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リフレクト・ワールド(The Reflected World)

第二部 第五十三章 帰還

 ←第二部 第五十二章 奪還 【5】 →第三部 序章
 アルバトロスの帰りの道程も穏やかではなかった。それもそうである。一度、航空自衛隊に察知されてさほど時間も経っていない中、いきなり東京湾から首都上空に侵入し、こともあろうに米軍横田基地へと進路を取ったのだ。傷付いたグランシュとトルソ両名を回収後、音速に近い速度でそのまま転進、再び東京湾に入り、領海を抜けていったのだ。百里基地では大騒ぎとなった。
 騒ぎは横田基地においても同様だった。NSAの要請により部隊を動かし、二人の国籍不明の「手配者」と身元不詳のドイツ人一人を捕らえたが、その三人に逃げられたのだ。そのうちドイツ人の逃亡には米兵二名が加担、五名の兵を射殺している。二人のうちケイヴ・ピムズ三等空士は射殺、ニック・タワーズ三等空士が車を奪い逃走中である。
 更に敷地内では原因不明の「爆発騒ぎ」が発生し、施設に損害を受けている。その後、ドイツ人アウグスト・ミュークリッヒはキリスト教極右派のテロリストとして手配をすることとなった。だが、基地に派遣されていたNSAの諜報員は、その手配データもまもなくしてパラディンの手によって消されるであろうと踏んでいた。
「で、撮れているのか?」
 トルソやグランシュを取り調べたバウマンが訊く。
「ああ、しっかりな」
 同じNSAの別の諜報員が答える。基地内の監視カメラには、薄っすらとした影でしかないが、トルソにグランシュ両名と背格好のそっくりな「何か」が、人型になった黒色の靄の塊と対戦している様子が録画されていたのだ。
 バウマン以外の二人が言葉を交わす。
「こいつは、あの新宿に現れた奴と……」
「ああ、同じだろうな」
「まあ、本国で画像は調べるとして」
「こんなデータをどうするつもりなのか……」
「『オペレーション・ディメンジョンズゲート』……」
「その名を口にするな、若者達よ」
 バウマンが二人をたしなめる。 
「とにかく、ここにはもう用はない。ここが出入り禁止になる前に行こう」
「なったって構わんさ。俺達は大統領直々の勅命を受けているんだ」
「まあ、な」
 諜報員達は揃って部屋を出た。

   ※ ※ ※ ※ ※ 
 アルバトロス内では、機体後部の個室にてグランシュとトルソが体を休めでいた。応急処置をしようにも、今はアルバトロスの乗員が現世の者とほぼ同じ体の組成となっており、思念体となったグランシュやトルソには何も施せない状況であった。だが、二人の傷は徐々に自己治癒が進んでいる。思念体である体は、その精神力の強弱で如何様にもなるのだ。
「総隊長……副隊長も……よく御無事で!」
 ペイトンの表情が緩む。
「ペイトン、留守中は面倒を掛けたな。感謝する」
 グランシュはそう言うと、ペイトンの手を握ろうとした。
「今度は、あの痺れるような感覚を貴方が味わうことになりますよ」
 笑って言うペイトンに、グランシュは苦笑いをして見せた。
「ここに乗ってから、もう何度か味わっているよ。私もトルソもな」
 ペイトンは、ははと短く笑った。
「ですが……本当に、よく無事に戻られましたな」
「ああ」
 そう返すと、グランシュは次にトルソのほうを向いた。トルソはグランシュよりも深手を負っていたが、その意識はしっかりしている。
「トルソ……よく戻ったな」
「隊長……ありがとうございます」
 トルソの声に安堵感が感じられる。
「これから、どのような予定となられておりますか?」
「うむ。ペイトン、説明して貰えぬか?」
 ペイトンは「はっ」と短く返事をして頭を下げた。
「イセヤ氏の地図によると……」
「イセヤ?」
「ええ。我等に協力してくれた、こちらの世界の者です」
「そうか」
 トルソはその言葉を聞き、「イセヤ……」と呟いた。
「知っているのか?」
「ええ、隊長。イセヤ、タタラ、ハルミ、ナナミ、ケンジ、私を匿ってくれた食堂の店主……」
 グランシュは黙ったまま、トルソの大腿に手を置いた。
「色々あったのだな」
「皆、新しい仲間です。そして、今何が起きているかを知っている、この世界で生きる者達でもあります」
「うむ」
 トルソに相槌を打ち、グランシュはペイトンに再び視線を戻す。
「……で、ニホンコクの、あ、ここの国家の名前です、その領海を出ましたので、再度侵入致します。ニホンコクの軍の探知網に掛からぬよう、超々低高度による飛行を行い、我々が最初に着水したビワコと言うあの湖へ戻ります。その間、光学迷彩を機動したままと致します」
 グランシュが頷く。
「そこで、この機体や我々に掛かったエンリャクジでの影響を、そこの僧達に消去して貰うようになっております。それが完了次第、出立する予定です。レグヌム・プリンキピスに通じる空間歪曲は、同じく彼等が用意することになっております」
 ペイトンの説明が終わると、グランシュは再び頷き、
「御苦労である」
と返した。
「到着までおおよそ三ホールスの予定です。暫くお休みになられてください」
「ありがとう」
 会釈をし、ペイトンは部屋を出た。
 グランシュはトルソに視線を向けた。何時の間にか寝入っている。
「トルソ……ありがとうな……」
 グランシュは小さな声で言うと、腕を組み両目を閉じた。そして二人は、束の間の穏やかな睡眠に身をゆだねた。

