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リフレクト・ワールド(The Reflected World)

第三部 第三章 ココの想い 【前編】

 ←第三部 第二章 サンジェイ →第三部 第四章 ココの想い 【後編】
 四人は互いに顔を見詰め合った。正確には三人と一匹と言うところか。だが、この「一匹」は明らかに言葉を話し、啓吾達とコミュニケーションを取るに十分な能力を有している。
「……ココ?」
 啓吾は驚きの表情を隠せないでいる。啓吾ほどではないが、それでもフスハやレンの二人も目を丸くして、大柄なアビシニアンそっくりの一匹、いや「一人」を呆然と見詰めている。
「何? そんなにビストリアンが珍しい?」
 ココの声は些か不愉快げだ。不愉快さだけではない。諦めの境地に似たものまで漂わせている。そして、「ビストリアン」と言う言葉を大げさに嫌々と発音しているところから、そう言う呼ばれ方も好きではないと感じられる。
「やっぱり」
 レンがぼそりと呟く。
「でも、本物を見たのは……俺達初めてだぞ」
 フスハが軽く頷きながら続ける。
「ちょっと、あんた達ねえ! 私は物じゃないのよ! 何よ、その言いぐさ!」
 ココは不快さを爆発させるようにして言うと、すっくと「二本足」で立ち上がった。
「わ……凄い、立った」
 啓吾が驚いた表情を全く変えないままで言う。
「あ、怒らないで!」
 フスハが手を差し出して言う。
「俺達は……ビストリアンがどうとか、そんな風には思っていないから! ただ……その……会うのは初めてだから……びっくりしただけなんだ」
 そう言うフスハの顔をまじまじと見詰めるレンの頭の上に、フスハは指を目一杯に広げた手を力強く押し当てた。
「こいつもそう! 弟なんだけど……その……ビストリアンはああだこうだって変な風に言ったら……父さんに凄く怒られる」
 フスハの言葉の後に続けて、レンも頷く。しかし言葉は出てこない。
「え? ビストリアンって……何?」
 啓吾の質問に今度はココが目を丸くした。
「あんた、知らないの? ビストリアンって……何? あんたまさか、ここに来たての中途転生者?」
 ココの言葉にフスハが「あ!」と声を上げる。
「そうか……ケイゴ、まさか中途転生者? だったら話は分かる」
「え? 何? チュウトテンセーシャって……分かんないよ!」
 フスハとココを交互に見やりながら、啓吾は大声を上げた。
「まあ……いいわ。教えてあげる。先ず一つ目の質問の答え。ビストリアンってのは、私を見れば分かるでしょ? 見たまんまよ。私はあんた達とは違う。そもそも『ビストリアン』って呼び方だって、あんた達人間が勝手に付けた呼び方なんだから」
「喋る猫のこと?」
「ネコ? ネコって何よ?」
 ココは訝しがるような表情をして見せた。ココ自身も「猫」と言う呼び名を知らないようである。啓吾は妙な気分になった。
「え……その……ココって……猫でしょ?」
「ネコが何なのか知らないけど、私は人間とは別の種族よ。でも違うのは見た目だけ。言葉も喋るし、あんた達の言うことも分かる。普通に家に住んで、仕事もしているし……なのに、あんた達人間は何故……みんな分からず屋ばっかりなんだから!」
「ちょっと待ってよ! それって、ビストリアンもそうじゃないの?」
 啓吾とココの会話にフスハが割って入る。
「ビストリアンだって人を嫌ってるじゃないか! 人は偉そうだ、威張っている、御主人面し過ぎるって」
「兄さん、そんなこと言ったら父さんに怒られるよ」
「じゃあ、俺がこんなこと言ったってお前が言わなきゃいいんだ、レン。第一、人はみんな分からず屋なんて言われたら……」
 ココは溜め息を吐いた。
「今ここであんた……いえ、『貴方』達と口喧嘩するつもりはないわ。『父さんに怒られる』って、親離れもしていないような子の相手なんて……何だか面倒臭い」
「だって君が……」
「ねえ」
 今度は啓吾がフスハとココの間に入る。
「チュウトテンセーシャって何?」
「え……」
 ココの表情から高揚さが消えた。この子供は知らないのだ、今自分が何処にいるのかを、だとすると現実をいずれは知ることになるだろう、ショックを受けるかもしれないが……とココは思い、
「あのね……でも、何て言ったらいいのか……」
と口を開く。だが、言葉を選ぶのに時間が掛かる。
「変な記憶を持ってる人、ってことかな。この世界と全く関係ない、分かんない記憶を持ってる人。詳しくは俺も知らないけどね」
 何も言わなくなったココの代わりに、フスハがぽつりと言った。
「変な記憶って何のこと?」
 啓吾はフスハにきっとした視線を向ける。
「僕はちゃんと覚えているよ。パパと一緒にいたんだ。東京の神楽坂ってとこのマンションに住んでたんだ。パパと二人で……ママは……ママ……死んじゃったママ……なのにあんな……」
