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リフレクト・ワールド(The Reflected World)

第二部 第四十九章 奪還 【2】

 ←第二部 第四十八章 奪還 【1】 →第二部 第五十章 奪還 【3】
 黒き水面に白波が立ち、それは左右へと広がっていく。夜の闇にも似た黒色の機体は耳に響くエンジンの機動音を立てて、海面すれすれの高度を、ぐるりと大きな周回軌道を取りつつ飛行している。その音はあまり大きくはないが、金属音にも似た高い周波で出されたもので、聞く者の耳にきんとした残音を残す。その機体は黒色ではあるものの、些か空間が「捻れた」様に見受けられるだけで、黒色なのか異なる色なのか、東京湾内にいる者の肉眼には全く分からない。夜であるからだけでない、光学迷彩のおかげで昼日中でも識別は不可能であろう。
 レグヌム・プリンキピス王政連合首長国所属、空間近衛騎士団専用高速飛空艇「アルバトロス」。その外見は、大型の鳥グリフィスが模された姿をしている。
 艦長のペイトンは、長い間を騎士団隊長グランシュと共にいた。自身の所属する騎士団の隊長であるからだけではない。騎士団による機動艦隊の旗艦の艦長を務めているからだけでもない。ペイトンは、グランシュの人柄に信頼を置いている。騎士団入隊時の、「若気の至り」と言う言葉の意味をそのまま具現化したような、それでいて他人に対しての不信感を払拭出来なかったグランシュもペイトンは知っている。その後、自身の中の壁を乗り越え、成長し、今に至る迄の経緯も見てきている。だからこそ、人の暗き一面を他の誰よりも知り、そのことを踏まえ、その上で前へ進ませんとする、共に進んでいこうとするグランシュを、ペイトンは理解し、敬意も持ち、そして信頼している。だからこそ、そのグランシュがこの世界にて囚われの身になったことを聞き、人一倍の動揺をも覚えた。危惧もしている。
 セイトクと言う名の僧に紹介された男であり、騎士団副隊長トルソを知るイセヤなる者からの情報。その者はまた、漆黒の負の思念体のことも知り、そして対戦までしたとも言う。ペイトンはイセヤキミヒロと言う男を知らない。だが、その目と言葉に、彼を信用するに値せずとする判断をさせない力を感じさせる。
「貴方が我々の隊長、そして副隊長を助けたいと言う、その理由は何ですか?」
 靖徳と共にアルバトロスに現れた伊勢谷にペイトンは訊いた。
「この世界に侵入した敵を倒すために、その力が必要だからですか?」
 伊勢谷の目をペイトンはじっと見た。その目から視線を微々とも動かさないまま、伊勢谷は答えた。
「彼は希望です」
「……希望?」
「この世界、現世だけにあらず、貴方がたの世界にとっても、心を持ち生きる全ての者にとって、トルソは大きな希望だからです」
 伊勢谷の眼光が強くなった。
「そして、トルソは我々にこの危機を教えてくれた。我々はそれについて考え、動くことが出来る。彼が我々に、その身を以って伝えてくれたからです。我々はそれに応えます。そして、今度は我々が彼の危機に対して応える番です。そして、共通の脅威に対して動く、彼の同志、仲間としてありたい。トルソは我々にとっては、既に仲間なんです」
「仲間……副隊長が貴方がたの仲間……」
「そして、そのトルソが会わんとしていた、会うことを望んでいた隊長と言う方……我々がトルソの危機に対して応えると言うことは即ち、その方を助けることでもあります」
 ペイトンは更にじっと伊勢谷を見詰める。
「副隊長は貴方からすれば仲間であり、希望でもある。その副隊長が会おうとしていた隊長も……貴方には同じく仲間であって、また希望……故に隊長も助けたい、そう言うことですか?」
 伊勢谷の拳が震える。声が荒ぶる。
「……今は演繹法の授業の時間じゃない! 御託も前置きも不要だ! 私は……俺達は二人とも救い出したい! 救わなきゃならないんだ! トルソに応えるためにも!」
 ペイトンの肩がぴくりと動く。続いてペイトンは顔を下に向け、口角を緩ませた。
「いや、失礼しました。イセヤ殿、我々騎士団の隊長、並びに副隊長を救い出そうと言われる貴方のお気持ち、誠に感謝致します。ですが、如何なる方法で?」
 伊勢谷は一呼吸置いてから、
「説明します」
と語り始めた。