   ※ ※ ※ ※ ※ 

 紫雲を入院先の病院に送った伊勢谷は、靖徳を乗せて東名高速を西進していた。その後ろを、蓮行を乗せた多々良の車が付いて来る。他の僧、また修験者達は銘々の寺や滞在地へと戻っていった。今回、全員の中に死者や怪我人が出なかったのは不幸中の幸いであった。怪我人と言えば、既に怪我を負っていた紫雲一人であり、病院に戻った時は担当医にこっぴどく説教をされていたのだが。
 今回の一件で、伊勢谷は参加してくれた全ての者に感謝をしていた。そして、これまで心の内に抱えていた懸念を払拭出来た。それは、伊勢谷の周りの者達が伊勢谷を受け入れてくれたためだ。そんな伊勢谷の心にも、大きな変化が生まれていた。
「これからどうされるのですか?」
 助手席の靖徳が尋ねる。
「私は……」
 伊勢谷の言葉が一瞬詰まった。
「私は、今回関わったこの一件について、ジャーナリストとして情報を集めていこうと思っています」
「ジャーナリストとして、ですか」
「はい。この件、このまま終わるとは思えないのです。事の発端である、不幸を背負った子供達の集団昏睡と、その一部で目撃されている……黒い異物の姿……どうやら、ここ日本だけではないようなのです。そして、この件に否応がなく巻き込まれた者達もまた、異物に襲われています」
 靖徳は黙って伊勢谷の言葉を聞いていた。
「そんな彼等の姿勢が……彼等と出会えたことがきっかけで……私は再び、こうして御師匠様と出会えました」
「そんな貴方の新しいお仲間達を、貴方は守りたくもある……」
 静かに靖徳は返した。
「はい」
 伊勢谷が返事をする。
「ならば伊勢谷公博……いえ、徳安」
 伊勢谷が靖徳に視線を向ける。
「戻って来なさい」
「え……っ!」
 伊勢谷は驚きで思わず息を呑んだ。
「私の元にもう一度戻るのです」
 靖徳は繰り返して言った。
「靖徳様……御師匠様……」
「あれは浄土に行けぬ憐れな魂では既にない。魔物に成り果てし存在。あれからお仲間達を、人々を守るには……今の貴方の力では無理です」
 想像していなかった言葉を掛けられ、伊勢谷は驚きを隠せないでいる。
「誰かを守るための、大切なものを守るための力。それが貴方にとって、闇雲に求めるだけの力でなくなった今、私は貴方に術(すべ)をお授けします」
 靖徳はそう言って、伊勢谷のほうを向いた。
「気持ちだけでは何も守れません。ですが、気持ちのない力では誰かを傷付けるだけです。貴方には気持ちの十分に伴う力を、その気持ちにふさわしいやり方で、大切なものを守るために使って戴きたいと……私は希望しているのですが、如何ですか?」
 伊勢谷は身を震わせた。
「ええと、安全運転でお願いしますよ」
 靖徳は笑って言った。
「はい……」
 伊勢谷の目が潤む。
「……宜しくお願い致します」
 伊勢谷の言葉に、靖徳は笑みを浮かべたまま、黙って頷いた。

