取って、低空飛行を続けていた。あまり高く上がれば、遠目で追手に発見される可能性があるからだ。ココの母国、シナスタジアの「入口」は複数ある。あの追手達は自分達を見て、次はグリフィスによる追尾隊を編成してやって来るであろうと、ココは推測していた。ここから最も近い入口は、エワンジェリスタの東約三十ミルの地点にある。
 失敗だった。ココは思っていた。人間と隔絶したビストリアン社会。これをココは良く思ってはいなかった。自分達と同じ心を人間達も持っているのなら、敵意も偏見も持たずに歩み寄れば、ひょっともすれば分かり合えるかもしれない。
 狭い国土の中にある小さな城の中でココは常々そう思っていた。そのようにココに言い聞かせていたのは乳母のフラン、そして母だ。国王である父が何故ああも人を遠ざけるようになったのか、そのきっかけも理由も分からないまま、幼いココは育った。
 その母を父は捨てた。自分の考えに反目し、賛同しようとしない母と父は別れ、辺境にある館へと母を軟禁した。人間とは何時か分かり合える時が来る、怖れを捨て、不安を捨て、勇気と歩み寄る姿勢、そして寛容の精神を以って接すれば、必ず心は通じ合う……そうした母の想いを、ココは引き続きフランから言い聞かせられた。また、父である国王ティグレのことを憎まぬようにとも、フランは言っていた。
「王様は……さぞや辛い思いをされているのだと思います。ココ様にはまだ難しいとは思いますが、どうぞ王様を、お父様をお嫌いにならないでください」
 しかしココは父が嫌いだった。母を手元から奪った父が憎かった。そして、母やフランの言っていたことを、自分でどうしても確かめたかった。そうすれば、母はより以上に自分にとって近い存在になる。
 その想いが日毎に強くなっていったある日。その日は母の誕生日であった。午後、ココは飾ることを禁じられていた母の写真を、ベッドサイドの引出しから出してテーブルに置いた。そして、フランが自分のために用意してくれた焼き菓子を写真の前に置いて、誕生日を祝う詩を詠んでいたのだ。その姿を父に見付かり、ココは猛烈な叱責を受けたのだ。写真は取り上げられ、菓子は床に落とされ、父に踏み付けられた。
「お前はまだあの母のことを忘れずにいられるのか! あの母が我等種族にとって如何に不幸を招くような言動を取っていたのか、まだお前には分からぬか!」
 父はそう言って、ココをぶった。いつもは冷静沈着で何事にも動じないような父が、感情を剥き出しにしてココを怒鳴り、そして手を出した。
 その時ココは決心した。自分は人間のいる地へと旅に出る。そして、母やフランが自分に教えてくれたことを自分の目で、耳で確かめ、そして再びこの地に戻り、父に面と向かうのだと。
 ぶたれたココは涙を浮かべながら、父を凄まじい形相で睨み付けて言った。
「私はお母様の娘です! テレサお母様の娘です! 私はお母様が言っていたことはきっと正しいと今も信じています! お父様のその閉じた心、その閉じた目と耳にそのことを示すことが出来るよう、私はここを出て行きます! 人の地に赴き、そのことを立証して見せます! 分からず屋なのはお父様よ!」
 勢いで出たこの言葉の後に、父が言ったことをココは今も忘れていない。
「……やはりは、あの不埒な女の子供と言うことか……」
 この言葉がココの決心を揺るがぬものにした。そして、ココは一人、城を出た。だが、そんな娘を父は追わなかった。追手を向かわせることはしなかった。家族の問題だ、としつつもそのことに関心があると言う態度は全く見せなかった。
 ココはこうして、生まれて初めて人の住む地に足を踏み入れたのだった。
 その後に出会うことになった数々の現実は、ココが希望し想い描いていたものとはかけ離れていたものであった。希望を失うまいと思いつつも、その思いはことごとく潰されていった。志半ばにして、ココの心は打ちひしがれそうになっていた。持ち続けていた希望の目を見出すことはなかった。そうして弱っていった心が、ココをエワンジェリスタのある地へと足を向けさせていたのだった。その時にいた場所から、母国への帰り道が最も近い所にある地点へ。
 だが、今こうしてココは人間の子供と一緒にいる。このケイゴと言う少年は自分の傷を気に掛けてくれ、そして反国王派の追手から自分を助けてくれた。ケイゴだけではなかった。これまでにも自分のことを気に掛けてくれた人間はいた。いたことはいた。ただ、その数よりも自分を、ビストリアンを避け、時に罵り、蔑視の目で見る者のほうが圧倒的に多かった。良くても、見付からないように早く逃げろと言い、そして自分の元から去っていくのが関の山であった。
 ココの心を掴んで離さないこの悲しさ、悔しさ、そして寂しさは今、ケイゴのおかげで思い返さずにいられる。
「……ありがとう」
 ココは啓吾に言った。
「え?」
「……ううん、何でもない」
 しかし、このケイゴとも間もなく別れ、また出会うであろう新たな人間は、やはり自分のことを拒絶するのであろうか。エワンジェリスタでの騒ぎの際、何か出来ることがあればと歩み寄った自分を目の敵にし、排除しようとした彼等のように。
「あれがカルンガの村よ」
 ココは前に見える村を指して言った。


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