「で……艦長はあのイセヤと言う者をお信じになられたのですか?」
 操縦桿を握る航行班の者が訊く。
 ペイトンは左右の両腰に手を置き、息を一つ吐いて答える。
「あの者のことは私は知らぬ。副隊長殿はご存じなのかもしれんが……ただ、何にせよ、あのまま湖の上に枯葉のようにふらふら浮いていたって仕方あるまい? 僅かな手掛かりでもあれば、そしてお二方を知ると言うこの世界の者がいるのならば、行動するに値するのではないか? 特に現状においては、だ」
 そう言うと、ペイトンは策的班の者に声を掛ける。
「ただ、周囲への警戒は怠るなよ。ここでの我々の存在は微妙だからな」
「はっ!」
 策的班の者は短く返すと、外部カメラから届く複数の映像に目を凝らす。プローブを上空に打ち上げ、そこからの情報を元に機体のレーダーで索敵をすることも出来るが、万が一この国の軍隊に察知されると厄介なことになる。今やペイトン達も、アルバトロスも、この現世の物質組成に同化し、具現化してしまっているのだ。国籍不明機が首都近くの湾内をうろうろしていれば、海上保安隊か自衛隊が出てくるであろう。現世の人間との交戦は避けねばならない。
 そのうち、索敵班の者が「あっ」と声を漏らす。
「どうした?」
 ペイトンが訊く。
「これは……」
 その者が言う。
「南の方角より未確認の飛行体が……!」
「何だと! ここの軍か?」
「分かりかねます……これは……」

   ※ ※ ※ ※ ※

 トルソの両眼が大きく見開かれている。
「たい……隊長!」
 目の前にグランシュがいる。騎士団の金色の甲冑を身に着けてはいないが、こちらの世界で用意されたと思われるスーツ姿ではいたが、そこには間違いなく、グランシュが立っている。
「トルソ……無事だったか!」
 トルソのいる牢の隣に収監されたグランシュは、格子の合間から両腕を入れ、トルソの両肩に手を置き、がっしりと力を込めた。
「捜したぞ!」
 グランシュの表情に安堵の笑みが浮かぶ。
 その光景をアウグストが淡々とした表情で見やっている。グランシュの牢とアウグストの牢とで、トルソのいる牢を左右から挟み込む形になっていた。
「隊長……申し訳ありません!」
 そう言うと、トルソは深々と頭を下げた。
「アラキノフスにて敵と交戦に至り、そのままここの世界に引きずり込まれる結果に……」
「そうか。貴様が消息を絶った空域に、僅かながら空間歪曲の形跡を発見した。恐らくはと思っていたが……そうだったのか」
「はい。奴はこの世界に下り立ち、街を……破壊し、人命を……奪いました。それだけではありません。センチュリオンの意志に背き、勝手に行動している一部の敵が、既にこの世界に下りているとの情報を得ました」
 グランシュの表情が険しくなる。そのことは、細部はともかく、延暦寺の僧から話に聞いていた。
「ああ……私もそのことについては聞き及んでいる。私も交戦した」
「私と隊長を会わせる算段をしていた者から、隊長が列車で向かう予定である旨を聞いておりましたが……まさか、あのような事態に陥るとは」
「奴は、あの黒き異物は『卑下』と名乗っていた」
「私が対峙しましたのは、『畏怖』、『抑圧』、そして『傲慢』……そのうち、『傲慢』には逃げられました。恐らくはもう、我等の世界へと戻っているでしょう。捜索中の父子のうち、父親を潰すと言い残して……」
 グランシュはトルソの肩から両手を話すと、ふうと大きく息を一つ吐いた。
「事は思いの外、進行してしまっているようだな」
「はい」
 すると、二人の会話に突如、アウグストが割って入った。
「エウリミーニョ……ジョゼ・コインブラ・エウリミーニョを知っているな?」
 トルソとグランシュが各々にアウグストに視線を送る。
「トルソ、あの者は?」
「私を……襲ってきた者です」
「何だと?」
「私を……神の存在を否定する者だとか申しまして。パラディンと言う組織の者だそうです」
 グランシュには、パラディンの名も聞き覚えがあった。琵琶湖にて、紫雲がエウリミーニョを追い払った直後に口にしていた名である。
「エウリミーニョはどうした?」
 再度、アウグストが問う。グランシュは険しい表情のまま、二つ隣の牢からこちらに視線を注いでいるアウグストに返答した。
「その者は……異物に憑かれ、その体を憑拠とされ、そのまま私を襲ってきた。途中で異物は離れていったが……その者の生死は私には分からぬ。彼は事故現場に来ていた救助隊の手により運ばれていったが?」
 その返答を聞き、アウグストは黙ったまま床を見詰め、次いで天井を見上げた。
「やはり……お前達より先に、あの悪魔を何とかせねばならんようだな……」
 同じパラディンであるヴァンサンを上野で襲い、新宿ではライアンの命を奪い、モイールに憑依し、そして西ではエウリミーニョもまた、モイールと同じ目に遭わされた。アウグストには可笑しくない笑いが込み上げてきた。エクソシストによる武装精鋭部隊、パラディン。それがこうも全く手が出せないまま、いいように弄ばれている。
 何と言う失態なのか。完全に非力な存在ではないか。そう思うと、アウグストには皮肉とも自虐とも捉えられる笑みしか浮かんでこなかった。
 だが、目の前にいる二人の「来世からの使者」は、少なくともパラディンよりは異物に立ち向かえる実力があるようだ。
 アウグストはそう判断した。