 啓吾の声が詰まる。体操教室で跳び箱を跳んだあの時。母の姿をした「それ」は体を持ち上げ、その姿を縦に真っ二つにして啓吾を飲み込んだ。あの記憶がフィードバックされる。
 啓吾の目から涙が溢れ出す。
「ちょっと、まさか、泣いてるの?」
 ココが啓吾の顔を覗き込む。その表情が心配げなものへと変わった。
「ここは……死んだママがいる所だってアイーダのおばちゃんは言ってた……でも、僕は死んでない! 僕は帰るんだ! うちに帰って……パパが待ってるから……」
 泣きながらも必死の形相で訴える啓吾を、ココは否定しようとは思わなかった。
「そう……そうか……会えたらいいね、パパに」
 ココは尾をしなやかに上へぴんと伸ばすと、啓吾の手をそっと右手ですくい上げ、左手を啓吾の手の甲に置いた。
「ごめん。もう何も言わなくていいから。そっか、君はケイゴって言うんだ」
 啓吾は顔を下に向けたまま、黙って頷いた。
「ところで、このグリフィスは貴方達の? こんな小さい子達がグリフィスに乗ってるんだ?」
 ココは話題を変えようとして、三羽のグリフィスを見ながらそう言った。
「ああ。父さんはグリフィスマスターなんだ.乗り方は教わってる」
 フスハの答えに、ココは再び難しい表情を浮かべた。
「グリフィスマスター? ああ、グリフィスを手なずける人間のことね……」
「手なずけるって何だよ?」
 今度は弟のレンが不愉快そうに言う。
「だってそうでしょう? 餌で釣っといて言うことを聞かせようってしてるんでしょ? それを手なずけるって言わなきゃ何て言うのよ?」
「違う!」
「そんなんじゃない!」
 レンとフスハが口々に大声を上げる。
「グリフィスは人の心が分かる鳥だって! 大事なのはお互いに信頼することなんだって父さんは言ってる! グリフィスは人の言うことを聞かせるだけの道具なんかじゃないって言ってるんだ! 父さんのこと馬鹿にすると……馬鹿にすると!」
 フスハがココの肩を鷲掴みにして言う。傷付いた肩の激痛にココは顔をしかめて声を上げた。
「痛ぁぁぁいっ!」
「あ、ごめん……」
 フスハが手を放した。その後ろではレンが泣きべそをかいている。
「もう止めてよ!」
 啓吾が叫んだ。その叫び声に近い啓吾の声に肩を震わせたフスハの目にも、涙がじわりと浮かんでくる。
 ココが慌て出した。
「ちょっと……ちょっと三人とも! ねえ、ちょっとさあ、泣かないでよ……分かった、分かったから! 私が悪かった! ごめん! ねえ、ごめん! だから……ねえ?」

 四人は駐屯地後の瓦礫の球を見詰めながら地面に座り、ココ以外は皆、各々で膝を抱えていた。何とも気まずい雰囲気が拭えないでいる。
「ねえ、ところでグリフィスに乗ってきたってことは、何処か遠くから来たってこと?」
 ココが申し訳なさそうな声で訊く。フスハとレンの兄弟が何も言わないので、啓吾が代わりに答えた。
「フスハ君とレン君は、僕をこの町に送ってきてくれたんだ」
「そう……貴方達、フスハとレンって言うのね。で、この町にケイゴのパパがいるの?」
「パパはここにはいないよ。パパの元に帰られるように、お願いに行くところだったんだ」
「お願い?」
「うん……えっと……」
 言葉に詰まった啓吾の代わりにフスハが口を開いた。
「ここの空間近衛騎士団の人の所に、ケイゴを案内する予定だったんだ。女王のアフェクシア様がケイゴのことを捜しているって話を聞いたから」
「アフェクシア……ああ、ここの……レグヌム・プリンキピスの女王ね。でもケイゴのことを女王が捜している? 直々に?」
 ココが関心ありげに訊く。どうやらケイゴと言うこの少年は、ただの中途転生者ではなさそうだ、ココはそう思った。
「でも……こんな風になっちゃって……」
 フスハの声が小さくなる。
「私、見たわ」
 ココの表情に緊張が走る。
「見たって?」
「この町が、ここがこんなにずたずたにされるところをよ。あれは……あの真っ黒いものは人間の良くない思いの塊だって、昔お父様からそう聞かされていたことを思い出したわ。それがこの町を、この場所をこんな風にした。だから……もうここに騎士団はいない。全滅よ」
 目の前の絶望的な光景と「全滅よ」と言うココの言葉は、三人を再び途方に暮れさせた。
「だから俺達は、ケイゴを違う所にいる近衛騎士団の元に送んなきゃいけないんだ。何処に行けばいいのか分かんないけど」
 フスハの言葉を聞き、ココは「あ」と声を漏らした。
「それなら……心当たりがあるわ」
「え?」
 フスハとレンの視線がココに注がれる。
「私、この町に来る途中で一軒の家に寄ったのよ。カルンガって村。そこの家にいたおばさんがね、息子さんが騎士団だって話をしていたわ。この町の騎士団じゃなくて、王都の本隊に配属されているとか。そこに行けば何とかなるかも」
