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リフレクト・ワールド(The Reflected World)

第二部 第五十章 奪還 【3】

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WARNING
UNITED STATES FORCES JAPAN INSTALLATION

IT IS UNLAWFUL TO ENTER THIS AREA WITHOUT PERMISSION OF THE INSTALLATION CONNANDER. UNAUTHORIZED ENTRY PUNISHABLE BY JAPANESE LAW (ART.2 KEIJI TOKUBETU-HO LAW – 138.7 MAY 1952). WHILE IN THIS AREA ALL PERSONNEL AND THE PROPERTY UNDER THEIR CONTROL ARE SUBJECT TO SEARCH PATROLLED BY MILITARY WORKING DOG TEAMS.

「警告 アメリカ軍在日施設
施設司令官の許可なくこの敷地内に入ることは違法である。無許可での施設への立ち入りは法律により罰せられることになる(刑事特別法第二章、138.7 一九五二年五月制定)。
当該敷地内では、管理下にある全ての施設職員並びに所有物は、軍用犬を伴う偵察班による巡視対象となる。」

「何だ。いないじゃん、犬」

 多少雲が浮いている夜空の下、多々良はくわえた煙草をくゆらせながら、横田基地の周囲を囲むフェンスに取り付けられた警告板を読んでいた。この刑事特別法と言う法律の正式名称は「日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定の実施に伴う刑事特別法」と些か長めなのだが、制定されたばかりの頃は「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う刑事特別法」と、驚くまでの長々しいものであった。
 車はエンジンを切った状態で、入り口が施錠されていない古い町工場の敷地に停められている。明らかな私有地への不法侵入になるのだが、多々良はあまりそのことについては考えようとしていなかった。警察ではあっても、また生活安全課に所属はしていても、そう言った「細かい」ことについては、無頓着な態度を決め込むのが多々良次朗と言う男である。 
 車の中では、延暦寺からやって来た蓮行(れんぎょう)と言う名の老僧が、しきりに念仏らしきものを唱えていた。伊勢谷からの連絡が入り、広大な敷地を囲むような形での所定位置に着いた各僧または修験者が、一斉に呪詞(じゅし)を唱えている。捕えられているトルソとグランシュ両名の「霊的パワー」を一時的に安全な範囲内にて弱め、現世で受けた様々な波動干渉の影響を削ろうとするものだった。これにより、現世の者とほぼ同じ組成となっていた二人の肉体を、本来の「思念体(僧達からすれば霊体)」に戻し、牢屋や壁、その他現世での障害物の身体に掛かる影響をゼロにすることが目的である。成功すれば、二人が牢であろうが密室であろうが、扉や壁を擦り抜けて出られることになり、また現世の者の肉眼には基本的に映らないことになる。結界が張られていれば通行の障害にはなるだろうし、また二人と「波長」の合う者からは姿が見られるであろうとするイレギュラー要素があったが、それについては伊勢谷や僧達もあまり気に掛けてはいなかった。
 このことについて、寧ろ大いに気に掛けているのは多々良であった。元々がオカルト的な話や非現実的な物事に対して嫌悪感を覚える男なのだ。今行われている「作戦」をすんなりと受け入れられよう筈もない。
 そんなわけで多々良は車を降り、夜空の下で一人、煙草をくわえているのだ。フェンス沿いにぽつりぽつりと小さな外灯がある。明かりは月の光とその外灯、そして多々良の煙草の燃える光と、所々に見受けられる民家の明かりのみだった。
 草むらから虫の鳴き声がひっきりなしに聞こえてくる。
 多々良の携帯電話がバイブレーション機能が作動している。見ると、戸田治美からの電話着信だ。
「治美か?」
 多々良は電話に出た。
「ええ。次朗、もう……始まっているの?」
「ああ。今、坊さんが一斉に数珠持ってぶつぶつやってるさ」
「そう」
「どうした?」
「ああ……いえ、それが無事に終わったら、トルソさんはそのまま『帰る』のよね?」
「さあ、そこまでは分からんが、恐らくはな」
「私、ありがとうって……一言伝えたかったから……」
「ありがとう?」
 治美の話し方は静かだった。
「うん。私、ほら、信濃町で助けて貰っていたから……よく考えてみたら、まだちゃんとお礼を言っていなかったから」
「ああ、そっか……」
 黒色の異物に二度目に遭遇し、襲われたところをトルソやシュナ、ヴィクセンの三人の空間近衛騎士団員が介入している。シュナ、ヴィクセンの二人のことを多々良は知らなかったが、それでもトルソがあの場にいなければ、如何なる事態になっていたか。また、新宿での二度にわたる異物との対戦も、当初はトルソが自分達を騒乱に巻き込んだと言う思いが強かった。しかし、パラディンと名乗る者の襲撃や米軍の介入を目の当たりにし、多々良の中の個人的な被害観が消えることに、さほどの時間も要さなかった。今置かれている状況に対し、自分が何を行うべきか、何が出来るのか。その方向へと多々良の思いはシフトしていった。
 どちらかと言えば、多々良は自身のエゴに忠実で、比較的言いたい放題、やりたい放題なタイプの人間であった。そして、その言動の中心には常に自分があり、誰かを思っての行動であっても、実際は自身の欲求や感情、感覚に重きを置いてのものであった。その多々良が、今回は誰かのために動いている。過去に付き合った仲で、現在では良きパートナー的感覚を抱いている治美のためだけでなく、このような非日常的極まりない危機の中、不特定の誰かのために行動をしている。職務だからだけではない。いや、寧ろこの件については、関わることを業務命令として禁止されている。
 では何が多々良を動かしているのか。
 衣食住については問題ない。誰かと関わることに対しての欲求は満たされている。仲間もいれば治美も傍にいるからだ。警察官としての多々良は、決して同僚や後輩から尊敬されているわけではない。だが、そのことに渇望を覚えているわけではない。児童福祉司としての治美と自分とで「釣り合い」が取れた仲だと言う感覚があり、時折関わっている件によっては、互いに協力もしている。互いの職務を認め、敬意も持っている。多々良はそれで良かった。自身を主眼としての欲求を感じているとは、自覚など全くない。何故自分がこんなことに足を突っ込み、深入りし始めたのか、多々良は気付いていなかった。
 最初は全く理解し難い件にぶつかり、それとは関わりたくないと思っていた。ところが、治美がこの件に自身の予想以上に絡みだしていることを知り、今度はそれが何なのかを暴いてやりたいと言う欲求が生まれた。そして今。自身の生きる日常に災いを為すこの事態を食い止め、日常を、自身の生きる環境を改善したいと思っている。特に意識こそしていないが、強いて言えばそう言う具合だ。それも人としての欲求の一つではある。そして、そのことに見返りを求めてもいない。見返りではない。この行動を通じて求めるものがあるとするならば、最終的には自身の「充足感」であろうか。全てが元の鞘に納まり、納得出来て、周りも落ち着き、自身の心のざわつきに平穏が訪れ、最後には……
 らしくない。何をうだうだと考えているのだろう。
 多々良は右手に持っていた煙草の火が消えていたことに気付くと、百円で購入した携帯灰皿に吸殻をねじ込んだ。
 そして、視線を基地の中へと向けた時である。
 夜空に鈍い音が響き始めた。多々良の眉間に縦皺が寄る。
「何だあ?」
 それは警報だった。非常事態を知らせる、基地内のサイレンである。