 多々良の携帯電話が鳴った。ハンズフリーで多々良は電話に出た。
「おお、治美?」
「次朗?」
 戸田治美の声は些か上ずっていた。
「ちょっと、あんた大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だ」
「ちょっ……あんたねえ! こっちがどれだけ気を揉んでるのか知ってんの? ニュース見てびっくりしたわよ! 何の連絡も寄こさないなんて……信じられない! この……馬鹿!」
 多々良の表情が歪むのを、ルームミラー越しに見た蓮行の口角が少し上がった。
「お、おい……同乗者がいるんだから……」
「そんなの知らないわよ、バカ次朗!……無事で良かった……」
 治美の声がけたたましさを失う。
「悪かったな、心配掛けて」
「それで……上手くいったの?」
「ああ。トルソはお仲間に回収された。一旦、延暦寺の坊さんと接触するらしい」
「坊さん」呼ばわりされ、蓮行は今度はミラー越しに多々良をじろりと見やる。
「……帰るのね、トルソ」
「だな」
「あの黒い化け物、また出たら……」
「それについては、伊勢谷が話をしてくれている。どえらい力を持った坊さん達が動いてくれるらしい」
「そう……」 
 治美の声が止まる。
「ありがとう、って……本当にありがとうって、伝えてくれる?」
「……ああ。必ず伝える」
「私達は信じているって、全て無事に収まるって信じているから、って……」
「おう」
「あと、七海ちゃんから……」
「ああ、須藤さんのことだろう? 分かってる」
「うん……」
「何?」
「次朗……」
「ああ? だから何だって……」
「早く……帰ってきて……」
「治美?」
「……会いたい」
「……ああ。済んだらすぐ飛んで帰るよ」
 電話が切れた。後部座席の蓮行は、何も聞いていなかったような表情で、頬杖を突きながら車窓の流れ行く景色を眺めていた。