 廊下の奥にて、再び金属製の扉が開かれる音がした。
 二人の米兵が歩いてくる。二人とも二十代だろうか、若い新兵のようだ。二人はアウグストのいる牢の前に来ると、その場で床に膝を付けて言った。
「パラディン・アウグスト……神の恩寵と御加護を貴方様に」
 アウグストは体勢を直し立ち上がると、
「お前達は?」
と訊いた。
「監視カメラは今、もう一人の同志が二日前の録画映像を繋いでおります故、御安心下さい」
「貴方様はこんな所におられるべきではございません」
 二人が銘々に言った。彼等はパラディンを信奉するカトリック極右派だった。
 一人が牢の鍵を取り出す。
「待て」
 アウグストは牢を開けようとする兵を制すると、その者の傍へ行き、何やら小声で語り掛けた。それを聞いた新兵は怪訝な表情で、トルソとグランシュを見詰めた。
「……私の言葉は教皇、法皇様の言葉であり、私は聖なる父の代弁者でもある」
 アウグストは相変わらずの淡々とした、そして冷たい視線をトルソ達に向けながら言った。
「仰せのままに、パラディン・アウグスト」
 新兵二人はそう返事をすると、先程来た道を戻っていった。アウグストは格子の壁に寄り掛かり、腕組みをした体勢で、尚もトルソ達を見詰めている。
「何だ?」
 トルソが呟く。
「ところで……何か妙な感じがしないか?」
 グランシュが小声でトルソに問う。グランシュは訝しげな、それでいて何処となく意外めいた表情を浮かべている。
「……隊長も……お感じになられますか?」
 トルソもグランシュと同様に、妙な感覚を覚えていた。体から力が抜けていくような、それでいて立っていたり、歩き回ったりすることには何の支障もない、実に不思議な感覚。まるで、身に纏っている余計な衣類を何枚も脱がされているような、それで身軽になっていくような感覚なのである。 
 そのうち、先程の新兵二人が戻ってきた。それぞれ、手に長めの布袋を抱えている。その袋を受け取ったアウグストは、その中身を取り出し、格子の合間からトルソの牢の床へと放り出した。がしゃりと金属音を立て、床を滑ってトルソの足元に届いたものは、二本の「剣」だ。
「これは……どういうつもりなのだ、アウグストとやら?」
 トルソが問う。その二本の剣は間違いなく、トルソとグランシュのものだ。
「……いずれまた出会った時は、その時は私も遠慮はしない。父イエスの存在の否定に繋がるお前達の存在を、私は容認出来ぬ」
 アウグストの牢の扉が開かれた。
「だが、お前達以上に容認出来ぬ存在がある。お前達のことはそれからだ」
 淡々とした、何時もの口調でアウグストはトルソに言い放った。そこには、先程の精神高揚ぶりは窺えない。
「私がお前達に手を下す前に……やられるではない」
 そう言い残すと、足早にアウグスト達三名は、廊下の奥にある扉の向こうへと消えていった。

 残された二人の体を襲う、脱力感または解放感にも似た感覚は、どんどん激しさを増していた。決して立っていられないとか歩けないとか、如何なる行動上の制限を受けているわけではない。
 寧ろ、トルソには以前に身に覚えのある感覚を取り戻しつつあった。
 以前に女王アフェクシアの命により、監視団として現世に下り立った時の感覚である。
「これは、まさか……!」
 トルソがそう言葉を漏らした時、何か小さなものが足元を駆け抜ける姿を視界に捉えた。
「ネズ……ミ?」
 トルソは足元を見た。
 そこに一匹の真っ白な鼠がいる。トルソの見る前で「それ」は腹を天井に向け、体を痙攣させるような身動きをした。その直後、その体は変形し、一枚の紙になった。
「トルソ! 見てみろ!」
 グランシュが声を上げた。だが、それは鼠が変化して紙となった姿を指しているのではなかった。
 二人の肉体の外見上の輪郭が薄らぼやけ、手を伸ばせば格子に触れることなく、互いの牢を行き来出来るようになっている。
「隊長……」
「うむ。どうやら、我々は現世における何かしらの干渉を受けなくなっているようだ。この世界に来た当初の状態に戻りつつある」
「では!」
「ああ、そうだ。こんな所に居続ける必要はない!」
 トルソとグランシュは互いを見やり、手を握り合った。
「……その足元の紙に、何やら書かれているようだが?」
 グランシュがトルソの足元を指して言った。トルソは屈んで、紙にある文を読み上げる。
「Tu autem inde exibunt. Egredere. Ibi descriptionem vobis mittimus. Te exspecto vicesimo porta. (今ならそこから脱出出来ます。出てください。そこの地図を添付しておきます。第十二ゲートで待っています)」
「何だと? それは?」
 驚いた表情で訊くグランシュに、トルソは答えた。その表情に笑みが戻る。
「この世界での……我々の仲間からです!」


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