   ※ ※ ※ ※ ※

「止まれ!」
「捕虜の移動命令は出ていない!」
「ケイヴ! ニック! 何を考えているんだ!」
「馬鹿なことは止せ!」
 銃を手にした米兵達が口々に呼び掛ける。
 アウグストを連れだしたケイヴとニックと呼ばれた二人は、直角に曲がった通路の壁に隠れ、その向こうにいる兵達を警戒していた。二人の手にも短銃が握られている。
「発覚が思いの外早かったか!」
「連中の後ろまで行ければ、外に出られるのに……ちいっ!」
 アウグストの表情は変わらない。寧ろ、
「私が捕虜?」
と漏らして、ふんと鼻を鳴らしていた。
「我々は聖なる父の僕……ならば神の代弁者たる貴方様をお守りすることが全て!」
「貴方様をお守りするならば、如何なる犠牲を払ってでも……神はお許しくださる!」
 二人の新兵の狂信的な物言いに対し、アウグストは無言で返す。
「ならば……!」
 ケイヴが銃を構えて飛び出した。
「止めろ!」
 銘々がそう叫び、アウグストを追う兵達は、一斉にケイヴに銃口を定めた。だが、ケイヴが狙っていたのは兵達でなく、その頭上にあるスプリンクラーであった。丸い円盤状の放水器が取り付けられており、それは外部から刺激を与えれば、容易に水を一定時間噴射する仕組みになっている。
 ケイヴはこの放水器向けて銃弾を放った。
 この新兵が、仲間達の放った十数発の銃弾を受けて倒れるより早く、銃弾を受けた放水器は多量の水を噴射し始めた。そして連鎖的に、他の放水器からも水が暴力的に噴出し始める。
 頭上からの多量の水が降り注ぎだしたことで、兵達は一瞬怯んだ。そこをニックが短銃で狙い撃つ。乾いた銃声は水のほとばしる音に掻き消されることはなかった。建物の出口扉の前には、正確に額を撃ち抜かれた兵達の骸(むくろ)が重なり合っている。
「パラディン・アウグスト! 今です!」
 ニックが叫ぶ。アウグストは倒れたケイヴの傍に屈んだ。目を見開いたまま、ケイヴは絶命している。アウグストは右手の指先で、ケイヴの瞼をそっと下ろすと、十字を切り、自身の右手の指の腹に口付けをし、その指をケイヴの唇に静かに当てた。
「神の御許に召され、安らかに眠られよ。汝こそ、尊き神の僕也」
 アウグストはそう言い残し、ニックと共に外へと駆け出して行った。
 出た所から十メートル程離れた所に、一台の五ドアの乗用車が停まっている。
「お乗りください!」
 ニックはそう言い、慌てて助手席の扉を開け、アウグストを促す。間もなくして、車は勢い良く走り出した。