「そうなの?」
「うん。遠くないわ。歩いてでも行ける。この町から西に二ミル程行った所よ」
 ココがそう答えた時だった。三羽のグリフィス達が道の向こうを見詰め、威嚇の鳴き声を上げ始めた。銀も同様に、低く警戒を示す声を漏らしている。
「え……銀、どうしたの?」
 啓吾が銀の首を擦りながら、心配げに訊く。
「あれは……!」
 三羽のグリフィスが睨む方向をココも見詰め、獣に跨ってやって来る五体の姿をその視界に捉えると、全身の毛を逆立てて鋭く唸り始めた。
 その五体はココや啓吾達の元へ走って接近してくる。五頭の黒い獣……角を揚々と掲げたシカの頭にサラブレッド馬のような体躯をしている「エクウス・ゲンティル」の背に跨っているのは、ココのような猫ではないが、とは言え五体とも人間ではなかった。
「見付けましたぞ、姫様!」
 五人のビストリアン達は口々にそう叫ぶと、手綱を引いてエクウス・ゲンティルを制し、一様に地面に下り立った。
 その姿は「犬」だ。ナポレオンが昔使っていたような、黒い堅めの生地に黄色の縁取り刺繍が成された帽子を被っている。
「……何の用よ?」
 ココが凄んで言う。
「何の用とは失敬な。こんな人間どもの町なんかに繰り出した貴女様を連れ戻しに参ったのですよ」
 白い犬そっくりのビストリアン……スコッティッシュ・テリアに似た見た目ではあっても、その目付きはやたらにぎらぎらとした鈍い輝きを放っている。
「……シャクルスの手の者ね?」
「シャクルス『様』とお呼び戴きたい。貴女のお父様に代わって次期国王になられる方なのですよ?」
 テリア似のビストリアンはそう言うと、その白い体毛を揺らしながら、ゆっくりとココに近付いてきた。そして、啓吾達を一瞥し、
「この薄汚い人間の子供め! 姫様に何をしようとしていた!」
と言って、フェンシングに使われるような細身の剣を抜くと、その切先を三人に向けた。
 咄嗟に、三人の前にココが飛び出る。
「この子達は何もしていない! 危害も加えられていない! 私の肩の傷を看てくれただけよ。下がりなさい! そしてゼフィロトへお帰り!」
「聞き分けのないことをおっしゃらないでください。我々だけで帰るわけには参りません。ご一緒して戴けなければ、貴女を力尽くでお連れすることになる」
 そのビストリアンはそう言って、剣の切先をココへと向け直す。
 ふと、ココは左手に何かを感じた。視線を下に向けると、その手を啓吾が力強く握っているのが見えた。
「……フスハ君、レン君」
 啓吾が兄弟に呼び掛ける。
「ケイゴ、まさか」
 レンが返す。
「またか……ケイゴって本当に……」
 フスハの声は些か呆れ返っているようにも聞こえる。
「行くよ!」
 そう言って、啓吾はココの手を引き、急いで銀の背に飛び乗った。フスハとレンも自分達のグリフィスに駆け寄り、そして跨った。
 五人のビストリアンは一瞬、呆気に取られてその光景を見ていたが、
「お、おい! 待て!」
と叫び、グリフィスに飛び掛かろうと走り出す。だが、五人の手が届くよりも早く、三羽のグリフィスは大きく羽ばたき、短い助走を付けて地面の上を離れた。
「ねえ、ちょっと……ケイゴ!」
「良く分かんないけど、あいつら悪そうだから!」
 啓吾の直感が、五人のビストリアンがココを追う「怪しげな連中」と教えたのだ。下を見ると、例の五人はエクウス・ゲンティルの背に乗り、三羽の後方を猛烈な勢いで走って追ってくる。
「あ……の……ガキども……っ!」
「追え! あの糞ガキどもを見失うな!」
「取っ捕まえて、焼いて食ってやる! いや、そのままで十分だ!」
 口々に罵りながら迫ってくるビストリアン達を尻目にしつつ、ココは啓吾に話し掛ける。
「ケイゴ! 町の上を飛んで! あいつ等を町の中の路地に追い込むの!」
「うん! 銀、行くよ!」
「分かった!」
 その「返事」に啓吾は再び目を丸くした。
「銀……?」
「何?」
 返事をしたのはココではない。グリフィスの銀だ。銀色の羽を羽ばたかせながら、普通に返事をしている。
「え……まさか……」
「隠していてごめん。ケイゴと話している『仲間』がいたから、その、つい……」
「な、仲間って、ココ?」
「うん。僕も……グリフィスも……一応、話せるんだ」
 啓吾の驚きに満ちた叫び声は、フスハとレンの耳にも届いた。
「何だ?」
「どうしたんだろ?」
 兄弟が不思議そうに見る中、啓吾とココを乗せた銀は大きく旋回し、エワンジェリスタの町の中心部へと、低空飛行で向かっていく。
「道に沿って、あちこち曲がって飛んで! それから町の西へ一気に向かうのよ!」
「任せて!」
 啓吾を挟みつつ、ココと銀が言葉を交わす。当の啓吾の頭の中は混乱していた。



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