   ※ ※ ※ ※ ※

「何も見えん」
 多々良が些か不服そうに言った。
「何も聞こえん」
 伊勢谷がぷっと吹き出す。
「何だよ?」
「そりゃそうだろ? 本来、普通の人間じゃ見えないもんだ。声も何も聞こえん」
「それって……何だか面白くねえな」
 時刻は午後十一時。多々良は今、チャーターした大型のボートに乗って、琵琶湖の湖面に浮いていた。傍には伊勢谷と靖徳がいる。
「でも、お前の声は向こうには聞こえているぞ」
「ふん」
「仕方ねえな……ほら」
 伊勢谷が右手を差し出す。
「な、何だよ! 薄気味わりいな……」
「お前さ、訳分からん誤解すんなよ。黙って手を握って、目の前を見て見ろ!」
 多々良は伊勢谷の顔をしげしげと見やってから、その手を握った。
 その途端、多々良の視界に巨大な黒色の飛空艇が飛び込んできた。ボートの右脇にアルバトロスの右翼が伸びている。機体のハッチが開き、そこからグランシュとトルソが姿を見せていた。
「うぉ……!」
「タタラ」
 トルソが声を掛ける。
「トルソ! 無事だったか……そっか!」
「ああ。随分世話になったな。感謝する」
「全く……最初から今の今まで、本当に驚かせてくれるな!」
 多々良は笑って言った。トルソの表情にも笑みが浮かぶ。
「タタラ殿……我が友を救って戴き、心より感謝する」
 グランシュが深々と頭を下げて言った。
「いや、救って貰ったのは……こっちさ。治美のこと、ありがとうな、トルソ」
 信濃町で治美を助けようとして飛び込んできたこと……多々良も頭を下げて礼を言った。
「治美も……トルソには本当に感謝しているって伝えてくれって言ってる。そして、信じていると……」
 トルソは大きく頷き、そして言った。
「信じることから全ての道は開ける」
 多々良と伊勢谷は頷いた。
「イセヤ殿、話は聞かせて貰った。そしてセイトク殿。貴方がたの尽力、心より感謝致します」
 グランシュの言葉に、靖徳はゆっくりと礼をして答えた。
「グランシュさん、頼むよ。あの真っ黒い連中、ぎゃふんと言わせてやってくれ」
 伊勢谷がにっと笑って言った。グランシュは笑みを見せて強く頷く。
「それと……」
 グランシュが続ける。
「スドウカズキ、そしてその息子であるスドウケイゴ。我等が責任を以って、女王アフェクシアと我等空間近衛騎士団の名に掛けて、必ず助け出します。そして、無事にこの世界に送り届けます。誓います」
 多々良の表情が真摯なものになった。
「ああ。頼む」
「御意」
 そして、グランシュとトルソは機内へと姿を消した。ハッチが閉じる。
「出発準備、整っております、総隊長殿」
 ブリッジでペイトンが直立姿勢で言う。エリュシネ宮殿を発つ時と同じだ。
「うむ。アルバトロス、出せ!」
 五基の推進エンジンの機動音が増す。そしてアルバトロスはゆっくりと浮上していった。
「……行っちまうな」
「ああ」
 多々良と伊勢谷は、頭上で高度を増すアルバトロスを見詰めていた。機体は十分な高度に達すると、エンジン出力を全開にし、一気に飛び立った。そして、比叡山の真上に当たる空域にある空間歪曲に飛び込み、その姿を消した。

 グランシュとトルソは今、共に来世へと帰還の途に就いた。

   ※ ※ ※ ※ ※

 時は少し遡る。

「何ですと?」
 漆黒の闇。あらゆる命の息吹の皆無な空間。そこに「傲慢」の声が響く。
「言った通りだ。やり過ぎるな」
 暗闇の中、両の緑色の眼光が禍々しい輝きを放つ。
「早々に潰してしまわないのですか?」
「傲慢」はその眼窩に赤く光る灯を、一層ぬらぬらと光らせて問い質す。「傲慢」や「卑屈」、その他の名を冠した異物達とは異なる色の光を持つ目を細め、「絶望」は答える。
「完全に潰す必要はない」
「ですが……」
 空間に満ちる周囲の闇よりも更に黒く、そして暗さを持つ靄が凝集し、それは一つの形を形成した。エジプトの古王国時代の石棺の如き様相……異物の代表格、現世と来世への侵攻を企てる軍勢の司令官たる存在。
 それが「絶望」。
「あの生ける子供の光が最大限に強まれば、我等には脅威となる……だが、最大限の闇へと転じたならば……分かるな?」
「はい」
「そのためには、あの父親の存在が不可欠だ」
「不可欠?」
「『傲慢』よ。貴様に一つ問う。人間の心を傷付け奈落へと叩き落すために、最も効果的な方法は何か?」
「傲慢」は少しばかりの間を空けて答えた。
「その者の……最も大事なものを、目の前で傷付ける……」
「ふむ」と、「絶望」は返した。
「その者が最も愛する者を、その者の見ている前で傷付け、破壊する……間違いではないが……」
 ゆっくりと「絶望」は目を開く。
「更に『その上』があるのだよ」
「絶望」は答えた。
「故に、あの者を今、完全に潰してはならぬ」

「機会を見て……あの父子には再会して貰わねばならぬのだ」


 
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