 倒れている兵達の肉体から、靄のようなものが立ち昇り始めた。それは人の形となり、先程まで動いていたままの兵達の姿になった。彼等はお互いを、そして床に崩れ落ちている自身の肉体を、信じ難いとでも言いたげな表情で見詰めている。それは誰にも見えない、いや、トルソとグランシュには見て取れる光景であった。
「何てことを……!」
 苦々しい表情を浮かべて、トルソは言葉を漏らした。剣を持つ右手が微かに震えている。
「……先を急ごう」
 同様に、苦虫を噛み潰したような表情をしたまま、グランシュもトルソを促した。
 伊勢谷が放った式神の元となった紙にあった地図を思い返しつつ、二人は建物の外に飛び出すと、月光と外灯の明かりに照らされた芝生の上を走り出した。敷地内には警報の音が鈍いまま鳴り響いており、ライフル銃を肩に掛けた兵達が、ジープに乗って走り抜けている。軍用犬の吠える声も聞こえてくる。
 そんな中、グランシュははたと足を止めた。
「隊長?」
 トルソも足を止めた。
 その時、トルソはこの敷地に近付いてくる異様な気配に気付いた。
「これは……!」
 グランシュが返す。
「どうやら、我々を狙っているのは……ここの者達以外にもいるようだ」
 二人は剣を構えつつ、再び第十二ゲートに向けて走り始めた。

   ※ ※ ※ ※ ※

 伊勢谷の表情に更なる緊張が走る。
 呪詞を唱えている靖徳も、近付いてくる気配を察知した。唱え続けながら、閉じていた両目をゆっくりと開く。
「やっぱり……来やがったか!」
 伊勢谷は吐き捨てるように言うと、ゆっくりと車を降りた。靖徳の唱えているものとは異なる呪詞が筆で書かれた十数枚の白い紙をボンネットに一枚ずつ並べると、伊勢谷はそこで「印」を結んだ。紙は白き八咫烏(やたがらす)の形をした式神となり、一斉に基地内へと飛び立っていった。
 伊勢谷は険しい表情で夜空を見上げた。そして目を凝らした。
 近付いてくるものがある。
 夜空よりも黒く、傍目では風に流されている雲に映るもの。
 だが、それは雲ではなかった。夜風の吹く方向に逆らって流れてくる雲などない。それは大量の細かい粒子の集まりのように、伊勢谷の目に映っていた。
 その「粒」の形は一つではない。球に短い手足を生やしたゴブリンのようなものもいれば、槍を持った人魚のような姿のものもいる。翼を二対生やした双頭の烏のようなものもあれば、不定型でせわしなく動くものもある。
 伊勢谷の目にはそれらがしっかりと映っていた。
 異物の群れである。かつて女王アフェクシアが転生する前、リーガン・アブダイクとしての姿で生きていた町を破壊した、大小様々な無数の異物の大群である。ただ、数に物を言わせたかのような大群ではあるが、一体ごとの力は弱い。伊勢谷でも戦える程度のものだ。問題はその怒涛のような数だ。
 そして、問題はもう一つ。その黒色の異物の群れの後方には、明らかに別格の力を持つ存在がある。
「こんな時に……ちっ!」
 伊勢谷はそう吐き捨てるように言った。
 それは異物の雑兵ではない、名を持つ異物である。
 グランシュ達をこの世界に引きずり込んだ異物、「卑屈」が迫っていた。

「これは……敵です! 異物の群れが該当地に怒涛の如く押し寄せて来ています!」
 索敵班の者が声を上げる。
「何と言うことだ! こんな時に……」
 ペイトンが苦々しく言う。いや、こんな時だからこそ、連中は嗅ぎ付けてきたのだろう。ここで待機を解いて動くか? 連中をアルバトロスで引き付けるか?
「いや、無理だ」
 ペイトンの脳裏には、かつての乗艦であった「サンクトゥス・クラトール」が異物の群れに襲われ、蜂の巣状にされた記憶がよぎっていた。自分達にはあの異物に対抗する有効な手段が見出せないままにある。そして、万が一にもこの機体を失うことになれば、トルソやグランシュを元の世界に連れて帰れなくなる。それは絶対に避けねばならない。
 伊勢谷達と話して、時間になったら所定の場所に機体を寄せることになっている。その時間まであと一ホールス。
「彼等を……そして、隊長と副隊長を……信じよう」
 ペイトンの背に嫌な汗が流れていく。
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